アパートの大家
日菜が灯と恭介に出会ったのは、五年前、十歳になったばかりの頃だった。
両親を亡くした日菜は、祖父を頼って、都会の片隅にひっそりある、ぼろぼろのアパート……この『あかり荘』にやって来た。
そこに、ふたりは居たのだ。
灯はまだ赤ん坊で、恭介は今と変わらず黒スーツの青年。祖父はふたりを、「わしの家族」だと言った。
「お前もわしの大事な家族。灯も恭介も、大事な家族。ならみんな家族じゃ」
日菜が来た日の夜。祖父は明るく笑い、ビールを飲み干した。
それでも夕立の降ったある日、窓辺で日菜を膝に乗せ、祖父は語ってくれた。
「恭介はなあ、悲しい式神なんじゃ」
「しきがみ?」
その時の祖父の目が、ぎくりとするほど静かだったのを覚えている。
「式神は人に呼ばれて使われるんだがな、恭介を呼んだのは、残念ながら良い人間ではなかったんだなあ」
雨で濡れた地面が、夏の匂いをさせていた。
「恭介は優しい奴だ。灯を本当に守ろうとしている。日菜も、ふたりを愛してくれるかい?」
日菜にはよくわからなかった。日菜にとって、ふたりはもう家族。家族は、愛そうと思って愛するものじゃないから。
「わたし、灯ちゃんと恭介さんが好きです」
ただそう言うと、祖父は嬉しそうに笑って日菜の頭を撫でた。
灯は生まれたときからあかり荘の大家なのだと、祖父は言った。よくわからないが、祖父が言うならそうなのだろうと日菜は思った。
小さな和服の大家さんと、背の高いスーツのお兄さん。
祖父が亡くなっても、ふたりがいたから寂しくなかった。