出席番号3 ユウコ
草むらから出てきた三匹のゴブリンと戦闘がはじまりました。私はあまりの恐怖に体が震えて、声を出す事も出来ませんでした。私は脚の力が抜けて、その場に座りこんでしまいました。京香先生は私をかばうように立ちながら、「大丈夫よ。ユウコさん。」と声をかけてくれています。カオリちゃんが弦をはじくと矢が真ん中のゴブリンに命中しました。そして須藤君を先頭に、男子達がゴブリンに向かって駆けだします。彼らは危なげなく、次々にゴブリンをたおしていきました。ゴブリンの体から血が噴き出し、さっきまで生きていたのがうそのように動かなくなります。私はお腹からこみあげてくる気持ち悪さを必死に飲み込みながら、殺されていくゴブリン達がかわいそうに思えてきました。彼らは私たちを殺そうとしていた、だから彼らが殺されても仕方がない事なのに、私はバカです。そんな彼らに同情するなんて。
其の時、私達のすぐ目の前に草むらが動き、そこから二匹のゴブリンが現れました。私は息をすることが出来なくなってしまいました。男性陣は前方のゴブリンに気をとられて気付いていません。カオリちゅんが急いで弓を構えようとしますが、慌てて矢をおとしてしまいます。京香先生はカオリちゃんを引っ張って私の横まで移動させました。
「カオリさん!落ち着いて。私が牽制しますから、其の間に矢の準備をしてください。」
そういうと先生は手に持っていた石をゴブリンに向かって投げつけました。でも、その石は難なくよけられてしまいました。先生は急いで石を拾おうとしますが、周りにはちょうどいい石などおと手いません。カオリちゃんも慌ててしまい、上手く矢を用意する事が出来ないみたいです。私は、役立たずです。足に力が入らないので、この場から逃げる事も出来ません。その為に、先生は私をかばって動きません。お願いだから、私なんてほおっておいてにげてください。
ゴブリン達がどんどん近付いてきます。そうして茶色い剣を振り上げて、一番前にいた先生にきりかかろうとしました。そのときです。私は恐怖の為に目をつぶる事さえ出来ずに、いました。だから、しっかりとその瞬間を見る事が出来ました。
何処からか小宮君が現れ、剣を振り挙げたゴブリンの手頸を好かん高と思うと、次の瞬間には、そのゴブリンは地面に頭を打ち付けて、動かなくなりました。そうして、いつの間にとったのか、ゴブリンから奪いとった剣でもう一匹のゴブリンの首を切り、頭が草むらの中へと飛んで行きました。
小宮君が一体何をしたのか、私には分かりません。でも、小宮君が私たちを助けてくれた事は分かりました。私は、本当にダメな人間でせう。でも、小宮君が私たちを助けてくれた事をちゃんと理解できた、その瞬間を見る事が出来た事だけは誇りに思います。
小宮君、ありがとう。
ゴブリン達を撃破し、なんとか危機を脱した調査隊は、ゴブリンの所持品を回収していた。手に入れたのは、5本の錆びた直剣、後衛を襲撃したゴブリンが身に着けていた指輪が一つと、ネックレスが一つ。指輪とネックレスは錆び一つない奇麗な状態で、たぶん彼らに襲われた人間が付けていたものなのだろう。
とりあえず、錆びた剣は、須藤、吉沢、郷田、加山、京香が持つ事になった。小宮に渡そうとしたが、「重いから嫌だ」と所持する事を拒否し、ぷんぷん怒りながら京香が小宮から剣を奪い取ったのであった。そんな京香の姿をみて前衛組は口元を緩め、カオリにしたたかたしなめられる事になった。
前衛陣がカオリの有難いお説教を正座をして聞いている中、小宮は頭の繋がったままのゴブリンをツタで縛り上げていた。
「小宮君。君は何をしているのですか?」
京香が小宮に尋ねる。
「こいつ、まだ生きているんで、暴れないようにしているんです。」
「「「「「は!?」」」」」
その場の全員が驚きの声を出した。
「ちょっと!あんた、なんでころさないのよ!」
カオリが説教の矛先を小宮にかえたその隙に男性陣は脚を崩した。小宮は「めんどくせえ」を表情に浮かべて
「気になった事があったんだよ。」
全員が「?」を浮かべる中、京香も気になっていた事があったらしく頷き説明を始める。
「ねえ、カオリさん。小宮君が首を跳ね飛ばしたゴブリンを見てください。気が付く事はありませんか?」
「え?私はとくにありませんけど、一体なんなの?」
カオリにかわり、ユウコが発言する。
「え・・・と、あのゴブリンの布・・・だけ・・・きれい?」
「そうです。あのゴブリンはこの指輪をはめていました。きっとこの指輪が関係していると思うのです。」
小宮がそれに続ける。
「そう。そして、こっちの生きてるやつ。俺はこいつの手首を粉々に砕いたはず。でも、こいつの手首は何故か治っているんだよ。」
小宮がゴブリンの手首をぷらぷら揺する。
「ちょっと!早く手首も縛りつけてよ。怖いじゃないの!」
「はいはい・・・」
「はいは一回で十分!」
めんどくせえと呟きながら、小宮はゴブリンを完全に拘束する。
「このゴブリンは、こちらのネックレスをみに付けていました。やはり、この異常な治癒力とネックレスには関係があるのかもしれません。小宮くん、そういう事ですね?」
「まあ、そんな感じっす。ですから、こいつを使って実験をしてみようかと。そういう事です。あと、こいつもしかしたらしゃべれるかもしれない、って思ったんすけど」
確かに、人間に近い顔立ちをしているのであるから、声帯も同じ構造ならばしゃべる事が可能だろう。しかし、そこまで考えて須藤は顔を顰めた。もし人間と同等の知能を有し、意志疎通が可能な相手であるならば、先程自分達が犯した行為は殺人になるのではないだろうか、そんな疑問が浮かび突如須藤は罪悪感に襲われてしまったのだ。
「出来れば、しゃべらないほうがうれしいな・・・」
空手部の加山が独り言を漏らす。それに郷田と吉沢も頷く。どうやらみな同じ考えだったようだ。
そんな事を考えていると、小宮はゴブリンの背中に膝を当て、両肩をつかむと、蘇生術を行った。
「ゴギャ!?」
息を吹き返し、暴れようとするゴブリンの頭を小宮は蹴り、黙れせる。
「おい。お前しゃべれるか?」
小宮の言葉を無視するようにゴブリンは再び暴れ出す。そしてまた小宮はゴブリンの頭をけり飛ばし、今度はゴブリンの顎をつかみ睨みつけながら問いただす。
「おい。しゃべれないなら殺す。しゃべれるなら、逃がしてやる。どうなんだ?」
「ゴギュルルウ・・・ゴウゴウgh!」
全く石が通じないように暴れ出すゴブリンを見て、御部輪の首筋に小宮は手刀を当てた。ゴブリンはまた気を失って頭を垂れた。その口元からは涎が落ちる。
「だめそうっすね。まあ、んじゃあ実験してみますか」
そういうと小宮はゴブリンの首に掛ける。そうして、京香の持っていた直剣でゴブリンの腕に切り傷を付ける。まずは皮膚を切る程度の浅い傷、そして次は骨をも砕きかろうじて皮膚で繋がっているだけの傷、最後に手首を切断した。
三つの傷を付け終え、10秒程経つと、ゴブリンの腕が光り出し、一つ目と二つ目の傷は完全に繋がった。だが切断された手首が再生する事はなかった。手首を見ると肉を隠すように皮膚で覆われている。続いて、もう一方の手首を切断し、光り出す前に、落ちた掌をくっつける。しかし、再び繋がる事はなかった。
その光景をみてカオリと前衛陣は口元を押さえて苦しそうな顔をしていた。ユウコは憐れみの顔である。京香は只茫然とするだけであった。一人、その光景をみて何かを考えていた須藤が発言をする。
「つまり、何処か一部でも繋がっていれば、それは「傷」として修復される。だが、一度でも離れて体の一部でなくなってしまえば、修復はされないということか。」
小宮は一人頷いた。
「じゃあ、傷を付けた後にネックレスを付けるとどうなるんだ?」
実験をしてみると、傷の修復は行われなかった。その後、指輪の効果を確かめたが、これも付けている時に汚れが体、もしくは装飾品に付いた場合、浄化されるが、もともとの汚れは浄化されない事がわかった。
一通りの実験を終えた一同は、ゴブリンにとどめを刺し、死体をその場に放置して、再び散策を開始したのであった。