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第10章 Two Sides of the Same Coin【舌】

「最高やったな~」


劇場が終演し、場外に出ると先ほどの男が俺を待っていた。

席は俺と隣なんてことはなく、俺の二列前だったようだ。たまに目をやると、大きな声で笑っているのが見えた。


「最高でしたね。ずっとだったんです。マヨヨ姉さんを生で見るの」


この男を怪しいと思いつつ、旅先で知らない人と共通の話題で盛り上がるという特別ボーナスみたいなイベントからどうも離れることが惜しかった。

というか最近異次元級の出来事が多すぎて、何に関してもハードルが下がっているのかもしれない。


「さっきのお礼させてや~」


男が口を大きく開けて微笑む。また八重歯が見えた。八重歯と一緒に赤い舌が目に映る。人の舌を意識したことなかったけど、この人の舌はやけに肉厚があってみずみずしい。無防備だけど下品じゃない。


「あ?なんやじっと見て。気持ち悪いなぁ」


「あ、すみません。えーと包帯がちょっと」


ふいをつかれて、次に気になっていた事でごまかすつもりが余計な事を口に出してしまった。きっと初対面の人に話したくない内容だろう。


「ああ!これね、じゃ~たこ焼きおごったるから食いながらはなそか」


劇場からすぐの場所にあるたこ焼き屋に並ぶ。ソースと鰹節の香りが脳内に直撃する。今日は食べ歩きしようと思って、軽めの飯で出てきたんだよな~。


「なんかこだわりないなら普通のでええ?」


「あ!ネギ多めで!」


「お、わかっとるな~兄ちゃん将来酒飲みになりそうや」


夢のジャパニーズソウルフードが船に乗ってやってきた。船の上で鰹節がヒラヒラとおどり祭りを盛り上げている。


「こっちこっち」


店の脇から、お世辞にも綺麗とは言えないイートインスペースに入りせまい席に2人並んで座った。外国人より日本人観光客が目立つ。みんなハフハフ言いながら頬張り、熱さに苦しみながらその先にあるユートピアを目指している。


うーん。これぞ大阪。


「なにぼーっとしてんねん」


男は店内で缶ビールを購入するとプシュっといい音を立て、俺には缶のコーラを渡してくれた。


「ありがとうございます、すみませんご馳走になります」


「ええてええて、足りんかったら串カツくいにいこか~ネギ焼きでもええで」


乾杯をして、たこやきを頬張る。熱い。灼熱の玉が口の中を攻撃する。恐る恐る玉をかみ砕くと、中からどろっとしたうまみがあふれ出た。


「うまいやろ~」


俺はたこ焼きの熱さとうまみに脳内を支配され、言語が浮かばなかった。美味しさを伝えるには頷くしかない。


「は…はふ…あ、未成年じゃないんですね」


「あはは、ええおっさんやで~兄ちゃんいくつ?あ、何て名前?」


「申し遅れました!秦野星、17歳です」


俺の名前を聞いた瞬間、浮ついていた笑顔が真顔に戻った。だが、すぐに口角を上げてニコォと表情を作り上げた。


「高校生やん!何してんの?もう働いてんの?」


「いえ、今はちょっとお休み…期間みたいな…」


男はほぉ~と聞きながすとビールを口に含み、飲み干した。そして、席を立ちもう1本ビールを買って戻ってきた。


「昼から飲むんは背徳的でたまらんわ~あ、俺は…そやな…」


店内を見渡し男はさらにビールを煽る。酒ってうまいのかな~ジュースはこんなに腹にはいっていかないもんな。


「まる!まんまるのまる!俺の事はまるってよんで~な」


男が大きな声で「まる!」と叫ぶと、ふんわりアルコールの香りがした。うーん、いい匂いとは思えない。しかも今作った名前だろ。怪しすぎる。いいだろう、怪しいついでに聞いてやろうじゃないか。


「…顔の包帯は…」


男はぴくっと肩を震わせると、はははっとから笑いした。


「ああ、そやったな~こんな顔面に包帯巻いてるやつなかなかおらんもんな~。そりゃ気になるわ」


「はぁ…まあ。すみません」


「これな~昔俺の事を好きすぎたやつからやられてん。俺こうみえてモテモテやねん。男女問わず。でも俺は…人を想う気持ちってのが少し欠落してんねん。わからん」


「恋をしたことがないってことですか」


「そやな~もっと深いとこかなぁ。愛するって気持ちがわからへんねん。愛ってさ、好きや~ってのもあるけど…ほかに何があると思う?」


「え?愛が?好き以外に何かあるんですか」


酔っぱらってるのかな…めんどくさい話になってきた。包帯の話とどんどん遠くになっている気がする。


「執着や」


「執着…」


「そや。好きやとな~どうしても気になんねん。そいつがどう思おうが…好いても好いても手に入らんねん。それが執着になんねん。執着はな~どんどんでかなって」


「でかなって?」


「…破壊すんねん」


男は口を閉じると巻かれた包帯を触り、包帯の下にある肉を確かめる様に指でゆっくりとなぞる。解かれていないのに、布の下には秘密があると見せつけて楽しんでいた。


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