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姫と呼ばれて  作者: イルハ
第1部
7/47

王宮

「そなたが、我が王子の命を助けてくれたという娘か」


謁見の間、一段高くなった玉座に座った王様が声を出す。


わぁぉ。本物の王様。

まさか、私の人生の中で王様に直接声をかけてもらう日がくるとは思わなかった。

ルイに倣って頭を下げた状態で、そんなことを思う。


「はい」


顔は見えないけど(頭を深々と下げてるからね)声が震えそうになるくらいの、威圧感に何とか声を出す。


「重傷であったと聞いたが?…ルイシークよ」


王様が今度は隣のルイに聞く。


あっ。ルイの名前ってルイシークって言うんだね。


「はい。賊に襲われ意識が無い私をユキが運び、手当をしてくれました」


さすが、息子。声が震えるようなことはないのね。(当然か)


「そうか。礼を言う」


「とんでもございません」


実際、私もルイがいてくれて助かったし。


王様の許しが出て、顔を上げると王様はやはりというか、かなりダンディなおじ様だった。

日焼けした顔に鋭い瞳。座っているから分からないけれど、背も高そう。

ルイのお父さんだけある。美中年って感じ。

鼻とか口元はルイと似てるかなぁ。


隣は王妃様?年齢不詳な綺麗な顔だけど、ルイとはあまり似ていないような?ルイはお父さん似なのかな?

王様の近く、一段低い所には恐らく重臣と思われるおじ様達がたくさん。


ふぇ~。緊張するわ~。


「して、その翼竜の子どもは?ユキと申したか。そなたのものか?」


私の横にふよふよと浮かんでいるクウちゃんを見て、王様が尋ねる。

そもそも、謁見の間に翼竜なんて連れてきていいのかな?

誰も何も言わなかったけど。

赤ちゃんならOKなのかな。


「ルイシーク様を見つけた森で出会いました。それから、ずっと一緒におります」


「…父上。この翼竜はユキに『名付ける』ことを許しております」


ルイの言葉に、謁見の間が俄かにざわめく。


え?クウちゃんなんて名前を勝手につけるのはまずいの?

こっちの常識知らないんだから、教えておいてよ~(泣)


「そうか…。ユキ。そなた、随分と珍しい髪と瞳を持っているがどこの出身だ?顔立ちもこの国の者とは違うようだが」


この質問については、予めルイと打ち合わせ済み。

まぁ、打ち合わせという程でもないんだけど、異世界から来たということを包み隠さず話すことにしていた。

だって、ここで元の世界に帰る方法を探さないといけないし。

協力して欲しいとまでは言えないけど、情報は欲しいし。


私の返答に、クウちゃんのこと以上に謁見の間がざわめいた。

大丈夫かな?

怪しい女!成敗してくれるっ!!とかにならないかな(汗)


「ユキは元の世界に帰ることを希望しております。帰る方法を見つける手伝いがしたいのですが」


場がいくらか落ち着いた頃、ルイが言う。


「…うむ。フェイ、どうだ?」


難しい顔をした王様がある男性に声をかける。


「異世界から来た…という者の例は聞いたことがありませんので…今の段階では何とも…」


全身紫色のローブをまとった男性が答える。

頭まですっぽりローブを被っているから、顔は分からないけど声を聞く限り、若そう。


「王。この娘が本当に異世界とやらから来たのかどうか、分かったものではありませんぞ」


今まで黙っていたオジサンが声を出す。


まぁね。前例が無いんじゃ信じられないかもね。


「…では、調べてみましょう」


すると、王妃様の近く、今まで影だと思っていた所からぬっと立ち上がった人がいた。

その人はフェイと呼ばれた人と同じように全身をローブでまとっていた。ただ色が違う。彼のローブは黒色だ。

だから、余計に影に見えちゃってたんだね。


右手をローブから出し、手のひらを私に向けるとその人は何かを唱え始めた。


え?何が始まるの?


不安になった次の瞬間。


「…くっあっ…」


胸にどんっと何かがぶつかったかのような圧迫感。


「ユキ!?」


隣にいたルイが慌てた声を出す。


「くっ苦し…」


何これ、息ができない。

苦しさに立っていることができなくて、膝をつく。


「ボーグ!やめろ!!」


ルイが叫ぶ。だけど、ボーグと呼ばれた人はやめない。


「ボーグ!やめよ!」


王様の声もする。だけど、やめない。


何これ。私、死ぬの?こんな所で?こんなわけの分からない人のせいで?

何で?異世界人だから?


息ができない。苦しい苦しい。

生理的な涙が出る。

このままじゃ本当に、私死んじゃう…。


その時



グゥルルルグゥルルルル…



地を這うような低い声が謁見の間に響く。

その瞬間、ふっと私に襲いかかっていた苦しさがなくなった。


「はぁはぁはぁ!!」


酸素を吸いこむために浅く息を吐く。

私、助かった…?

ほっとして、涙がぼろぼろと出る。


が、次の瞬間。


「ボーグ!防御印を!!」


フェイと呼ばれた人が叫んだ。



キシャァァァァァァァァーーーー!!!!!!!



私の隣にいたクウちゃんがもの凄い勢いで炎を吐いた。

この前の花の祭りで見た、キャンプファイヤーの火なんて目じゃないくらいの、凄まじい勢いの炎がボーグに向かう。


恐らく、ボーグを狙っているのだと思うけど、火の勢いが強すぎて王様・王妃様を含め玉座にいた人達全員を包み込んでしまうような太い火柱がそちらに向かう。


その炎から王様達を守るために、フェイとボーグが一歩前に出て何か唱えている。

すると薄い膜のような物ができて、それが間一髪で炎を防いでいた。



キシャァァァァァァァァーーーー!!!!!!!



クウちゃんは炎を吐きながら同時に羽根を動かす。

すると、あんなに小さな羽根なのに、何をどうしたのか突風がまたボーグ達に向かっていった。


クウちゃんの側にいる私は炎や突風の影響を受けていないけど、それでも目を開けているのがやっとというような風。


その影響を受けて、謁見の間の窓ガラスが割れる。

謁見の間の扉近くに控えていた騎士のような格好をした人達は吹き飛ばされた。

テーブルも椅子も、壁にかかっている絵も何もかも巻き上げられ、飛ばされる。

大人50人は入れるような広さの謁見の間だけれど、もうめちゃくちゃだった。

それでも、クウちゃんの攻撃は止まらない。


「まずいっ…」


私の近くにいたルイが叫ぶ。

見ると、膜をはっている(であろう)2人の体が遠目でも分かるくらい震えていた。


「あれでは、防御印がもたない!!」


えっ!?あの膜が無くなったら、王様にクウちゃんの炎が当たってしまう!!

この勢いだ。人間など一瞬で焼け焦げてしまう。


「クウちゃん!クウちゃん!!もうやめて!!」


叫ぶけれど、クウちゃんは攻撃を止めない。

更に攻撃を与えようと、ボーグの方へ近づこうとする。


「クウちゃん!やめなさいっ!!」


この時の私は必死だった。

冷静に現状把握なんて出来ていなかった。

だけれども、何としてでもクウちゃんを止めなければならないと思った。


だから…


「クウちゃん!!」


がっと、(無謀にも)クウちゃんを後ろから抱き締めた。


いや、ボーグの方へ向かおうとしていたからね?

引きとめる意味でね?

それしか思いつかなかったのよ。


その瞬間、がくんとクウちゃんの体から力が抜けて。

炎も突風も止んだ。


「きゅうぅぅぅ…」


クウちゃんが不本意そうに私の腕の中で顔を向ける。


そんな可愛らしい顔したって、ダメだからね!


「こらっ!クウちゃん!何てことするの!人が死んじゃうでしょ!!」


「きゅい!!」


いいじゃん!別に!みたいな返事が返ってきて、私は更にキッとなる。


「理由もなく人を傷つけちゃダメ!!罰として、今日はお風呂に一緒に入りません!!」


「きゅい!?」


クウちゃんの大好きなお風呂は禁止!!


がーんって音がしそうな程、表情豊かなクウちゃんを無視して、視線を王様達に向けると、そこにはがっくりと膝を付いたフェイとボーグがいて。

その後ろには呆然とした様子で、王様・王妃様、重臣のおじさん達がこちらを見ていた。


「…その翼竜は何なのだ…?」


王様が呟く。


そうだよね。クウちゃんみたいな赤ちゃん翼竜は炎なんて危険なもの、吐き出さないっていってたよね?

それが、この破壊力。


「まさか…」


王様の顔色が変わる。


その様子に、私はクウちゃんを抱く手に力を込める。


何か嫌な予感がする。

なぜか分からないけれど…。


だけど、王様はそのことについては触れず、鋭い瞳をこちらに向けるとボーグのことを謝り、私に退室するように言った。

しばらくはこの王宮で客人として扱うという約束もつけて。










こうして、私はセリンガムの王宮で過ごすことが決まりました。





謁見の間の修理費とか、請求されたらどうしよう…(汗)

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