第9章 Dragon’s Wrath【言い訳】
「ありゃりゃりゃ~」
転がった札束を冽が拾い上げ、ニヤニヤしながら数えている。
震える女性たちは先ほどのはしゃぎっぷりとは別人で、唇を接着剤でくっつけられたのか?ってくらい静かになった。
「焔様。失礼します」
担架をもったレスキューのチームが畳の上にずかずかと現れると、
倒れた女性を素早く運び茶の間から姿を消した。
「あー気にすんな。あれも抱えの医療チームだ」
焔はレスキューチームに礼をすると、ヒラヒラと手を振った。
「いったいどういう…」
俺はこのカオスな状況に口を挟まずにはいられなかった。
一応俺も神様チームらしいし…。
「そうですね~状況としては…」
ちらりと露木が焔を見て、微笑んだ。
露木なりにベラベラ話していいものかと、一応神様に気を使っているように見えた。
「余計な事を話すな!!白龍はひっこんでろ!!!!」
澄は焔に羽交い絞めにされていて、小さくない身体は焔の大きな体にすっぽりと隠されてしまった。焔の腕は燃え上がるような赤い羽根で覆われており、子供みたいに反抗する澄の口からは、2つに割れた細い舌が覗いていた。
玄武…。あぁ、澄は玄武の蛇の方か。
「恐らく、澄様は菫様に言われた通り動いているのでしょうが…」
「菫って誰?」
続々と増える新キャラに俺はつっこまずにいられなかった。
覚える事が多すぎる。
「菫様は…関係ございません!」
中にいる40代くらいの女性が悲鳴を上げるように菫の名前を上げて否定した。
「お姉さん~そんな風に言っちゃうと余計関係あるように聞こえるんだよね」
焔は澄の頭を顎でぐりぐりと押しながら、小馬鹿にしたように笑った。
このおっさんは澄の事を手名付けている。甥っ子を可愛がる親戚のおじさんの構図だ。可愛がってる場合ではないくらいの現場なんだけど。
「菫は本当に関係ねーよ」
澄はプイとそっぽを向くと、おとなしく焔の腕の中に納まっている。
焔には逆らえないと認めたのか蛇の姿なのに子犬の様だ。
「じゃあ、あの飴は?お前俺らが何も調べていないとでも思ったか?」
「そーだよ、澄ちゃん。これは亞の成分入りのぶっとびドラッグだよね」
冽は飴を指でつまむと高く上げて、クリクリと回して眺めている。
先ほどまでの海松色だった飴は、光の成分を吸って今は紫に輝いている。
お世辞にも美味しそうには見えない。
「亞って何?」
俺も床に散らばった飴玉を手に取ると匂いを嗅いでみた。
無臭だが、舐めないほうが良さそうだ。
「ふふ。亞片です。世界史?ですかね?今日本の歴史教育に組み込まれているはずです」
露木が食べてはだめですよ?と俺から飴を奪い取ると、白くて質のいいハンカチを取り出し、俺の手を念入りに拭いた。
「え?あの、アヘン戦争の?いやいや、流石に解るけどお前らそこまで関与してんの?」
「アヘン時代を知ってるのは俺くらいか~?冽と雷は生まれてねーな。俺もまだ子供だった」
焔は懐かしいな~と呟きながら、澄の髪をわしゃわしゃと撫でたりほっぺたをいじったり忙しそうだ。
「アヘンは日本には入ってこなかったはずなのです…武士道が当たり前の時代でしたからね。」
露木はキラキラと目を輝かせて俺に訴える。手、放してくんねーかな。
「まあ~最近はゆらぎつつある精神じゃない?俺らのパパたちがどーやって亞片入れないか悩んでる最中に、頑固なバカどもが勝手に解決しちまったってわけ」
冽が溜息をついた。そりゃ200年前の人間の価値観は変わるだろう。時代とはそんなもんだろう?
飴を触った手は拭かれ終わったが、露木は顔を近づけ両手で手を握って来た。
「まあ…諸説あるだろうけど、とにかく入ってこなかったのは知ってる。もう200年近く前だよな?なんでまた今になって…」
俺は澄を見ると、澄はまた一段とぶっきらぼうにブツブツと話し始めた。
「…暇つぶしに、亞の成分に似たものを作っただけだ」
「ほお?」
焔は羽を仕舞い、澄の顎をくいと掴むと、澄の顔面を目で舐め回した。
「それで?何を得た?」
澄は焔の腕をぎゅっと掴むとカタカタと震えていた。
「遊ぶ金が欲しかったから…ちょっと遊んだだけだ!馬鹿女たちで!」
震えながらもキッとにらむと、焔は「よしよし」と澄を撫でた。
「澄様は、京の財政を使い込まれて…今人間界で使えるお金はかなり制限されてるようです」
露木が美しい顔で深いため息をついて、澄をやさしく睨みつけた。
「え!?よく京都って財政難って聞くけどそのせいなの!?」
「まあ、全部がそのせいではないですが…一部の原因ではあります」
神様なのに財政破綻に加担して、やべー飴作り出してどうしょもねーな。
「話は戻りますが…菫様についてお話いたしましょう」
露木が、女性たちに帰宅の指示を出すと女性たちは一目散に部屋から出て行った。
「好きにしろ。裏切り者のバカ女どもが」
澄は子供の様な暴言を女性たちの背中に向かって吐いたが、誰一人戻ってくることはなかった。




