第6章 Prince and Princess【声援】
「こら!いかがわしい高校生!」
身体にかかっていた長年交際中の相棒と一気に引き裂かれる。今のところこいつ以上に好意を抱いている相手はいないと思う。
「うぅ…」
引き裂かれた恋人を奪い返すため、俺は起き上がってお母さんに立ち向かった。
嫌だ!温もりを返せ!!
「もう8時過ぎてるよ!?星!雷!!」
甲高い怒鳴り声で、瞼を開け現実世界を把握しようと見渡す。人肌を感じ目線を下げると、俺の腰をがっしり掴んだ美少年がすやすやと寝息を立てて寝続けている。
「うわああああ!!やめろ!!露木!!」
露木を思いっきり蹴飛ばすと、派手に床に転がった。やり過ぎたか…?
「おはようございます…」
むにゃむにゃと何か言いながらまた目を閉じようとしている。
「うちはいいけど!あんたら今日、試合見に行くんでしょ!?」
露木はバッと起き上がり、お母さんに一礼をし洗面所に向かった。ちょっとは動揺とかしろよ…。
***
キュッキュッ
第4クォーター、残り3分。柏木のシュートが決まると黄色い声が観客席から爆発した。
「すげえ…柏木」
俺は初めてみるバスケ公式戦に少し興奮してしまっていた。楽しんではいけない。
「…少し調子が悪そうだな」
「そうか?さっきからシュート決めまくってるだろ」
露木は腕を組み直したが、瞬きもせず柏木だけを見つめている。俺が露木を見ても視線を外さない。
『裕太〜!!裕太〜!!』
1人の突き刺さるような黄色い声と、周りにいた女子の声が
体育館の壁に反射した。
漫画でよく見る女子のキャーだ。実際にあるんだなと声の発生源を探す。
……鈴川さんだ。
彼女は5名ほどの西高カースト上位女子とはしゃいでいる。自慢の彼氏の県大会決勝戦だもんな。あぁ、輝かしいカップルなのに。
「柏木…なんでだよ」
俺がボソリと呟くと、露木がバッと振り向いた。俺らの後ろには、三島ちゃんと…背が小さめな女の子が立っていた。
「こんにちは、星くん。露木さん」
三島ちゃんはお辞儀をすると、苦笑いをした。
隣には、ただ立ち尽くすだけの女の子。何も見ていない…いや、見ないようにしているのだ。
もしかして…この子は…柏木の。
わざわざ柏木の活躍を見に来たのか?
「こんにちは、試合見に来たんだ…」
俺は事情を知っているのを悟られないように、
笑顔を作った。言葉が出てこない。
女の子は何も言わず、客席に座った。
何をしに来たのだろう。まだ柏木に気があるから…?
だとしたら、三島ちゃん。残酷じゃないか。
『ねえ!あれ、慶祭大のスカウトじゃない?』
『…うん、実は裕太ほぼ決まってるの』
『やっぱ!そうだよね〜あ〜結衣!顔赤い!』
…西高鈴川女子ご一行。頼む。静かにしてくれ。俺は冷や汗をかいて、三島ちゃんを見たがいつの間にか女の子の隣に座っていた。
しばらく試合を見ていると、俺の目にも柏木の不調が映り始めた。
なんだろう、好調なのだが、苦しそうに息を上げている。バテたのか。
柏木の様子とは関係なく、女子の悲鳴がヒートアップする。
柏木はパスを受け取ろうと構えたが、悲鳴と同時によろけボールは相手チームに渡ってしまった。
何か変だ。
構えたのに取れない。そんなミス、キャプテンがするか?
「露木…」
「なんだ」
「柏木さ…固まったよな?」
露木が、頷きやっと俺の顔を見た。
目線が合うと予想通り、目の中はパチパチと電流が発生していた。
「言ってみろ。考えを。」
「…」
「読めてしまったんだよ、お前は。
青龍として。人間の苦しみが」
露木は淡々とつぶやくが、少しだけ俺と距離を縮めた。
俺の肩に手を載せると、パリと静かに音を立てた。露木の手の甲は白い鱗が薄ら浮かび上がっている。




