第6章 Prince and Princess
「ドーナツ5点とホットコーヒーで1080円です」
QRコードを露木に差し出すと、軽快な電子音が店内に響いた。
三島ちゃんの目元は赤くなっているが、俺の隣で笑顔で接客した。
「何かあったんですか」
露木が無駄に整った顔で、三島ちゃんの顔を覗き込む。やめろ。勘違いしたらどうするんだ。
三島ちゃんは女子校育ちのお嬢様なんだぞ。
「いえ、すみません…花粉かな?目が痒くって」
頬が赤くなっている…言わんこっちゃない。
言ってないけども。
「三島ちゃんは清楚な女の子なんだから、お前みたいな公立の野良男子高校生とはお喋りできないの」
しっしと追い払うと、露木は会釈をしてイートインスペースに大人しく消えた。
話しかけてくんな。はあ、早く薬屋塗ってもらって解散しよ。
「凄く…綺麗な方ですね。前からいらっしゃってましたが、星くんのお友達だったなんて!」
三島ちゃんが目をキラキラさせて訴えてきた。
切り替え早いな…まあ、元気になったならいいけど。
「でも、前はお話されてませんでしたよね?」
「あー、うん。最近…友達…になった」
友達でもないけど。三島ちゃんはシフト少ないのに、それでも認知されてる露木よ。余程のメロ男だな。
「柏木裕太さんとも仲がいいんでしょうか?」
「どうかな?まあ、俺が露木と絡む前から交流はあったみたいよ」
三島ちゃんは、へえ…と呟くと黙々とドーナツを食べている露木を見つめた。
品のいい顔立ちで、じっくりと。
知らなかった情報を掻き集めるように。
***
「今日、お前の隣にいた女の子…随分品のある子だったな」
露木が俺の自転車を押しながら、何か考え事をしている。こいつ、清楚系が好きなんか。
「三島ちゃんは、湘南四ツ葉女学院だもん。
生粋のお嬢様だよ」
「そんな子がなんでまた…こんなチェーン店ではたらくんだ?」
三島ちゃんに興味津々だなおい。
こいつ、ちょっと顔がいいからって…
三島ちゃんはお嬢様だぞ。
「なんか、半年くらい前に入ってきたんだけど…社会勉強だって」
「四ツ葉女学院はアルバイト禁止だろ」
ああ、しつこいなもう!柏木の話をされたって言いたいのに。
三島ちゃんの質問をされる度に、耳に刺が刺さる様だ。チクリ。チクリ。
聞きたくない!
「うっさいな!そんな気になるなら本人に聞けよ!得意だろ!連絡先交換は!」
「…いいのか?」
は?良いわけねーだろ!
三島ちゃんはお嬢様様で、可愛くて、優しくて…小さくて…華奢で…
俺とは全然違う女の子だ。興味があるのか?
白龍なのに?人間を嫁に貰うとか?
ああ、考えたくないのに説明できない思考が頭を支配する。爆発しそうだ。
「ダメに決まってんだろ!お前は俺に構っときゃいいんだよ!」
大爆発。
俺の声は自宅アパートの駐輪場に響き渡った。
時刻は22時。ギリギリセーフか?
「星くん!雷くん!おかえり〜!」
缶ビールを手にしたお母さんが、薄着でベランダから手を振っている。
俺は、しー!と母に声を抑えるようジェスチャーし露木から自転車を奪い指定の場所に停めた。
「お前うるさいぞ声」
「わかってんだよ、お前こそお嬢様にうつつ抜かしてんじゃねえ。だまれ」
スタスタとアパートの階段を駆け上がる。
露木が着いてくるのが腹ただしい。
なんだろう、腹ただしいのに帰れとは言えない。
3階にある自宅前で立ち止まると、露木に腕を引かれ身体が密着した。
「薬塗ってないだろ。大人しくしろ」
露木が、俺の首筋にふれる。
薬は俺の行き場のない怒りまでも鎮めてくれたのか、湧き上がる言葉は腹の中へ戻っていった。




