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第8章 his return【芸】

目を開けると、焔は口角を上げ俺を見た。

興味津々と言わんばかりに興奮している。


「カッコイイなあ、青龍は。過去未来、特に孤独や悲壮感を読み取れるのは青龍にしかない力だ。」


「…その分精神的ご負担を強いられますけどね」


露木が焔を睨みつけた。

この2人相性良くなさそうだな。


「何を見た、星」


「…小さい子供です。あとは大人の声が聞こえました。子供の父親のような気がしました」


「柏木だっけか?お前の同級生の時もそうだったろ…やはり胎には子供が映りやすい」


冽はペロリと自分の唇を舐めて得意げに笑った。見たのは俺だけどな。


「だからなんなんですか?」


俺が見ている映像なのに、俺だけが核心に触れられていない状況にイライラする。

こいつらちょっと年上だからって…

ちょっと…うん…かるく100歳くらい…


「そいつぁ、多分だが…澄だな。」


「…澄、聞こえた気がします。なんなんですか?一体」


つい、口調が荒くなるが焔は全く動じない。


「俺を含め、足らない神は誰だ?星」


焔は子供を扱うような声色で俺に問う。

優しくて甘い声だが、どこかで何も知らない俺をここにいる全員に再度確認させるようだ。


「…玄武ですか」


「流石だな。安っぽい漫画アニメによく出てくるもんな、俺らは」


わははっと大きな声で笑うが、誰1人笑うことはない。冽がため息をつくらいだ。場をしきれない状況がつまらないのであろう。


「…失礼いたします!焔様!」


襖が勢いよく開けられ、全員の視線が俺から外れる。赤沼だ。


「すぐ!!すぐ来てくだせえ!!祇園花街にも…!!うちの芸舞妓の様子が…!!」


顔色は元々悪かった気がするが、青白い顔で唾を飛ばしながら訴える。


「ったく。澄のやろう。とんだ疫病神だな」


冽がやれやれと手を挙げてため息をついた。

それに続くように、露木が俺に近づき、手を握る。


「星様。お身体はいかがですか?」


「…まあ、大丈夫。いきなり総理は勘弁してほしいけど」


「申し訳ありませんが、次の仕事へ向かいます。

辛くなりましたらすぐおっしゃってくださいね」


露木に手を引かれ歩き出し振り向くと、総理ご一行が俺たちに向かって頭を下げていた。


***


置屋を出ると、紫の空が広がっていた。青い空に不純物を意図的に混ぜたような不安感を煽る色が花街を見下ろしている。


今は朝なのか夜なのか。


「これは…一体。なんだ…めちゃくちゃ気持ち悪い」


俺は空を見る度に胸焼けがし、深く息を吸い込まないようにした。

先程まで香っていた白檀の香りが薄くなっている。


「結界が…薄くなっていますね」


露木が空中に手を伸ばすと、オレンジ色の灯りがゆらゆらと近づき手の甲に止まった。


「熱くねえの!?」


「ふふ。熱くありません。この子達は炎ではありませんから。結界には命が宿されています。お零れにも、小さな命があります」


俺が手を伸ばすと、灯りは瞬く間に俺を包んだ。揺れる度に白檀が香る。


「かわいいな」


「浸ってるとこ悪いが、そいつらとはいつでも遊べる。朝までにどうにかしねーと。星、お前の胎が必要だ。いくぞ」


祇園の花街には芸舞妓が歩いているのに、それ以外の観光客が一人もいない。

芸舞妓は、俺たちを見るとお辞儀をしてそそくさとそれぞれの置屋に入っていった。



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