☆番外編☆UNAGI
「へ?好きな食べ物?」
屋上での昼休み、菓子パンを頬張る露木は俺に尋ねてきた。唐突だなぁ。どうした?なんか奢ってくれるのか?
はぁ…相変わらず顔が無駄にいいなぁ。露木は。
露木は男の俺がため息が出るほど美しい。
きめ細かい肌、通った鼻筋。伏し目がちになれば目元の緻密なまつ毛がふわりと動く。
「綺麗だ…」
「だから、好きな食べ物はなんだ?」
ぐいっと露木の綺麗な顔が近づいた。
吐息が俺の唇にかかる。
ドクンドクン。胸が高鳴るどころでは無い。
身体中を血液が駆け巡る。
もっと…近づきたい。
出来るならば…もっと…
その薄くて形のいい唇を…
「だから、好きな食べ物はなんだ?」
「…!!??鰻!!」
……ヤバい。俺、何してんだ。
何キス待ちしてんだ。
わああああああああああ。死にたい。
いや、死ねる。何考えてんだ俺。
こいつと一緒にいると調子が狂う。
欲望が前に出てしまう。
「鰻か…」
露木が苦笑いして、ふいと顔を遠ざけた。
…くそ。もうちょっとだったのに。
「うん。鰻。嫌いか?」
「食べたことがないんだ」
「なんで」
「……」
ん?鰻食べたことない日本人なんているか?
日本産じゃなくても1回くらいあるだろ。
「…似てるだろ。俺たちに」
ん?似てる?
俺たち…?
「だから…龍にだ。鰻は似てると思わないか」
たしかに…。言われてみれば。
「お前…怖くないのか?俺たち種族に似ているだろう?細い胴体とか…」
***
放課後。露木と俺は誰もいない俺の自宅リビングで2つの箱を見つめていた。
「ひとつは牛丼。ひとつはうな丼だ」
高校生の経済力で買えるのはチェーン店のうな丼だ。〇国産と言えど1000円超の丼は、めちゃくちゃ高級品だ。
「…星様」
可愛い角を2本出した白龍が俺にウルウルとした目線を向ける。
目には薄ら涙を貯めていて美しい。
「いいんでしょうか?とてもいい匂いですが…親戚かもしれません」
うな丼の蓋をパカッとあけて、くんくんと匂いを嗅ぐ。親戚じゃねーだろ。
「バカか!はよ食えや!鰻は日本の魂じゃ!」
俺は牛丼にがっついた。
あー。うまい。肉は勿論だけど、やはり味付けだなぁ。白米に絡むこの醤油とだしのハーモニー。
日本に産まれて良かったなあ。
「!!??」
口の周りを白米だらけにした露木がキラキラと目を輝かせ俺を見た。
くそ…可愛い。
「星さま!!星さま!!」
「なに」
「美味しゅうです!!美味です!!」
「だろ?」
「はい!!なぜ私は産まれてきて100年以上鰻を食べなかったのでしょう…ふわふわな身。甘みが溢れ出すタレ。舌の上で脂がねっとりと絡みます。白米と併せた時の感動…はぁ。最高です」
バクバクとうな丼を食べ進める露木。
気に入ってよかった。
「…知ってるか?鰻巻きってのがあるんだぞ」
「え!?何でしょうそれは!」
「だし巻き玉子に鰻が入ってんだ」
露木の背後に花が見える。
満開だ。こいつ…食いしん坊なんだな。
「バイト代入ったらな…?」
「星さま!!大好きです!!」
ぎゅーっと抱きしめた手を振り払う気にはなれず、俺は露木の背中をポンポンと撫でた。
今度は何を食べさせてやろうか。
日本には美味しいものがいっぱいだ。




