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第9章 Dragon’s Wrath【飴】

焔の手から出た炎は女に向かって放たれた。

誰も放った手を止めることは無かったが、後ろにいた舞妓たちは悲鳴をあげた。


女は炎に包まれたが、体が燃えることはなかった。燃えている炎に包まれているだけだ。


「ぅぁあ……ぅああ……く……くるし……い……もっと……ほしい……もっと……」


炎の中で白目を向いて、口からヨダレを垂らして天を仰いでいる。


「欲しいものはなんだ?」


俺は女に向かって問いかけた。

目の前にいるのは知らない女なのに、無惨な姿に激しく胸が痛む。


「…澄さま…澄さ…ま…」


俺の問いに、女が喘ぐように口を開く。


澄?

瞬きをする度に、視界に誰かがチラつく。

色白、黒髪、細い首。


カコン。乾いた音のあとに、茶を立てる音が聞こえる。

……シャカシャカ……

サッサ……サッサ……


茶を点てる手は青い血管が浮かぶほど白い。

滑らかな肌は新雪のようにきめ細かく、消えてしまいそうだ。

その姿は…美しいが、袖から覗く腕からどす黒い青いあざが見える。


「…その澄は、どこにいるんだ」


「いえ……ませぬ……っ」


女は炎の中で吐き気と戦っているのか何度も嘔吐くが堪えている。


「…星やべーな。青龍になったとたんこれかよ。こえー」


冽は、引きつった声を上げて炎から一歩遠ざかる。


「おい、星。澄の居場所は見えねーのか?」


「…見えない。が、この女に吐かせる。必ず。

……お前たち!見ておけ!この女のような芸妓になってはならぬ!!」


脳内で考えてもいなかった言葉が勝手に口から出る。ただ、ただ、守りたい。皆を。

焦燥感に駆られる義務感が脳を支配していく。


俺は女に近づき、ひざまずく。

そして、火を止めるよう焔に手で合図を送った。


女を見つめると、勝手に目の瞳孔が開く。

そうだ、この目を見ろ。青龍の瞳に広がる星々は、人の心の闇を照らすためにある。


見られぬ人間は助からぬ運命だ。


「…かはっ……ぐぅ……青龍……さ……ま……」


女は目が合えば泣きながら涎を吐いた。

そして、俺の襟元の着物を掴み息を吸うとゆっくり小さな声で話し始めた。


「…澄さ…ま…は…京をつぶす…気です…この…飴は…晴山…が全て……澄さまは…」


ガクン、と女の頭が落ちた。


「ったく…世話がやける女だ」


焔が両手を差し出し再度炎を手のひらから立ち上がらせた。女は炎に包まれると、荒い呼吸が大人しくなり、眠りについた。


「…大丈夫です。焔様の炎は治癒力に長けていますので」


露木が俺のとなりにしゃがみ込むと、にこりと微笑む。


「なになに?うんうん、えっ!?市役所にいんの??澄ちゃん??」


振り向けば後ろの方から、冽のとぼけた声が聞こえた。

舞妓を抱き寄せ耳元で何かを聞き出している。


「あんがと!落ち着いたらお座敷遊びしよねっ!

あ、澄ちゃん、役所で薬物の指示してるってさー」


「えっ…ちょっと…え?何が何だか…」


「はは、お前、高校生の顔に戻ったな。よくやった。お前の力が無ければこの女は、澄の闇に飲まれて死んでいただろう」


焔が俺の頭をくしゃくしゃ撫でて笑った。


俺は…なんであんな偉そうに…怒っていたんだ?さっきまでの自分の怒りが、今はもう他人のことのようにはるか遠くに感じた。


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