第9章 Dragon’s Wrath【亞】
「失礼します。今日、一緒に体験させていただきます雷と星です」
茶室の畳に足を踏み入れると、冽が俺たち2人を紹介して頭を下げる。
俺も露木も一応従って頭を下げて、顔を正面に戻した。
ザワザワ…
えっ!かわいい~!え、身長高い人やばい!イケメン!!
10名程の正座した女性が俺たちを見ている。目がハートだ。
ははは、そうだろうそうだろう?最近調子くるってたけどやっぱり俺はイケメン枠なんだよな。芸能人程ではないけど、ベビーフェイスだし、肌は綺麗だし。
丁度いい塩顔なんだよな。
「おい、澄。星だぞ。天の子供」
焔の隣には、黒髪センターパーツの細身の男性が座っている。
男は茶筅を振るうと、賑やかだった女性陣はしつけされた犬のように静かになった。
茶器の中に泡立った抹茶は仄かに日本らしい香りを放っていく。
「あぁ、天のね。似てないな。あのバカ女似か?」
「…!澄様!!」
露木が身を乗り出して、澄に襲い掛かろうとしたが冽が後から羽交い絞めにして抑え込んだ。
ふーっふーっと息を荒げている。きっと俺の母親を侮辱されたのにキレているんだな。
「どーどー。雷。こいつは昔から無神経が服着て歩いてるようなもんだろ?久しぶりだからって興奮すんな」
「ははっ。女に対しては無神経どころか姫扱いの癖になあ」
焔が足を崩して、大きく伸びをした。こいつもパッと見人間の中年男性の姿をしている。神秘的ではあるがイケおじだ。
「えーと。まあ俺は自分の出生についてはまだ認めてないんで。露木もそう怒るなよ」
「失礼いたしました、皆様。」
澄は点てたばかりの茶碗を手に取ると、二度静かに回した。流れるような動作に添えられた指先は白く、指先が妙になまめかしい。
動作1つ1つを女性に見せつけるように舐めるような目線を加え、膝の前にそっと差し出した。
その隙に、着物を着た若い男性がささっと現れ女性たち全員に茶碗を置いていく。
興奮が収まった露木に誘導され、俺も畳の上に座って茶碗を待った。
「お点前頂戴いたします」
露木が言った言葉と動作を見様見真似で茶碗を回した。
二回ゆっくりゆっくり。俺は覚束ない動作だが、焔も冽も手馴れているようでお茶を飲み切った。
「はは、いいんですよ。これは気軽なお茶会ですから。星様、適当に飲んでください」
こいつ…感じ悪いな。冽と焔が感じが良いってわけでもないけど、こいつは明らかに俺を気に入っていないようだ。言葉の端々から俺を馬鹿にしていると威嚇している。
「澄ちゃんよ~こんな素敵なお茶会開いて何が目的?」
焔が正座していた脚を崩して、澄になれなれしく話しかける。
「目的?僕は茶道を皆様に気軽に楽しんでいただきたいだけだ」
「せっかく4神そろったんだし、メンヘラ起こしてないで真面目に働こうぜ~
俺早く終わらせてハワイ行きてーの」
冽は隣にいる若めの女の手を握りながら、口説いている。
ハワイに連れていく気だ。
「メンヘラなど起こしていない」
「じゃああの趣味悪い紫のお空はなんなの~星に主役とられちゃって怒ってるの?」
焔は40代女性の頭を撫でながら、大あくびをした。
「結界を崩すほどではありませんが…亞の飴玉を配り歩いているのは本当ですか」
露木がゴホンと咳払いをして、澄をじっと見つめる。角や尻尾は出ていないが、
殺気のせいか白龍の姿をした時と同じくらいの圧を感じる。
「あっはは。雷~!みんながゆっくり優しく聞こうと思ったことを!」
焔が豪快に口を開いて並びの良い歯を見せながら笑った。
亞の飴玉って、お座敷で芸妓が握りしめていたあの飴か?
「デリカシーがないですね?雷。亞の成分が入った物は禁じられているだろう。もう160年以上前のこと。日本には入れなかったはずだ」
俺の向かい側にいる女性が、小刻みに震えている事に気が付いた。この会の中で1番痩せている。やせ細っている。
腕は小枝のように細い。
澄と焔、冽が話している隙に俺はじっとその女性を見つめた。
女性は俺の視線に気が付かないほど焦った様子で、ポケットから何かを出して周りを気にしながら口に入れた。飴玉だ。お座敷で見たあの…海松色の飴玉だ。
露木が俺の耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。近いせいか耳が吐息の熱で濡れた気がした。熱はぞくりと背中に伝わり、尻尾が身体から出たがって疼いた。
「あの女…あの女を胎でみろ。知りたいだろう。京で何が起きているのか」
俺は女の姿を目に焼き付けるようジッと見つめ、自分の腹に手を添える。
胎がどこなのかわからないけど、いつもより腹部がじんわり暖かい熱で包まれているように感じた。




