第0話
「今日という日は、私にとって、人生最良の日であります。」
観衆がどよめく。こいつらにとっては、最も予想外の言葉だろう。
「なぜなら、今日という日は私の事業の事始となるからであります。」
壇上前のホルダー達が顔を見合わせている。一体何を言い出すんだ?というふうに。
「私は創業から今日に至るまで、この日のために準備を続けて参りました。」
そう。準備だ。これまでのことは全て。
「私はこの国をもう一度、世界に冠たる経済大国にしたいのです。その一心で今日まで準備を続けてきました。」
今日からこの国は変わるのだ。
「そのためには強力なリーダーと効率的なシステムが必要です。」
群集の中で電話が鳴る。気がついた者がいるようだ。だが、もう遅い。今更気がついても自らのシェアが無くなっていることを知るだけだ。
「この国が大停滞時代に入ってから、ホルダーとレイバーの格差は大きくなるばかりで、社会は一層不安定になりました。何者も自分のことばかり考え、かつての我々の美徳は失われました。」
どよめきが大きくなる。パニックが広がる。お前らのシェアはすでに俺のものだ。
「そして、今やわが国は近隣の新興国から経済的、軍事的脅威にさらされています。」
お前達の時代は終わりだ。
「この現状を打開しようとせず、自らの利益だけを追い求めている皆様には、市場から退場していただきます。」
新しい時代を創る。
「私はここに、『クレイドル』の創設を宣言いたします。」
世界は揺り籠に抱かれるのだ。




