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姫と呼ばれて  作者: イルハ
第1部
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出発

ようやく、男の子は話せる位まで回復した。

名前はルイ。年齢は12歳。

家は王都の方にあるそうだ。

ここから王都の方へ行くまで、馬車を使うと3日くらいかかるらしい。

なので、3日間の2人分の旅費を考えて、もう少しここで働かせてもらうことになった。


まぁ、私の服とかルイの服とか前借りしているものもあるしね。

奥さん達は気にしなくていいって言ってくれているけど、そうもいかないからね。


「ルイ~!今日はおじさん特製のグラタンだよ~」


ノックをしてから、部屋に入るとルイはベッドに身を起こして書き物をしていた。

今はお昼休み。

最近の私は、ルイと一緒にお昼を食べるようにしている。


「ありがとう」


そんな私を見て、ルイはにっこり笑う。

ふぁぁ。何て綺麗な笑顔。


ルイの傷が癒えてくると同時に、顔の腫れも引いて。

そしたら、可愛いのなんのって!!

大きな瞳は青色でキラキラしてて。

鼻筋も通ってて、薄い唇とバランスよくて。

肌はシミ一つないつるっつるの卵肌。

おまけにサラサラの金髪。


もうね、絵本とかに出てくる王子様みたいなの!


ルイの膝の上にグラタンが載ったお盆を置いて、私はベッドの近くの椅子に座る。


「いただきます」


目を合わせて、二人揃ってそう言って食べ始める。


「おいしーー!!」


もうおじさん天才!こっちの世界の料理は大して食べたことないけど、こんなにおいしい料理は他にないと思うんだよね。

ほんと、ここに連れてきてくれたクウちゃんありがとうね!


「ユキは本当においしそうに食べるね」


そんな私を見ながら、ルイが笑う。


「実際、おいしいからね!ルイもたくさん食べるんだよ」


うん、と頷いてルイは綺麗な動作でグラタンを口にする。

手の切り傷も良くなったみたい。よかった。


「ユキ」


ふいに名前を呼ばれて、私はルイの方を向く。


「もう少し体が動けるようになったら、俺も一緒に働く」


「え?…あぁ、うん。でも、気にしなくて平気だよ?ルイは元気になることを優先してね」


私の言葉にルイは首を振る。


「ユキに命を助けてもらって、その上ユキにだけ働かせることなんてできない」


「そう?まぁ、ルイならお客さん達喜びそうだけど…」


こんな美少年が給仕してたら、女性のお客さんが増えそうだよね!


「ルイ、働いたことないでしょ?大丈夫?」


ルイには隠していても滲み出る品の良さのようなものがあって。

自分の出自は口にしないけど、今まで働いたことなどないような家庭で育ったことは間違いない。

本人もそれは自覚しているようで、私の言葉に特に機嫌を損ねるようなことはなく、頷いた。


「やってみる。それで、ユキやこの店に迷惑がかかるようならやめる」


意志の強そうな瞳で言うルイに、彼の気持ちも分からなくはないので私は頷いた。


「ユキ。これを…」


「なぁに?」


グラタンを食べ終わったルイが、私に差し出したのはさっきまで何か書いていた紙。


「地図。知りたがってたから」


「ルイが書いたの!?すっごく上手!!」


それはこの世界の地図。フリーハンドとは思えないくらい精巧なんですけど…。


ルイには私のことは話してある。

私が異世界人であること。

目が覚めたら森で、クウちゃんと一緒に歩いていたらルイを見つけたこと。

それから、ここでの生活のこと。


12歳とは思えない位、頭の回転が速くてしっかりしているルイに嘘は通用しないと思ったし、なぜかルイには話してもいいような気がしたから。

初めの頃は何か、難しい顔をしていたルイも、今ではそれを信じてくれているのか気を許してくれている。…と、思いたい。

そして、お金が貯まったら一緒にルイの家に行くことも了承してくれた。


良かったよ。近寄んな!助けてくれ何て頼んでねぇ!この異世界人!!とか言われなくて(汗)


「この世界のこと、俺が分かることなら教えるから。何でも聞いて」


「ありがとう、ルイ」


笑って言えば、ルイもにこりと微笑む。


「あと、クウのことだけど」


「クウちゃん?」


「しばらくは、どこかに預けるんじゃなくてユキの手元に置いておいた方がいいと思う」


「そう?」


まぁ。私としてはあんなに可愛いクウちゃんと離れたくなんかないけどね。


「でも、これから王都の方へ向かうのにクウちゃん目立たない?」


例え、赤ちゃんでも翼竜を連れていることは褒められたことじゃないらしい。

場合によっては食事処や宿屋にも出入りを禁止されたり、馬車に乗ることすら拒否されたりするみたいだし。


「…うん。まぁ、隠して連れていけばいいと思う」


「そういうもの?」


「うん」


ルイがそう言うならそうなんだろう。よし!クウちゃんとも離れずにいられるみたいだし、良かった良かった。


とりあえず当面の目標はお金を貯めること。

それで、ルイをお家に届けて、その後こちらの世界のことを勉強しよう。何も知らない状態では、自分一人で何も判断できない。

何より、元の世界に帰る方法を探さないと。

ルイに尋ねたら、申し訳なさそうに「分からない」って言われたし。

でも、家に帰ったらルイも帰る方法を一緒に探してくれるって言うし。

うん!前向きにね。









「いらっしゃいませ~!!」


今日もお店は大忙し。

いつもの2倍はお客さんが来る。

何でかって?

それは、ルイ見たさに集まる女性のお客さんが増えたから~。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」


席についたお客さんに、さっとした身のこなしでルイが尋ねる。

そんな美少年にぽおっとなったお姉さま方が注文する。


「かしこまりました。今日は朝一番に獲れた新鮮なオレンジで作った飲み物などもおススメなのですが、いかがですか?」


「じゃあ、それも!」


即答するお姉さま方に、ルイはにっこり嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます」


そんな、ルイを見ながら頬を染めるお姉さま方。


なんて、できる子なのルイ!お姉ちゃんは嬉しいわっ!!


「ユキが手伝ってくれた時も客入りが良くなったけど、あの子もまぁ大概すごいねぇ」


奥さんがそんなルイを見ながら、苦笑する。


そう。ルイがお店に出るようになって、とんでもない美少年が見られると、噂が広がってここ最近女性のお客さんが増えた。

初めはルイ見たさのお客さんばかりだったけど、味は確かなお店だからその味にも惚れこんでリピーター続出。

ルイは迷惑どころか、看板息子?になりつつある。

そして私は早くも看板娘の座を譲り渡すことになった(泣)


でもいいの!お世話になった奥さんやご主人のためになるんだから!! 


こうして見ると、ルイがまだ子どもで良かったよね。

この外見で大人だったら、逆ナンとかされて大変そう。

まだ、子どもだから皆見てるだけっていうか、愛でてるだけっていうか…。


「ユキちゃん、料理まだ~?」


常連さんの声にはっとする。いけない!仕事中!!


「はーい!お待たせしました」


女性のお客さんにはルイが、常連さん(男性ばっか)には私が給仕するのが暗黙のルール。


「熱いので気をつけてくださいね」


声をかけながら、料理を置く。


「ユキちゃんの弟、ものすっごい人気だね」


「ふふ。私とは似てないけどとっても可愛いでしょ」


「ユキちゃんも十分可愛いけどなぁ」


「ありがとうございます」


お世辞でも褒められれば嬉しいよね~。

相手にもよるけど、変に照れたり、謙遜したりしないで喜んだ方が受けもいいしね。

接客業の基本です。


「って、ことで今度一緒に出かけようよ。店が休みの日にさ」


「ふふっ。あいにく、休みの日は無いんですよ」


常連さんの言葉に私は笑う。

こんな、挨拶代わりの誘い文句に困ったり、のせられるようなユキさんじゃありませんよ。

だてに24年生きてないからね!


「そんなこと言わずにさ!全く休みがないってわけでも無いんだろ?」


常連さんがそう言って、私の手を掴む。


「ユキ、奥さんが呼んでる」


その時、後ろからルイの低い声が聞こえた。


「え?ほんと?」


そう言って振り返ると、顔に「不機嫌」と書いてあるルイと目が合う。

ちょっとちょっと。目がすわってて恐いんですけど…。

美少年の睨み顔は迫力あるなぁ。


ルイはぐいっと私の手を引っ張って、常連さんから引き離すとスタスタ厨房の方へ歩いて行く。

何で、不機嫌?

何かお客さんに嫌なことでも言われたかな?


そんな私達を、奥さんとご主人が笑いながら見ていた。









そんなこんなで、1ヶ月。

ルイも一緒に働いてくれたおかげで当初の予定より早くお金も貯まったので、私達はここを出ることになった。


「体には気をつけて。いつでも帰ってきていいんだからね」


出発当日、目に涙をためた奥さんにそう声をかけられて、私の涙腺もゆるむ。

うぅ…。こういうの弱いんだよ~。


我慢できずに涙が頬を伝って、私は奥さんに抱きついた。


「本当に、奥さんとおじさんに助けてもらえて幸せでした。お二人も体には気をつけてください」


そんな私達を苦笑しながら眺めていたご主人が


「永遠の別れじゃあるまいし。落ち着いたら手紙をくれよ。ほら、これも持ってきな」


そう言ってルイに渡したのはお弁当。


「ユキちゃんの好きな物たくさん入ってるから」


「ありがとうございますぅぅ…」


泣きながらお礼を口にする私の背中をさすりながら、ルイも頭を下げる。

これじゃあ、どっちが年上なんだか…。

いや、私ルイの2倍生きてますから!!

そして、私の近くでふよふよ飛んでいたクウちゃんがぺろりとその舌で、私の涙を舐めとった。

うぅ…。クウちゃんにまで慰められてる…。


そうして、私達は2人に見送られて王都へ向かって出発したのでした。


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