表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都会のすずめ  作者: わた
少女と少年のお話
3/64

あたたかな日常

こんなによく晴れた日に部屋でじっとしているのは惜しいかもしれない。

窓の外には青い空と綿菓子みたいな白い雲。

外に出て肌で心地よさを感じるのは、きっと健康にも良い。


思い立ったら早速出かけよう。ついでに晩御飯のおかずも買ってこよう。


台所に降りると、灯がなにやら棚を探っていた。


「灯ちゃん?」


ぎくりと体が跳ねる。

ささっと何かを後ろ手に隠し、灯は微笑む。


「な、なんでしょう?」


怪しい。

日菜は灯の背後にまわり、隠している物を見ようとする。灯はあわてて体を回し、それをかわす。


「こら、何隠してるんですか?見せなさい!」

「何も隠してませんー」


やっと腕を捕まえて、隠した物の正体を確認する。

それは一掴みの煮干しだった。出汁取り用に一斗缶で買ったやつだ。


「煮干し?」

「ひ、ひなさん。怒らないでくださいね」


観念したように首をもたげ、灯はちょいちょいと手招きする。

ベランダから庭に出て、日菜はそういうことかと納得する。


「おいで」


灯が軒下に手を伸ばすと、出てきたのはネコさん。ショウガ色の、まだ小さな子猫だ。


「この子、お腹を空かせているみたいなのです」

「それで煮干しなんか探してたんですね?」


日菜は笑って、ネコさんの頭を撫でる。


「こそこそしなくても怒ったりしませんよ。大家さんは灯ちゃんなんですから」


その言葉に、灯の顔がぱっと明るくなる。

ネコさんを抱いて、よかったね、と頭を撫でる灯に、日菜は明るく提案した。


「ネコさんに人の食べ物はよくないと言いますから、ペット用のフーズを買ってきましょうか」

「本当ですか!?」


瞳を輝かせる灯。

滅多におねだりをすることのない彼女だから、こうして喜ばせてあげられると、日菜としても嬉しい。


「ちょうど買い物に出ようとしていたんです。灯ちゃん、他に要るものはありますか?」

「わたしは特に……ただ恭介が、お醤油が切れそうだと言っていました」

「あ、そうでしたね」


台所に戻ってお財布をポシェットに入れる。それを肩にかけ、


「ではあたしは行ってきますね。恭介さんはどこですか?」


灯をひとりきりにするのは不安だ。また何かの弾みに泣いてしまうかもしれない。


「恭介は山路さんたちに連れ出されてしまいました」


山路さんは恭介が働かせてもらっている商店街の親父さんで、八百屋のご主人だ。時たま休日の昼間に恭介を誘って、釣りに行ったり、時には居酒屋で飲んでいたりする。


「もう、困りましたね。灯ちゃん、ひとりで大丈夫ですか?」

「わたしは大丈夫なのです」


灯はえっへん、と胸を張る。


「あかり荘の大家はわたしなのです。このアパートに居れば平気なのです」


アパートに居れば平気。灯はよくそう言う。


日菜はにっこりして、


「あら。いつもアパートの中で泣いてしまうカラスさんはどなたでしたかねー?」


からかってやると、灯は真っ赤になって口を震わせる。

また泣いてしまいそうなので、日菜は灯の頭を撫でて謝った。


「ごめんねー。冗談です。ではお留守番おまかせしますね」


灯はすぐに顔色を戻す。任せるとか、頼んだとか、そういった言葉をかけられると、灯は元気になる。

役に立つのが嬉しいのだ。


灯に手をふって門を出る。

今日は本当にいい天気だ。もしかしたら、良い出会いがあるかもしれない。


商店街は坂道を下ってすぐ。

慣れた道でも、ぽかぽか陽気の中では気分が弾む。


今日の夕飯は何にしようか。

最近食べていないから、久しぶりにお魚もいいかもしれない。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ