第2話 幽室の少女
目を開けたとき、私はまだ生きていた。
それが問題だった。
私は死んだはずだ。
窓は高く、光さえ届かない。
埃だけが、そこにあった。
天井のシミは前よりも増えていた。
私はそれを知っていた。
お腹が空いた。
ふと目をやると、扉の前にパンが置いてあることに気がついた。カビの生えたパンだ。
私の手は止まらなかった。
パンは固かった。
母は、やはり死んだままだった。
私は壁に持たれて考えた。
他に、することがなかった。
周りを見た。
本がない。
あの時だ。
まだ、ママの本を手に入れる前。
私は10歳だった。
幽閉されている日々で、ママはもういない。
私は部屋を出た。
暗闇に包まれた廊下は静かだった。
ママの部屋の扉は、
まだ閉まっていた。
鍵は、三段目の引き出しにあった。
迷わず私は、それを取った。
ママの部屋には本が3冊あった。
どれも、前と同じ場所にあった。
けれど、
机の奥には指輪があるのが見えた。
私はそれを見て、
動くことができなかった。
まだあったんだ。
指が少しだけ震えた。
私は指輪をそっとポケットに入れた。
それだけだった。
部屋が、少し静かになった気がした。
窓の外で、鳥が一斉に飛び立った。
魔力が、わずかに乱れた。
――ヴェイルヘイヴン領、
魔力の揺れを感じる。
エリアスは目を細める。
しばらくして、書類の山に視線を戻した。
――廊下で、声がした。
足音が近づいてくる。
私はクローゼットを開けた。
服の間に、身体を入れた。
扉が閉まる音は小さかった。
外で、足音が止まった。
布の向こうで、誰かの声がした。
何かを探しているようだった。
「……ない?」
「そんなはずは……」
しばらくして、足音は遠ざかった。
私は部屋を出た。
誰にも見つからないように、廊下を歩いた。
自分の部屋に戻ったとき、
まだ心臓は早かった。
扉を閉め、背中を預けた。
しばらく、そのままでいた。
呼吸だけが部屋に残った。
ポケットの中で、指輪が当たる。
指輪は、冷たかった。
まだここにある。
私はベットの下に本を隠した。
指輪は、外さなかった。
夜は深かった。
遠くで見張りの足音がした。
金属の擦れる音が、壁越しに響いた。
ベットに横になった。
目は閉じなかった。
鐘が一度鳴った。
それから、二度。
私はまだ、起きていた。
何も聞こえなくなった。
そのとき、扉の向こうで足音がした。
その足音を私は知っていた。
扉の前で、止まった。
私は立ち上がった。
私は息を止めた。
扉が、静かに開いた。
そこに、男がいた。
「……まだ、お若い。」
思わず口に出た。
男は、わずかに眉を動かした。




