文化祭と俺
祭りは、夏だけのものではない。秋になれば、特に十月以降は文化祭という一大イベントが俺らにとってあるからだ。
ただ、文化祭にも難点がある。俺が大好きな愛里子に、会いに行きづらくなることだ。大学が違うので、お互い時間がとりにくい。
しかも、四年生である俺たちにとって最後の文化祭。手を抜くわけにはいかなかった。
だけど、忙しい日々で誤魔化そうとしても会えなければ欲求不満になる。体を求めてる、とかじゃない。付き合ってもいない、片思いの女にそこまで欲情するほど単純ではないつもりだ。
向こうはどうとも思っていないかもしれない。でも、俺は愛里子に会いに行きたい。大学を卒業して社会に出れば、もっと会えなくなるかもしれないのだから。
「悪い、今日はちょっと用事があるから作業をやっといてくれ」
「あ、おい高田! どこに……」
言葉を最後まで聞かず、高田馬場駅行きのバスに乗る。高田馬場駅から、愛里子の通う学習院大学には山手線で一駅。普段なら短い距離なのに、今日はどうにも焦ったく感じられる。
愛里子、待ってろよ!
学習院大学の門は、いつ見ても立派だ。勢い任せの俺でも、気後れする程に。
ここで気がついたのだが、愛里子は今日大学にいるだろうか?
連絡すら忘れて飛び出してきたもんだから、急に不安になる。もし居なかったら、無駄足だ。流石に家に行くわけにもいかねーし。
「愛里子、大学にいるか?」
メッセージを送ると、しばらくして既読になった。
「はい。創くんはこちらまでいらしたのですか?」
どうやら大学にいるっぽくて安心した。
「門の前にいるんだけど」
「では、参りますのでお待ちください」
黒髪を靡かせて、愛里子がやってきた。ピンク色の髪飾りに、白いワンピース。いつ見ても惚れてしまう。もう惚れてるんだけど。
「創くん、何かご用」
「お前に会いたかったんだよ!」
しまった、これでは愛里子を困らせてしまうのではないだろうか。
彼女は顔色を変えず、こう言った。
「……それだけ、ですか?」
「な、なんだよ悪いか?」
彼女の口角が緩む。
「いえ、創くんらしいなと思って。折角ですし、カフェでも行きませんか? 早稲田大学の文化祭について、聞かせてほしいんです」
「おう、もちろん!」
目白駅前は、人がいつも少ないからかゆったりとした空気が流れている。
カフェでも、それは同様だった。
さて、どんな話をしようか。愛里子にするべきは、どんな話か。
悩みながら二人で歩くのも、悪くないと思った。




