頬を撫でる風
風が気持ちよかった。
多分、自分はこうなることを望んでいたんだ。
頬を風が撫でる。初めて世界に祝福されている気がした。
思えば、私はいつも不幸だった。生まれた次の日に両親が交通事故で死んでしまったから両親のことは全く覚えていない。
でも、高校生になって初めて恋を知った時、生きていて良かった、と思った。
颯爽と歩く彼を入学式の日、桜の木々の下で見た。胸が、熱くなった。彼のことしか考えられなくなった。
普通の女子高生になれた。
だから、彼に振られたとき、ああ、そうか。私はきっと、いつまでも不幸なままなんだ、と思った。
私は学校の屋上が好きだった。
本当は立ち入り禁止だったけど、風が吹いて、太陽が見守ってくれている屋上は暖かで、故郷みたいな感じだった。
人は、死ぬ時、故郷に帰りたくなるらしい。
私には、帰るところなんてない。温かい愛なんて知らない。私が知っているのはきっと、熱くて冷たい地獄だけ。
だから、私はもう、運命に身体を任せるのを止めた。
運命になんて逆らってやる。
私の死に方ぐらい私が決めてやる。
風が気持ち良い。
屋上は遠ざかり、地面が近づいてくるけど、恐怖は感じなかった。
ただ、行くべき場所に、行ける気がした。
さよなら、みんな。
私は世界に必要ない存在だったんだ。
もうどこかに行くから。
だからみんな、さようなら。
そして闇