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姫と呼ばれて  作者: イルハ
第1部
5/47

閑話 花の祭り

王都へ向かう途中で立ち寄った町で、私達は「花の祭り」なるものに参加していた。

ちょうどこの時期、この国のシンボルであるリールという花が見頃になるらしく。

一日だけ皆仕事を休んで、町の人達が協力して出店を出したりして、夜になると皆で広場に集まって歌って踊るお祭りを行うそうだ。

その「花の祭り」の日にちょうど私達はぶつかったのだ。

もちろん、私達のような旅人も参加はOK。(ラッキー!!)


お祭り好きの私としては、こういう雰囲気は大好き!

旅費にそんなに余裕がある訳じゃないから、そんなに買い物はできないけど出店を見て回るのはとても楽しい。

ルイも「花の祭り」の存在は知ってはいても、参加したことはないらしく物珍しそうに出店を覗いていた。


そうそう。クウちゃんは、人目があるから事前に準備していたバスケットの中に入って大人しくしています。

初めは私がそのバスケットを持っていたんだけど、ちらっとバスケットの蓋を開けて覗くと、かわいい顔がこちらを見上げていて、その可憐な姿にくぅ~って身もだえてばっかりいたら、ルイに呆れられて、今はルイがバスケットを持ってます。


すみません…。









夕方になって、陽も落ちてくると皆自然と広場に集まって。

楽士の人達が陽気で明るい音を奏でて。

中央に焚かれている火を囲んで、この町の人達が踊りだす。


まるで、キャンプファイヤーみたい。

楽しそうに踊る人達を見ながら、そんなことを思っていたら


「ユキ」


隣にいたルイに声をかけられた。


「ん?」


ルイの方を見ると、少し迷うような素振りを見せてから


「…よかったら」


って、小さな箱を私に差し出した。


「何?もらっていいの?」


こくりと頷くルイ。

箱を開けると中に入っていたのは、中心に小さなリールを模った細工が施されたネックレスだった。


「かわいい!」


思わず呟いた私に、ルイが続ける。


「…今までの感謝の気持ちを込めて…。安物で申し訳ないけど…」


聞くと、奥さんの所で生まれて初めて働いたお金でルイはこれを買ってくれたようだった。


「ありがとう…」


その気持ちが嬉しい。

泣きたくなる程嬉しい。


「大切に…するね…」


ルイをお家に届けたら、もう彼と会うことはないだろう。

でも、これがある限りルイのことは忘れない。


息子が初任給で何かを買って、プレゼントしてくれた時のお母さんってこんな気持ちになるのかもしれない。


「ルイ!踊ろうよ!」


手早く、ネックレスを首に付けて私はルイを振り返る。


「ステップはよく分からないけど、何か決まりがある訳じゃないみたいだし」


そう言って、手を出すとルイは少し躊躇った後、私の手を取った。


そうして、踊る人達の輪に混ざって、私達は見よう見真似で手を繋いで踊りだす。

軽快な音楽とたくさんの人の笑い声。

めちゃくちゃな私のステップと、そんな私をフォローしてくれるルイ。

バスケットの中で揺られて少し不満そうな声を出すクウちゃん。


どうして、私はこの世界に来たのか。

どうして、私だったのか。

私は帰れるのか。


そんな胸の奥底にくすぶっている不安から、目をそらして。

この時、私は確かに幸せだった。


これから何が起こっても、この日のことを思い出して頑張っていこう。

そう、心に決めた。



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