表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都会のすずめ  作者: わた
少女と少年のお話
PR
49/64

ヨールとの邂逅

礼拝堂を出て、迷いなく歩いていく薄井さんを、日菜はあわてて追いかけていた。


「薄井さん、どこへ……」

「戦場へ」


薄井さんはこのお城のことも、この国で起こっていることもよく知っているようだった。手に取るようにわかっている。薄井さん自身が、この世界だから……そうなのだろうか。


立ち止まりも振り返りもせず歩いていた薄井さんが、吸い込まれるように動きを止めた。目の前に、立ちはだかるひとがいたのだ。強い意思を感じさせる薄井さんと同じ色の瞳で、ヨールがふたりを見つめていた。


「……どういうことだ。こやつは誰だ?いや、わかるぞ……。ヒナ、こやつが、ウスイさん、とやらじゃな?」


ヨールの目は丸く大きく、髪は長く背中に揺れている。薄井さんとまるで見た目は違っても、その瞳と髪の色は、ふたりの間に特別な縁を生じさせていた。


薄井さんはしばらく驚いたようにヨールを見つめていたが、やがて少し笑って、


「僕がこうしてひとのカタチを取ったとき、君と同じ色を持って生まれた。……君が、この世界を背負おうとしてくれているからだ。苦しみも悲しみも含めて、心から、主と呼ばれる存在になろうとしてくれているから、僕は君の色を選んだんだね」

「何……?」

「……ありがとう。この世界を、守ろうとしてくれて」


ヨールは戸惑ったように薄井さんを見て、それから少し怒ったように言った。


「妾は王じゃ。この国のために、この国に住む者のために考えて行動する。別にそなたのために何かしているわけではない。礼などいらぬ」

「そうだね」


薄井さんはどこか愛しそうにヨールを眺めていた。昔、祖父が日菜に向けていてくれた目と似ていた。


日菜は自分でも気がつかないうちに、口を開いていた。


「薄井さんは、暗くて悲しいだけじゃありませんでした。美しくて、優しくて、明るくて楽しいこともたくさんあります。薄井さんは罪なんか犯してません。みんな、ここで、生きているんです」


薄井さんはにっこり笑っただけだった。


ヨールは合点がいかなさそうにふたりを見比べていたが、


「……お前たちの話をじっくり聞きたいのだが、今はそれどころではないのじゃ。妾も戦地へ向かおうと思っておる」

「ヨール様が?」


ヨールは神妙な面持ちで頷く。


「妾は王。この首、求める輩は多いはずじゃ」


日菜は大きく目を見開いた。ヨールの顔には強い覚悟が浮かんでいた。


「もちろん、この国の騎士たちを信じてはいるぞ。ただ、騎士たちだけに危険を負わせる気はないのじゃ」


言葉が出なかった。日菜に、ヨールに何かを言う資格があるだろうか。彼女は王様だ。それはただ決められた運命だというだけではない。彼女は誰よりも王様らしい気質を持って、王様らしい生き方をしようとしている。例え、命を失う結果になろうと。そんな強い意思を持ったヨールに、日菜は何を言えるだろう。


けれど、薄井さんはきっぱりと言い放った。


「もう戦いは終わる」


そして、また足早に歩き出す。その背中に手を伸ばしかけ、日菜の意識は暗闇に落ちた。


「ヒナ!? 」


ヨールが驚いて日菜を抱き起こす。


少年は気遣わしげに日菜を見やったが、手を貸すことはしなかった。


「……日菜を、よろしくね」

「待て。ヒナはずっとお前のために……」

「僕も、日菜のために何かをする、最後のチャンスなんだ」


そう言って浮かべた少年の微笑みがあまりに寂しそうで、ヨールは言葉を失った。


少年は歩き出し、二度と振り返ることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ