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都会のすずめ  作者: わた
少女と少年のお話
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はじめての敵意

「ちょっと」


キッチンを出て、部屋に向かおうとしていた日菜を呼び止める声があった。お城に仕える女の子たちのひとりだ。お城に来てから、ヨール以外の同年代の女の子に声をかけられるのは始めてだ。日菜は嬉しくなって、とびきりの笑顔を浮かべた。


「はい、こんにちは」

「……ちょっと、お時間頂けるかしら?」

「なんでしょう?」


いきなり、少女は日菜の腕を掴み、手近な扉を開いて部屋に引っ張りこんだ。乱暴に床に投げ出され、日菜は呆然とする。


「あんた、いったい何なのよ?陛下やウェルナー様に取り入って、何を企んでるの?」


少女の目は、激しい怒りを称えていた。この世界の住人特有の、薄い色の髪と瞳、そして、透き通るような肌。そのすべてが凄みを帯びて、日菜に敵意を向けている。


「私はあんたみたいな目を見たことがないわ。その真っ黒な目。見てるとぞっとする。皆気づいているわ。あんたは奇妙な魔法で陛下たちを騙しているんでしょう?」


何を言われているのかわからなかった。日菜は立ち上がり、混乱する頭をなんとか働かせる。


「あたし、ヨール様たちを騙してなんかいませんよ」

「嘘。突然やって来たお客と、陛下が直々に仲良くするなんてあり得ない。それも妙な目をした小汚ない格好の女の子を、騎士団長が馬車で連れてくるなんて。どんな身分の子なのか、何の説明もなく。そんなのおかしいじゃない!」


ダンッと足を踏み鳴らし、少女は日菜を再び突き飛ばす。


日菜は困った。誰かに、こんなに冷たく当たられるのは初めてで、どうしたらいいかわからないのだ。あかり荘で、優しい家族とともに暮らし、優しいご近所さんに助けられてばかりきた日菜は、こんなに怒った同年代の少女と接したことがない。


「本当に、ヨール様たちを騙してなんかいないんです。皆さん、お優しいんです。あたしを助けるためにいろいろしてくださって……」

「どうしてあんたなんかのために陛下が尽力しなきゃならないの?」

「あたしの事情が、少し特殊なんです」

「じゃあ私はどうなるの!私はせいぜい駒使いとしてお城に雇われるくらいしかしてもらえないわ。それでも故郷に残してきた家族のために、一生懸命働いてる!だけどきっと陛下は私の名前すら知らないわよ」


少女の目が、ぐらりと揺れた。


「どうしてあんたばっかり!」


その様子を見て、日菜は気がついた。この少女は、ヨールたちと仲良くなりたいんだ、と。日菜はこの世界にある身分の格差について、あまり詳しくは知らない。だからヨールたちとも平気で接してしまうけれど、この少女はそうはいかないのだ。日菜ばかりずるいと思われても仕方のないことをしていたんだ……そう思うと、申し訳なくなった。日菜はあまりに、無知だから。

でも、どうしようもない。日菜は既に、ヨールたちに強い友情を感じてしまっている。この気持ちに嘘はつけない。


「……あたしは、運が良かったんですね」


ぽつりと、呟く。


「あたしはこの世界の住人ではないから。それは、運の良いことなんです。だからこそ、ヨール様たちとお友だちになれたんですもの」

「何を言っているの……?」

「あたしはあなたにも誠実でありたい」


日菜は覚悟を決めた。ウェルナーには、自分たち以外の者と深く関わるなと言われたけれど。本心をさらけ出してぶつかってきてくれたこの少女の気持ちを踏みにじるようなことはしたくなかった。


「信じられない話かもしれません。でも、あたしのことをヨール様たちが助けてくれる理由を、お話します」


そして、日菜は話したのだ。自らの身に起こった全てを。あかり荘のある世界から、こちらの世界へ来ることになった理由も。セネリーとヒラマという姉妹との出会い、それから、このお城にやってきてからの出会いのことも。


少女は目を丸くして聞いていた。訝しげな顔になることもあった。けれど、最後まで、黙って聞いてくれた。


「…………信じられないわ」


少女は漏らした。


「信じられるはずない」


駄々をこねるような口調だった。


「でも、あんたは確かにこの国の住人とは見かけも雰囲気もまるで違う。それに……セネリーの名前は、私も知ってる」

「え……?」

「セネリーは何年か前まで、お城で働いていたの。ちょっとした噂になってた。気味が悪い子だって」


少女は少し辛そうな顔をしていた。


「ちょっとした嘘も、いたずらも、すぐに見破っちゃうものだから。陰で、苛められていたみたいね……私はあまり関わったことがないけれど。あんたの話が本当なら、私、あの子を守ってあげればよかった……」


少女は真っ直ぐに日菜を見つめる。


「……あんたの話は突拍子もないけれど、こんな壮大な嘘をつけるほど賢くもなさそうだものね」

「え……」

「信じてあげる。信じなきゃ、他に納得できる理由が見つからないもの」


気の強そうな顔を少し気まずそうに歪め、少女は手を差し出した。


「私はトルク。言っておくけど、完璧に信用したわけじゃないわ。でも……乱暴したことは、謝る。ごめんなさい」

「あ、えっと……」


日菜はおずおずと手を伸ばし、トルクの手を握る。


「日菜といいます。よろしくおねがいしますね……トルクさん」



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