第9章 Dragon’s Wrath【茶室】
俺達は京都市役所に向かうべく、置屋を離れた。
「すぐ、もどってきて下さいねぇ」
芸舞妓は、冽と焔に擦り寄り目を潤ませていた。
まあ…そこらの人間よりずっと見た目はいいし、女には優しいもんな。
「星様もお座敷遊びに興味がありますか?」
乗せられたタクシーの中で、露木がぴったりと俺に近づき目を乙女のように潤ませ、興味が無いと言えと訴えてきた。
タクシーは俺と露木2人だけで、焔と冽はもう一台の方らしい。この姿のまま乗車していいのか?と躊躇すると、なんでも今の京都は玄武、澄の影響で俺達神は一般人には見えなくなっているらしい。
……ファンタジーすぎるぞ。
「俺は女の子は好きだけど、何だろう…あの子達には庇護欲は湧くけど…お座敷遊び?はしたくないし、寧ろさせたくない」
「流石!流石です!!それでこそ神の頂点の青龍様です!!あのおふたりは金払いはいいですが、芸舞妓とどんちゃん騒ぎが大好きでして…神として軽蔑しております」
露木は潤ませていた目を、ジト目に変えて俺に擦り寄ってきた。
高校生の姿の露木は無愛想だけど、白龍だと表情をコロコロ変えて面白い。
「…ぷはっ、はは」
「どうされました?」
「いや、お前キャラ違いすぎ」
俺は緊張が解けたのかタクシーの中で涙が出るくらい笑ってしまった。
何度も着て柔らかくなった部屋着の王様みたいなTシャツに包まれているように安心する。
こいつといる空気は柔らかく変化する。
***
タクシーを降りると、相変わらず空は、ドスが効いた紫色に覆われていた。
「でも、気持ち悪くない」
「きっと、星様が邪気のレベルを読み取ることが自然と出来ているのでしょう。車酔いみたいなものです。所詮、玄武の力は青龍には及ばないので」
京都市役所は、流石と言わんばかりの外観だった。レトロだが時代に取り残されている感じはなく、ここが観光名所と言われても頷ける。
俺の地元の役所が悪いって意味ではなく…
京都らしさがふんだんに出ている。
「今日は日曜日なので、基本職員はいませんが…まあ居ても見えてませんのでお気になさらず進んでください」
「はぁ…」
本当かよ、信じられねーなぁ。
裏口の職員専用入口を露木に案内された。
見えてねーなら堂々と正門から行けば良くないか?
「ご苦労さまです」
裏口にいた警備員に露木はニコニコ笑みを浮かべ頭を下げ、俺を先に中に入れた。
「え?見えてるの?あのおじちゃんには」
「はい、見えてます」
「…さっき見えないって!」
「あは、あの方は神庁お抱えの警備員様ですので」
…どういう設定なんだ。統一してくれよ…。
中にはいると、一瞬で金がかかっている豪華な庁舎だということがわかる。
シン。
音はしないのに、音がした。人がいる場所に人がいなくなると、音がするのだ。
俺は知っている。この妙な静けさ。
ごくりと唾を飲むと、瞬きをした瞬間、暗い胎がまぶたの裏に広がる。
…似ている。夢で何度も見た黒い静けさだ。
「…星様?」
露木が中に入ってきて顔を覗き込んでハッとした。危ない…胎が何なのかまだわからないが、トリップしがちなのは自覚したくなくてもわかる。
「わり、なんか不気味でさ。休みの役所初めて来たし」
「確かにそうですね。でも…」
「でも?」
「きっと…上の階は不気味というか…予想ですよ?もうドロドロじゃないですか?」
ニッコニコだ。小学生が今からテーマパークに行くんじゃないか?ってくらい満面の笑みだ。
「…澄様が開催されているお茶会は4階のようですね。」
スマホを俺に見せると画面にはポップな文字でこう表記されていた。
【イケメンと学ぶ茶道と日本の歴史】
「…このイケメンこの前テレビで見た」
「はいっ!我が4神の玄武、澄様ですね!」
「コイツがやべーことしてんの?」
「星様の胎にも現れましたし…まあそんな気がしますねくらいです!空を紫にしちゃうメンヘラ具合は澄様くらいですし」
トットコ。
スマートフォンにLINE通知が到着した。
【早く来い、4階。茶室。】
冽からのメッセージだ。
こいつら神様のくせにLINEしてんだよな。
「星様もLINEしてますよね?」
俺の苦笑いから、心を読み取った様だ。
露木は承知しましたと返信すると、俺の腕を掴み庁舎をずいずいと進んで行った。




