第9章 Dragon’s Wrath【お散歩】
「おーし。じゃあ解散!澄~空の色戻しておけよ」
焔はパッと澄を身体から引きはがすと、ふぁーあとあくびをした。
「あーあ。京がこんなじゃなければ今頃ハワイなのにね?焔~」
冽はぶーぶー言いながら、札束を拾い上げニヤニヤと枚数を数えている。
「あ!だめですよ!冽様!このお金は一旦神庁でお預かりします!」
えー。ひどい!色々頑張ったのに!と露木に向かって抗議しているが、露木は札束を奪い、懐にしまっていく。
「なぁ…あの女の人たちはどうなるんだよ」
みんなは明るく言い合っているが、俺は飴を握りしめていた芸舞妓と先ほどお茶会でやせ細っていた女の人が脳裏から離れなかった。
どうにかしたい。このまま解散ってこいつら正気か?
「俺をわざわざ京都まで連れてきておいて!!このまま解散っておかしいだろ!!」
俺はこみ上げてきた怒りを声に出して訴えた。
俺の大声を聞いた4人は目を丸くして、俺を見つめている。
「お~びっくりした天がいるのかと思った」
焔は俺に近づくとまじまじと全身くまなくジロジロと見ている。
そして、露木に近づいて露木の耳元で何かを告げるとさっと離れて澄の首根っこを掴んだ。
「おい、澄。戻したか。空は。俺と冽は今から祇園のパトロールだ。お前も来い」
いやだ~!!と騒ぐ澄を連れて焔と冽は早々に茶室から出ていってしまった。
俺の訴えは無視かよ…
「星様。ちょっとお散歩しませんか?この姿のまま。そうすれば誰にも見られません」
露木は俺をなだめる様に優しい声色で頭を優しく撫でた。
「俺の方が偉いんじゃないの?頭なんで撫でていいわけ?」
「ふふふ。そりゃ~そうなんですけど…撫でてほしそうでしたので」
満足気に笑う露木を見ると俺も嬉しくなってしまう。なるべくこいつがする事は否定したくないんだよなぁ…。悔しい。
***
京都市役所を出て、俺たちは御池通から山が見える方に進んだ。
というか、露木が言っていたルートだけど。
「ここからのんびり歩いて15分くらいで鴨川があります。そこまで行きましょう」
空を見るとあの毒毒しかった紫は消えていて、オレンジ色の暖かい色が空を覆っていた。
「恐らく、焔様でしょう。澄様が消し去った紫の空を上塗りするように嵐山の方まで飛ばれたのではないでしょうか」
「え?だから燃えるような夕日ってわけ?」
「そうですね。美しい炎を映し出すのも神の役目ですから」
「あの紫の空は…みんな見えていたの?」
「えぇ、見えていましたが…大丈夫です。焔様が映し出すこの夕日に人々に影響が出ない様何か組み込まれているはずです」
露木が立ち止まると、スマホを取り出し俺に見せた。
【異常気象か。紫の空が京都を包む。気象庁が声明を発表】
「え~気象庁とも繋がってんの?」
「そりゃそうですよ。数日は騒がれるでしょうが、そのうち陰謀論として流されていくでしょう」
今まで見ていたニュースが信じられなくなってくるな…。
「河原町御池」の交差点を直進して、小さな運河が流れていた。
外国人も多いが、みな京都の町にうっとりしている。そうだろう。だって日本の京都だぞ。
そのまま木屋町通りを進むと、京都らしい古い建物と飲食店が見えて活気が出てきた。
「え~なんか食いて~」
飲食店から漏れる食欲をそそる匂いに俺は目を輝かせることしか出来ない。
「な~この角と尻尾しまってなんか食おうぜ~」
「口さみしいのですか?」
「いや、普通に腹減った」
「今日夜は置屋で用意されています」
露木はダメダメと首を振り、俺の買い食い欲をシャットアウトした。
いいだろ~そのくらい!
抗議しようと、露木にグイと近づくと目の前に美しい白龍の顔面がさらに迫って来た。そして、少し湿った柔らかいものが俺の唇にそっと触れる。
「これで我慢してください」
俺は固まった。とにかく固まった。こいつ…人前で…!!
「あ、大丈夫ですよ皆様からは見えていませんから」
まさかこいつ、ところ構わずキスするために龍の姿で歩いていたのか!!??
変態だ…こいつは変態白龍だ。
修学旅行生やカップルが俺たちの身体を透かしていく。みんなのはしゃぐ声は聞こえるのに、彼らから見て俺たちは存在していないのだ。
神様は本当にいるのだろうか。誰しもが考えたであろう事を身をもって実感した。
固まる俺の手を露木はぎゅっと握り、そのまま鴨川の川沿いにずいずいと歩いて行った。




