第二話
少しドタバタしてます。よろしくお願いします。
そんなときサークルの忘年会があった。
本当は行きたくなかったが付き合いが悪くなった埋め合わせだなどとシノに押しきられてしまったのだ。忘年会が始まった瞬間にヒロの周りは閑散とした。最初の方はシノも隣にいたが友達に呼ばれ、さっさと行ってしまった。
シノは何がしたいの…?孤立しているところをわざわざ見たいわけ?
周りがワイワイと盛り上がれば盛り上がるほどヒロの心の中にはどす黒い考えが渦巻いていった。そんな自分にも嫌気がさし、そろそろ帰ろうかと思ったとき、一人の男がやって来た。
「初めまして!」
「はぁ。」
「俺、高橋拓って言います。皆からは呼びにくいとかでタクって呼ばれてます。よろしくお願いします。」
「はぁ。」
突然の丁寧な自己紹介に空返事で答えながらヒロは警戒していた。
何が目的なんだ?
疑心暗鬼になっているとタクは口を開いた。
「ずっと気になってたんですけど…」
来たとヒロは思った。きっと噂についての是非を罰ゲーム感覚で聞いてこいとでも言われたのだろう。そう思ってヒロが身構えていると、タクが腰辺りを指差して言った。
「パンツ見えてますよ。」
予想していたものと違い虚をつかれたものの相手の目的が分からず、ヒロはなかばイライラしながら投げやりに言った。
「あえて見せてるのよ。」
「え?なんで?」
「男を誘うためよ。」
ヒロはどうだとばかりにフンと鼻で笑った。するとタクはいきなり大笑いをし始めた。
「アハハハハハハ…そんなんじゃ無理でしょ。無理無理!」
「なんでよ!?」
「だってそれお臍まですっぽりタイプでしょ?そんなんじゃあ、男はムラムラどころかドキドキもしないよ。変態は喜ぶかもしれないけどね。あ!もしかして変態狙い?だったら納得~。」
タクはまだ笑っていた。ヒロはその笑いにキレた。ひらひらと顔の前で振っていた手を掴み、指を関節が曲がるのと逆の方向に折り曲げた。
「あだだだだっ!ギブギブ!ロープロープ!」
「すいませんは?
すいません!した!ごっ御慈悲を!」
「よかろう。許してしんぜよう。」
「有り難き幸せ!って誰だよ!こいつが男好きだの言ったの!こいつ俺の指折ろうとしたぞ!男好きはな普通男に優しいもんなんだぞ!男を誘いたいならそれこそどこかで優しさ買ってこい!」
タクは訳の分からないことを叫んだ。しかし、ヒロは叫んだ内容に聞き捨てなら無いことが含まれていたため、離した指を再び掴み、折り曲げた。
「あだだだだだだ!すいません!口が過ぎました!生言ってすいません!お許しを!」
「もうしない?」
「しないしない!指にかけてしない!」
「なら、よし。」
「ゆ、ゆびがへん…」
「何をしてんだ。何を。タクが馬鹿なことしたのか?」
「違うよ!俺は真っ当な指摘をしただけだ!」
そのタクの発言にキッとヒロが睨むと、タクはサッと手を背中に隠した。
「何を指摘したんだ?」
「えっと~…臍まですっぽりタイプのパンツを見せてじゃあ、男は誘えないと…」
タクが目を若干泳がせながら、というかヒロを見ないようにさ迷わせながら言うと、寄ってきた男が豪快に笑い出した。
「ダハハハハハハ…!臍までで男を!変態狙いか!」
「やっぱりそう思いますよね!」
寄ってきた男の発言に勢い付くタク。そんな二人の様子を見て、ヒロはにっこりと笑うと右手でタクの指を、左手で寄ってきた男の指を掴み、曲げた。
「「あだだだだ…!」」
「全てはタクのせいだ!責任はタクに!」
「俺に擦り付ける気か!あんたが笑ったから悪いんだろ!」
「同罪!」
「「いでででで…!すっすいませんした!」」
「よし。」
「ふぅ~。噂と全然違うなぁ。」
「………。」
「名前何て言うの?」
「篠原裕乃。」
「篠原さん。一つ言っておきます。」
「何よ?」
「女の子はもっとおしとやかにいゲフッ…!」
「やべぇ!タクが篠原さんにボディーブロー食らってやぶれた!この子狂犬だ!注意しグハッ!」
ヒロは男にもボディーブローを食らわした。
「篠原さんて乱暴だゲホゲホッ…元気ですね。」
「そうでしょ?」
「でも、もう少し優しさを持ってって…、わっ!タンマタンマ!」
またも失礼発言をするタクに本日何度目かの技を繰り出そうとした。しかし、タクはそれを華麗に避け、近くにいた女の子を盾にした。
「悪い!ユウ!俺のために生け贄になってくれ!」
「私を差し出すな!タク!」
「女の子を盾にするとは卑怯な!男らしく前に出たらどう?」
「痛いの嫌いなんで遠慮します!やるならこいつを!」
「私を差し出すな~!」
「そうよ!男らしくないわよ!」
「命がかかっているときにプライドなんかいらない!」
「何カッコいいこと言ってごまかそうとしてんのよ!この腰抜け!」
そんなやりとりがしばらく続き、ふと周りを見ると注目を浴びていた。
「あ…。」
ヒロは噂が広まったときのことを思い出し、恐怖で固まっていると、女の子の後ろから出てきたタクが言った。
「今の見てたか!?これが篠原さんの本性だ!男好きだったらもっと男に優しいはずだ!しかし、篠原さんは優しいどころか俺にヤクザ並の技を繰り出してきた。はっきり言おう。この人は男好きではない!むしろ、狂犬だグハッ…!」
ヒロは条件反射でタクの腹にボディーブローを食らわし、それを受けたタクは倒れた。
「お、俺は狂犬に勝てなかった…」
タクは息もたえだえという風に言った。
「タクー!」
最初に寄ってきた男が悲痛を滲ませて叫んだ。すると、一拍空いた後に周りが笑い出した。
「やべぇ、タクただのバカだろ。何がはっきり言おう。だよ!」
「アホ持論を自信満々に展開させて、やらてやんの!」
「いやいや、篠原さん強すぎでしょ!」
「男好きって何?男をボコるの好きなわけ?」
「男の敵じゃねぇか!」
「しかもヤクザ並みって!」
ヒロは安堵した。周りから久々に温かい言葉を向けられたからだ。
そんなこんなで忘年会が終わる頃には女子からはヒロ、男子からは指を折り曲げることからポッキーと呼ばれるようになった。
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