表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

第3話 幽室に立つ王女

「お前さん、わしに会ったことがあるのか?」


「いいえ」


私は首を振った。


公爵は、私を見ていた。

初めて見るものを見るように。


「わしの自己紹介は、不要のようじゃな」

「どうしてわしのことを知っているかは、今は問わん」


公爵の目が、変わった。

薄茶色の瞳が、私を射抜いた。


「ここで何をしていた」


「お前さんは何者だ」


「ノクティファル王国第二王女」


「エリーゼ=ウィングス」


「ここで、死体のように生きていました」


公爵はわずかに目を細めた。


部屋を、見回した。


窓。

格子。

傾いたベッド。

空の水差し。


「第二王女が、幽閉か」


「カルディウスめ」


それだけだった。


「アンナ様が、嘆かれるぞ」


私は目を上げた。


「……母をご存じなのですか」


「昔の話じゃな」

公爵はそれ以上は語らなかった。


廊下で、足音がした。

鎧の擦れる音。


公爵の視線が、扉に向いた。


「……見張りじゃ」


公爵は、ベッドの影に身を沈めた。


扉が開いた。


「異常はないな」


私は何も言わなかった。


扉が閉まる。

足音が遠ざかった。


「動じんのう」


「もう慣れてしまいました」


「なぜ、魔法を使わなかったんですか?」


公爵は、すぐには答えなかった。


「使えぬ」


「王が張った結界じゃ」


父が……?


公爵は、それ以上語らなかった。


「ここから出ます」


エリアスはしばらく黙っていた。


やがて、小さく笑った。

「まだ十の娘が、か」


「……アンナ様に似ておる」


「よかろう」


「だが今夜は動けぬ」


「機を待て。結界には綻びがある」


「その時、迎えに来る」


扉が閉まる。

足音が遠ざかった。


公爵が来てから、数日が経った。

廊下が騒がしかった。


「指輪は?」

その声を、私は知っている。


「王女様……どれほど探しても、見つかりませんでした。」

あの時の侍女たちだ。


「貴方たちがなくしたのではなくて?」


「いえ……第二王女様が、あの部屋を出入りなさっていました」


「……そう」

それ以上、問いはなかった。


しばらくして、衛兵と姉が近づく音が聞こえた。わたしは指輪をポケットに隠した。


「徹底的に探しなさい。小さな指輪なら隠せるでしょう」


衛兵たちは部屋に入ると、

指輪を捜索し出した。


私が何を言っても、

誰も聞かなかった。


ベッドを持ち上げた。

本を床に投げた。


「……本?」


姉は、本を拾いあげた。


一瞬、

考えるように頁を閉じた。


「……不要ね」


次の瞬間、本が飛んだ。


避ける暇はなかった。


額に、硬い感触。

視界が揺れた。


温かいものが、頬を伝った。

指先で触れると、赤かった。


ポケットの中で何かが脈打った。


空気が軋んだ。


一瞬、

息が軽くなった。


「……今のは」


沈黙が落ちた。


「これはどういうことじゃ」

低く威厳のある声が響き渡った。


姉は振り返る

 

「指輪が失われました」


「だからといって、王女を傷つけるのか」


沈黙。


「証は」


姉の指先がわずかに動いた。


「……ありません」


「ならばここまでじゃ」


姉は踵を返した。

扉の前で、足を止める。

振り返らない。


それでも、視線だけが残った。

まっすぐに、私へ。


私は目を逸さなかった。


公爵と私の間に、沈黙が落ちた。


それを破ったのは彼だった。


「……結界が、緩んだ」


公爵は血を見た。


「その血が、か」


「今なら、出られるのですか」


私はとっさに口が開いた。


「今なら出られる」


その言葉を聞いて、はっとした。


「ヴェイルヘイヴンへ、連れていってください」


「私はまだ弱いです」


「ですが、学びます」


大きく息を吸った。

決心がついた。


「……王になります」


公爵は、しばらく黙っていた。


「……よかろう」

公爵は何も言わなかった。


けれどその沈黙は、

先ほどとは違っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ