生活
「ごちそうさん!」
「はーい。お腹いっぱいになりました?」
「おぅよ!いつ来てもうまいな!ここは」
常連さんの言葉に、私は嬉しくなる。
「当然ですよ!うちのおじさんが作る料理なんですから!」
「はいはいっと。ユキちゃんの決まり文句だね」
私の言葉に常連さんは笑うと、お金を渡して、お店から出る。
「ありがとうございました!お気をつけて」
そんな常連さんに声をかけて送りだす。
ここ最近、このお店で見慣れた光景。
「ユキ!料理あがったよ!」
厨房から奥さんの声が聞こえる。
「はーい」
それに、答えて私は厨房に向かう。
「もうすっかりここの看板娘だね。ユキちゃん」
出来立てほやほやの料理を運んできた私に、お客さんが声をかける。
「本当ですか?嬉しいなぁ」
鶏肉のミルクスープ煮込みを渡しながら、私は応える。
嬉しくって、顔がニヤけてくる。
まぁ、娘っていう年齢でもないけどね。
若く見られるのは、嬉しいもんです。
「そうだよ!もう、ユキはうちの大切な娘なんだから手なんか出すんじゃないよ!」
後ろから、大皿料理を運んできたこの店の奥さんの声がかかる。
「おぉ、こわっ。こんな母親代わりがいたんじゃ、ユキちゃんの恋人になるには大変だ」
お客さんの軽口に、他のお客さん達が笑いだす。
そんな明るい雰囲気につられて私も笑った。
見ず知らずの男の子をおぶって、クウちゃんに連れられて来たのはこのお店だった。
どう見ても、病院には見えないそこに迷ったけど、もう体力も限界だったので必死に扉を叩いた。
そして、出てきたこのお店の奥さんとご主人に、必死で助けを求めた。
初めこそ、不審そうな顔をしていた2人だったけど、私がおぶっている男の子が重傷なことと。
私が来ているパジャマがこの辺りでは見たこともないものであったこと。
私の黒い髪と瞳が珍しかったこと。
それに加えて、クウちゃんを連れていたことで、私たちが必死の思いで逃げて来た、兄弟だと勘違いされて、助けられた。
後で、分かったことだけど、この町を含めこの辺りを治めている貴族が変態で。
ちょっと毛色の珍しい子どもを見つけると、浚って自分の愛玩動物のように扱うことで有名らしく。
私達もそうやって浚われた兄弟だと思われたらしい。
最近は、珍しい子どもを探して、遠方まで猟に出る始末で。(どんだけ、変態なんだよ!)
一度逃げてしまえば、追いかけてくるようなこともなく。(何せ数が数だからね!)
例え、匿ったとしても罪に問われないんだとか。
それで、昔は料理屋兼宿屋を商っていたこのお店の2階、今は空き部屋の1つを借りて生活させてもらっている。
宿代の代わりに、忙しいお店のお手伝いをすることが条件でね。
でも、今ではここのご主人と奥さんに助けてもらえて、本当に良かったと思ってる。
2人とも、とても親切で優しくて。
病院がこの近くにないからって、男の子の手当をしてくれてた。
私の方も、日本では叔母さんが軽井沢でペンションを経営していて、そのお手伝いによく中学生の頃から行っていたこともあって。
こうした接客業が慣れていたので、すぐにウエイトレスのような仕事ができた。
そうしたことも手伝って、数年前に駆け落ち同然で出て行ってしまった、娘さんの代わりに私のこともとても大事にしてくれる。
クウちゃん、ここに連れてきてくれてありがとう!!
夜になってお店を閉めた後、掃除と明日の仕込みのお手伝いをして、2人に挨拶をした後部屋に戻る。
12畳くらいのベッドとチェストがあるだけの質素な部屋に入ると、2つあるベッドのうちの1つに近づく。
よく寝てる……。
体中、包帯でぐるぐる巻きの男の子が、すやすやと眠っていた。
その様子にほっとする。
この部屋を貸してもらえて、簡単な治療もしてもらえたまでは良かったんだけど。
男の子は、やはり重傷で。
傷みから熱が出るのか、初めの頃は汗をたくさんかいて、うなされて苦しそうだった。
特にうなされ方が半端なくて。
そりゃあ、これだけの暴力を振われたんだもんね。
動かない体を必死に動かそうとして、何かから逃げようとする様子は見ていて、本当に辛かった。
何があったかなんて考えたくない。
でも、想像してしまって。
私にも弟がいるから、余計に他人事とは思えなくて。
何もできないけど、そんな時はなるべく側で声をかけるようにしていた。
「……うぅ…」
その時、小さな呻き声が男の子からした。
瞼と頬が腫れて、唇も切れているから顔は分からないけど、眉根が寄せられて苦しそう。
これはうなされる兆候。
ここでお世話になるようになって、まだ5日目だけど男の子の状態は少し把握できるようになった。
枕元に近づいて、サラサラとした金色の髪にふれる。
頭部には傷が無いようだったから、髪の毛だけは奥さんに教わって最近私が洗っている。
「大丈夫。大丈夫だから」
声をかけて。
そっと頭に触れる。
人肌って安心するからね。よく、風邪を引いて寝込んだ弟にしてたこと。
そうすると、腫れてよく開かない瞳をうっすらと開けて男の子が私を見る。
綺麗な青い瞳。
その瞳を捉えて、私はなるべく優しく見えるように微笑むようにする。
もう、大丈夫だよ。
ここに、あなたを傷つける人はいないよ。
そういう意味を込めて。
いつもは、そうするとそのまま眠るように瞳を閉じる男の子が、今日は手を動かそうとした。
骨は折れていないけど、切り傷のあった手はやっぱり包帯に巻かれていて。
その手を必死にこちらに伸ばしてくる。
だから、そっと痛くないように伸ばされた手を握った。
「大丈夫」
手を握ってそう言えば、男の子はかすかに笑ったように見えた。
そして瞳を閉じる。
程なくして、穏やかな寝息が聞こえてきた。
ほっとして、そっと手を布団の中にしまって立ち上がる。
んー。今日もたくさん働いて疲れたなぁ。
お風呂入って、さっさと寝ようっと。
自分のベッドを見ると、そこにはクウちゃんがいた。
「クウちゃん、戻ってたんだね」
「きゅい!」
クウちゃんはここでお世話になるようになってから、朝と昼はいつもどこかへ行っている。
でも夜は必ず帰ってきて、一緒に寝てる。
「お風呂一緒に入ろっか。洗ってあげる」
「きゅいきゅい!!」
声をかけると、嬉しそうに飛びついてくる。
うーー!!可愛いっ!!
どうして、この子はこんなに可愛いんでしょう。
そうして、私は今日も一緒にクウちゃんとお風呂に入って、そしてクウちゃんを抱いて眠りについた。
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