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姫と呼ばれて  作者: イルハ
第1部
6/47

王子様

王都が近づくにつれて、だんだんと無口になるルイ。

何だか難しい顔をしていることも多くなった。


お家に帰れるの、嬉しくないのかな?

それとも、どこの馬の骨とも知れぬこんな異世界人を連れて来ちゃって、今更後悔してるとか?


道中、ルイのご両親のことをそれとなく聞いてみたけど、ルイは話したくなさそうだったから深くは聞けず。

うーん…。

年頃の男の子の気持ちは分かりませんね。

ちなみに、私の弟はルイくらいの頃、もう反抗期が始まっててろくに口もきいてもらえなかったからなぁ。


そう考えると、ルイって大人びてるよね。

外見も160センチある私と同じくらいの身長だし。

顔の輪郭は子どもらしく、少しふっくらしているけど、すんなり伸びた手足はまだまだ彼が成長することを約束している。

外見だけじゃなくて言動も落ち着いてるし、頭の回転は速いし。


弟がこのくらいの頃は、背なんてちんちくりんで外で遊んでばっかいる悪ガキだったけど。









「明日はいよいよ王都に着くね~」


今日の宿を決めて、2つあるベッドの片方に座りながら、ルイに声をかける。

私の膝の上には、バスケットから出たクウちゃんが丸まっている。

あ。もちろん部屋は同室ですよ。別々にする余裕なんてないからね。

ルイもまだ子どもだし、気にした様子はない。もちろん、私も同じ。


「うん…」


うかない顔で頷くルイ。


「元気ないね?体、どっか痛い?」


「…大丈夫」


ベッドに腰掛けて、答えるルイの声は低い。下を向いているから表情は分からない。


「ルイ?」


「…楽しかった…」


ぽつり、と呟かれた言葉に私は首を傾げる。


ん?楽しかった?

今日楽しかったことといえば…あぁ、屋台のアスパラの肉巻きおいしかったなぁ。

そうそう、ルイの可愛さにやられた洋服屋のおばさんに、モデルを頼まれたりしたっけ。

ちょっと、私も調子に乗っちゃって、おばさんとあれこれ言いながら、ルイを着せ替え人形のようにしちゃったなぁ。


はっ!!私は楽しかったけど、もしかしてルイは苦痛だった?

苦笑だったけど、笑ってたからいいかと思ったけど、ダメだった?

だから、不機嫌!?


あわわ…ごめんね~ルイ。

いい大人が悪ノリしちゃって~。

でも、ルイがあんまりイケメンで可愛いのがいけないのよ~。(反省していない)


「ル、ルイ!…ごめっ」


「ユキに助けられてから今日まで、すごく楽しかった」


慌てて謝ろうとした私に被るように、ルイが言葉を発した。


「…へ?」


綺麗な青い瞳をこちらに向けて、ルイは続ける。


「俺の家はちょっと複雑だから…。今までこんな風にして、時間を過ごしたことなくて。少しの間だったけど、働いたことも旅をしたことも、生まれて初めてで。…ユキと一緒にいられてすごく楽しかった」


「…そっか」


「明日、家に着いたら、もうこんな時間は過ごせなくなる…。頭では分かってるんだけど」


ゆるゆると、視線を下げてルイの言葉は途切れる。


うん。ルイが言いたいこと、何となく分かるよ。

一緒にいたのは、1ヶ月とちょっとだけど、何だか私達本物の兄弟みたいだったよね。

初めて会ったとは思えないくらい、何だか結びつき?みたいなものを感じたよね。


でも、だからって私にはどうすることもできない。

気持ちが分かるなんて、無責任なことも言えない。

だって、私はルイが置かれている状況も背景も何も知らないから。

こんな子どもが、命の危険に晒される程の怪我をしなければならないような背景を知らない。


「私もすごく楽しかったよ」


だから、声をかける。


「これから先、この異世界でどうしていけばいいのか分からないけど、頑張っていこうって思えるだけの思い出をルイから貰えた。ルイ、一緒にいてくれてありがとうね」


これは、本音。

ルイと一緒にいた時間は、私の中でとても大切なもの。

あの森でルイを見つけたから、ルイを助けることだけを考えて、なりふり構わず頑張れた。

ルイがいなかったら、きっと私は今ここでこんな風に笑えていない。

こんな異世界に来てしまって、絶望して、半狂乱になっていたかもしれない。


「…ユキもそう思ってくれる?」


ばっと顔をあげて、ルイが声を出す。

そんな彼に、にっこり笑う。


「もちろん!」


すると、ルイは一瞬泣きそうな顔をした。


「ユキ、一つお願いがあるんだ」


「なに?」


「俺の家に行っても、しばらくはうちにいて欲しい…」


「…それは、ありがたいけど…」


何せ、特に行く所なんてありませんからね!

使用人でも何でも、働かせてもらいたい。


「うちにいた方がユキが元の世界に帰る方法が見つかると思うし」


「うん。ルイのご両親がいいって言ってくれるなら、そうしたいかな」


「約束だよ」


ルイの瞳があまりに必死で。

その必死さに押されるように、私も真顔で頷いた。









…………。

えーっと…ただ今、ルイの「お家」におります。ハイ…。

旅をして3日目、ようやく到着しましたです。ハイ…。

…………。

………。

……。

…。




ここ王宮じゃん!!!!!


なんでなんでっ!?


そりゃ、確かにルイの第一印象は「王子様みたいに可愛い子~」だったけども!

本物の王子様ってどういうこと!?

何で、言ってくれなかったの!?


王子様=国で一番の権力者(王様)の息子でしょ!?

っていうか私、そんな人に今まであんなことやそんなことを言ったりやったりしてたってこと!?(もちろん、いやらしいことは何一つしてませんけどね!そこは良識ある大人ですから!!)


ルイが王都に着いて、まっすぐに王宮に向かって行って。

そのまま、王宮の門番の所まで行こうとした時は、ちょっとちょっとって思ったけども。


その後のことは思い出したくない…。

門番の兵士さんが慌てふためいて、王宮の中に入って行って。

そんな彼を無視して、ルイに手をとられてずんずん王宮の中に入っていったら、何かお偉いさん達が慌てふためいた様子で飛び出してきて。

人によっては、ルイの姿に膝まづいて涙する人までいて。


そうこうする内に、ルイとは引き離されて私は今王宮の一室にいる。

もう許容量イッパイイッパイでございます。

で、ぼおっとしていたら、部屋の扉が突然開いて、メイドさんのような格好をした中年女性が入ってきて。

涙を流しながら、お礼を言われて。


いや、そんな…とか言っているうちに、「王がお会いしたいと仰っています」とか言われて、いきなりお風呂場に連れて行かれた。

抵抗する間もなく、服を剥ぎ取られいつの間にか人数が増えていたメイドさん達に体を擦られ、湯船につからされ、出たと思ったらドレスを着させられました。


もう何が何だか…。

頭が働くことを拒否してる…。


ぱたぱたとお化粧もされて、気づいたらあぁら、不思議、お姫様のできあがり!と。


そんな私をいつバスケットから出たのか、ふよふよと浮かびながらクウちゃんが心配そうに見つめてた。









「ユキ、綺麗だね」


部屋を出ると、そこには見るからに高級そうな立派な紋章が入った服を着たルイが立っていた。


うん。まさに王子様。素敵。


「ルイハ王子様ダッタンダネ」


口調がぎこちないのは許して欲しい。

もうイッパイイッパイなのですよ…(泣)


「うん。今まで黙っててごめん…。とりあえず、父上に会ってから、ゆっくり話そう?」


いや、今ゆっくり話されても受け入れられるかどうか…。


私の近くをふよふよ飛んでいるクウちゃんに手を伸ばして、抱きしめる。


「きゅい?」


くるんと大きな瞳をこちらに向けるクウちゃんにホッとする。

クウちゃんは変わらない。

ドレスが汚れるかもしれないけど、今の私の心の支え。心の友。許してもらおう。


「ユキ、こっちだよ」


そんな私に苦笑して、ルイは私の手をとると歩き出した。

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