第四話
読みにくい表現があると思いますが、よろしくお願いします。
最終話です。
ヒロは肩が誰かによって揺さぶられるのを感じ、夢から覚めた。
「…ロ、ヒロ、裕乃。」
「う~ん…?何?」
「そろそろ起きようよ。」
「………?」
ヒロは長い夢を見ていたせいか、目の前になぜタクがいるのか分からなかった。
「なんでここにいるの?」
「へ?俺の部屋だからだよ」
「何してるの?」
「ヒロを起こしてます。寝惚けてるの?」
「…………。」
「ちょっとストップストップ。寝ないで!起きて!クリスマス始めようよ!ヒロ~」
ヒロはその声で覚醒した。
「クリスマス!今何時!?」
「今は午後4時です。」
「なんで起こしてくれないの!?」
「なんでというとですね…」
「うん?」
「閣下はお昼寝をしているときは2時間は寝かせないと、寝起き直後の狂暴さが酷いからです。」
「…何それ?」
「前に1時間で起こしたところ全力キックを3発ほどボディーにくらいました。」
「そんなことあった?」
「はい!その後再び安眠してたので覚えて無いんだと思われます!閣下!」
「ふーん。てか、何その口調?」
「はい!閣下が少々お怒りモードのようなので御許し頂きたく存じ上げます!」
「バーカ。」
タクはいつもこうだった。ヒロが怒ってるとき悲しんでいるときつらいときいつもわざとふざけてヒロを笑わせてくれた。ケンカをしてもヒロが全面的に悪くなければタクが必ず土下座して謝ってくれた。それを申し訳なく思っていると、「大人の余裕ってものをみせつけてるだけだから良いのさ。さぁ、幼き子よ。この余裕を崇め奉れ!」と言われた。もちろんこの後のタクに災難が訪れたことは言うまでもなく。しかし、ヒロは“年上の余裕”ではなく“タクの懐の深さ”で成せているのだと分かっていた。
タクと付き合いだしてヒロは目に見えて心が安定していった。噂が流れる前でも自分の発言に自己嫌悪に陥ったり、他人の何気ない発言をずっと気にしたりと、人前では平気そうに振る舞っていても内心では落ち込むことが多かった。それが無くなった。厳密に言えば、心の切り替えが上手くいくようになったのだ。ヒロはタクに出会えて本当に幸せだった。
「さて、バカなことやってないでクリスマスを始めますか!」
「バカって言われた~泣いてやる~グレてやる~」
「そういう子にはご飯抜き!」
「更正しました!」
「よし!」
二人は笑いながら準備を始めた。
2時間後、テーブルには唐揚げ・サラダ・お稲荷さん・シチューにケーキと様々な料理が並んだ。
「ハッピーくりすまーす!」
ヒロが乾杯の掛け声を発した。
「普通メリークリスマスじゃない?」
「ハッピーくりすまーす!」
「メリークリスマスじゃないの?」
「ハッピー!くりすまーす!!」
「だからグハッ…!」
間違いを指摘し続けようとしたタクの頭に痛烈なチョップがヒットした。
「は、はっぴ~くりすまーす!」涙目になりながら応じるタクを見て、笑いながらヒロはグラスをならした。
「もう少しおしとやかになりな「何か?」」
「イエ、ナンデモアリマセン。ワァ、カラアゲオイシイ!」
「そういえば、タクは今日どこいってたの?」
「これを買いにですよ。」
そう言ってタクが差し出したのは猫の縫いぐるみだった。
「…?タクって少女趣味があったの?」
「なんでそうなるんだい!?ヒロにって決まってるでしょ!」
「へ!?だってもうカバン買ってくれたじゃん!?」
タクはプレゼントを選ぶのが苦手なため、イベントがあるときはあらかじめ一緒に行き、ヒロが選び、タクが買う方式をとっていた。ちなみに当日に行かないのは、当日は二人きりでまったり過ごしたいというバカップルな理由からだ。
「あ~、あれは俺からヒロへのプレゼントでしょ?これは厳密に言えばヒロから俺へのプレゼントだから。」
「私が貰うのに?」
タクの言っている意味が分からないヒロはクエスチョンマークが頭の中で回っていた。
「とりあえず、受け取ってよ。ちなみにクーリングオフは無し!返品も不可!永久保証付き!」
「へ、へぇ~。」
今までにないタクの勢いにヒロは驚きつつも猫の縫いぐるみを受け取った。
「ありがとう。可愛い。」
ヒロは縫いぐるみを抱き締めた。すると、縫いぐるみにはない固い物の感触が腕を刺激した。縫いぐるみをひっくり返したりしてよく見るとお腹の辺りにチャックがあった。
タクをチラッと見るとタクは唐揚げに夢中なのか一心不乱に唐揚げを口に運んでいた。その様子からなにも言いそうにないことを悟ったヒロは怪しみながらチャックを開けると小さな小箱がありその中には指輪があった。
「…!?…!?」
なぜか辺りを2度見回すという行動からヒロがどれほどパニックになのか分かったのだろう。タクが口に入れすぎている唐揚げを必死に飲み込んだ後言った。
「ヒロは社会にでて1年も経ってないから最近会社にやっと慣れ始めた頃だし、まだ考えられないと思うし、俺もまだ2年という若造だけど、頑張るから俺と結婚の約束をして欲しい。いや、して下さい。」
緊張のせいか最初何を言っているのか分からなかった。タクらしくなく、ロマンチックな演出をしようとしたのだろう。なのに唐揚げ口に入れすぎて、まだ口はモグモグしている上に言葉はグダグダ。ヒロはちぐはぐな状況に笑いが込み上げてしまった。
「あはは…き、キッザ~!」
笑いが止まらず息もたえだえ言うとタクは緊張が解けたのかいつもの調子で応じた。
「ひどいわ!一生懸命考えたのに!ロマンを感じなさいよ!」
「無理!タク、唐揚げ口に詰めすぎだから!必死になって飲み込んだのにまだ口に残ってるとか!」ヒロはそんなタクが好きだった。気取ることができないカッコ悪いタクが愛しくてたまらなかった。
笑いが収まったヒロは真剣な面持ちでタクと向き合った。そんなヒロの様子をタクは息をのんでみつめた。
「これからよろしくお願いします。」
ヒロは頭を下げてにっこり笑った。一瞬固まったあと、タクは満面の笑みを向け叫んだ。
「やったー!」
「声大きいよ!」
「いいんだよ!こんな日くらいお隣さんを気にしなくても!」
子供のようにはしゃぐタクを見ながらヒロは笑った。
それは、苦笑でもなく、おかしいからでもなくただ幸せを噛み締めた穏やかな笑みだった。
2人が出会ってまだ3年しか経っていない。2人のこれからは続くのだ。
~Merry X'mas~
ありがとうございました。
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