第一話
少しイジメ的な内容が含まれています。苦手な人は御注意下さい。
「やっほー!タク?いるー?また鍵空いてるよ!」
ヒロは彼氏であるタクの家に来ていた。
合鍵を貰っているが鍵をしめる習慣のないタクの家ではほとんど役割を果たしてない。
時々出掛けているときもしめ忘れるので“鍵あいている=在宅”という解釈もできない。
案の定、家主は外出中だった。
ヒロは不用心だの鳥頭だのぶつぶつ文句をいいながら家に入り、ベッドに横たわった。
数分後、うとうとと居眠りを始めたヒロは懐かしい夢をみた。
大学2年の春。
大学にも慣れ、ヒロは順調に生活を送っていた。
それが変な方向に転がり始めたのは秋にさしかかる残暑もまだ厳しい時期だった。
“男好き”“パンツを見せて男を誘っている”“女を見下している”そんな噂が流れ始めたのだ。噂はとどまることを知らず、むしろ加速していた。“どこどこの誰々が被害に遭った”“どこどこの誰々が昔苛められていた”噂の独り歩きだった。
周りからクズと呼ばれるようになったのだ。
なぜ?
ヒロの頭には疑問しかなかった。
もともとヒロは人付き合いが苦手だった。ヒロの口調はハキハキしている故か、責められているという印象を人に与えがちで、よく人を萎縮させたり、怒らせてしまっていた。大人になるにつれて柔らかめを意識したが逆に馬鹿にされていると受け取られてしまうこともしばしばあった。そんなヒロを高校時代からの親友であるシノがフォローしてくれていた。だからこそヒロは大学生活を今まで上手くやってこれた。しかし、そのシノが噂を流した本人だった。それに気付いたきっかけはシノとクラスメイトとの会話だった。
「ヒロって本当に男好きなの?」
「分かんないけど、確かにあの子高校のときから男子としか話してなくてよく女子ともめそうになってたかな。多分女子が苦手ってのもあったんだと思うよ。」
「その度にシノが間に入って取り持ったりしてたんでしょ?」
「まぁ…でもそんなに多くないよ。つっかかってきた女子も彼氏に馴れ馴れしく触れるなとか束縛が強かったというか」
「いやいやいや、彼氏に馴れ馴れしく触られるのは嫌でしょ。しかもその女子の相手するのがシノでしょ?ありえないわー」
「他の子イジメてたっていう話しは?」
「それはないよ!そりやあ嫌いな子とか苦手だっていう子はいたけど、…」
「シノは優しいからなぁ~知らないだけじゃないの?」
「そんなことないよ!」
「じゃあ、嫌いな子とかに対しての態度は良かったわけ?」
「それは…で、でも暴力はふるってないし!」
「基準がおかしいでしょ!」
「シノはヒロに甘過ぎ!」
端から聞けば庇っているように聞こえるだろう。だが、話している内容に嘘が散りばめられていた。
男とだけ話していた?彼氏持ちの女子と衝突しそうになった?そんなことあった?
シノだからこそ噂が事実と反していることが分かるはずだ。しかし、シノは全否定するどころが一部を肯定、一部を否定することで噂を確信へと変えていた。ヒロは愕然としていた。よく話していたクラスメイトはただヒロを嘲笑し、シノはそれを助長していたのだ。
もしかしてシノが…?
ヒロは恐くなった。一番仲の良いシノにただ裏切られただけではない。普段にこやかに接してくれていたクラスメイトすらも自分をクズと思い、蔑んでいることが会話から分かったからだ。ヒロはその日からシノを避けた。
「最近変だよ?付き合い悪いし。」
「ごめん。忙しくてさ。」
その内噂は悪化するばかりだった。ただつらかった。ただ叫びたかった。ただ逃げたかった。学校に行かないという選択肢が頭の中をぐるぐると回った。しかし、ヒロはそれでは奴らの思うツボだと、負けてたまるかと思い、ひたすら平然を装って学校に通った。それはヒロの意地だった。
ある日限界を迎えた。それは再びシノとクラスメイトとの会話を聞いた時だった。
「最近ヒロの様子がおかしくない?」
「そう?でもあんな噂流されれば誰でもまいるんじゃない?」
「でもそういうこと気にする子じゃないのに…」
「そういやこの前テニスサークルの池田の前でパンツ見せながら授業受けてたって聞いたよ!」
「マジで?池田がターゲットってこと?」
「そうなの!?シノ知ってる!?」
「え…?私は田中君って聞いてたかな?」
「田中?なんで?」
「地味だから落としやすいとか?」
「それありそう!」
「そんな子じゃないよ!確かに地味な男子と仲良く話す傾向があるけどそんなことない!」
「またシノは~」
気持ちが悪かった。ヒロはそれを必死に落ち着けようとしたが、落ち着ける前に体が全力で拒絶反応を示した。涙腺が決壊したのだ。驚いたヒロはすぐさまトイレに駆け込んだ。涙を止めようとするのに、止まらない。頭が冷静な分、余計身体の異常に近かった。
くそー、とまれ止まれ!最早目とれろ!!
止まらず。
目様よ目様。どうか涙を止めて下さい。
止まらず。
もういい!強行手段だ!
ヒロは顔面を叩く。
痛い…
しかし、止まらず。
その後もあの手この手と試みたが上手くは行かなかった。仕方がないのでストールで顔の半分を覆い、メガネをかけて顔を隠し、ひたすら人がいないところまで歩いた。
次の日の朝、吐いた。昼に関しては朝食を吐いたにも関わらず通常の半分も食べられなかった。夜はもはやほとんど食べれない程疲弊していた。そんな状態が毎日繰り返され、バイトの忙しさも相まって2週間で体重が5キロも減ってしまっていた。それでもヒロは強がって学校に通った。噂は悪化するばかり、周りからは見離されるばかり。どんどん孤立していった。
全てが限界だった。
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