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勘違い王太子の成長録  作者: 存在証明
第一章 嫌われ者の王太子

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第12話 「黎明の烏、結成秘話③」

それから一週間、俺たちはその屋敷で暮らした。王子の言った通り大きな屋敷であるにもかかわらず、常駐している使用人は一人もいなかった。


「なあ、どう思う?」


「どうって言われても…何が?」


「王子のことだ。おかしいと思わないか?」


「逆じゃないかしら。あの王子だけがまともなのよ。」


そう言って目の前にある大量の料理を頬張りながらリリアがそう言った。


「こんなに良くしてくれる割には、奴隷の首輪はそのまま。台所に食べ物は好きにとっていいと書かれた紙がはられてあって飯には困ってないが、屋敷から出るなと命令したきり帰ってこない。それだけでいろいろとおかしいだろ。」


「奴隷にしてはいい待遇じゃない。」


「俺たちを豚の餌にするって話はどこいったんだよ!」


「ウソ、なんじゃない?」


「でも、王子は…」


「イリオス、ここで大事なのは噂じゃないわ。実際に王子が行なったことが何なのか、よ。王子は私達を買い取り、自身の屋敷に連れて帰った。そしてそこで奴隷の傷を治し、腹いっぱいご飯を食べさせた。たとえ王子にどんな噂があろうとも、どんなに行動が怪しかろうと、私達の恩人であることには変わりないわ。」


そんなリリアの真っすぐな瞳に、俺はハッとさせられた。その時、ガチャっと扉が開いた。


「みんな、少しいいかな?真剣な話があるんだ。」


連れてこられたのは大きめの会議室のような場所だった。


「僕がどうして君たちを救ったか、そのことについて話しておきたいんだ。」


王子の口ぶりから真剣な話であることは間違いなさそうだった。


「僕の父上は知っての通り人間至上主義の暴君だ。この国の住人は父上の思想を押し付けられているだけで、本気で亜人差別を正義としているのはごく一部の人だけだと僕は思ってる。それが正しければ、元凶さえ取り除くとができたら、平等で平和な世の中になるはずなんだ。そのためには陛下を排除する必要がある。でも、僕は魔法が使えない。従順にして腹の内を探ることはできても、首を落とすことはできない。だから、その役目を他の誰かにやってもらう必要があるんだ。そこで僕は君たちを抜擢した。僕は、君たちにこの国を変えてほしいと思っている。その過程で僕の首が必要であればすきにとってくれていい。」


必要であれば自分を殺せと言っているのか?


まさかそんな発言を12の子どもがするとは思わなかった。


「…命令したらいいでしょう。」


「いや、これは君たちの人生を大きく左右することだから命令はできない。だから僕の願いなど無視して隣国に逃げても構わないんだよ。」


「首輪がついている限りそんなことはできない!」


「奴隷の首輪を解除するには魔力が必要だけど、僕は上手く魔力を扱えないから、解除の魔道具を買ってきたんだ。」


そう言ってちょうど12名分の鍵のような魔道具を僕らに1つずつ手渡した。


「貴重なものだから集めるのに苦労しちゃって、、」


まさか、そのために一週間帰ってこなかったということか?


「僕の願いを叶えてくれるなら、今ここで僕の首をとってもいい。」


王子はそう言って腰につけていた剣を机に置いた。

全てを諦めているかのようなそんな眼差しだった。


「…ここまでよくしてもらったにもかかわらず、恩を仇で返すような真似、できませんよ。」


首輪に鍵を差し込むとガチャっと音を立てて地面に落ちた。


「ここの者は全員国王に恨みがあるんです。その恨みを果たせるなら、俺は死んでもいい覚悟です。ですが、あなたは俺たちの恨みの対象ではない。12の子どもに何ができると言うんです?あなたのせいで仲間が死んだなんてこれっぽっちも思ってませんから。」


およそ12才のものとは思えない、王子の無機質な瞳を見ていると、殺意などとっくの昔に消えていた。そんな瞳をするぐらい辛い何かがあったことは明白で、王子は我々と同じ国王による被害者だ。そんな人間を王の息子だからと憎めるものか。


「…そう、、ありがとう。とりあえず、僕の持ってる別荘を一つあげるからみんなでそこを使ってくれる?」


「いいんですか?そんなことをすれば国王にばれると思いますけど…」


「いや、これは僕が個人的に所有しているものだから大丈夫だよ。」


そう言ってフワッと笑うその顔は年相応だった。


「僕はそろそろ城に戻るよ。別荘までの行き方はテーブルの上に鍵と一緒に置いておく。絶対にみんなで行動してはダメだよ。少なくとも3人は超えたらダメだ。怪しまれてしまうからね。それじゃあ、君たちの幸運を祈っている。少ないけれどこれは君たちを買った時に値切ったお金だよ。上手く使ってね。それじゃあ。」


そう言って王子は屋敷を出て行こうとして、ふと足をとめた。そして一度だけ振り返ってこう言った。


「これから先、君たちが笑顔でいられることを、心から願ってるよ。」


それだけ告げて王子は今度こそ屋敷を出て行った。


その瞳に宿っていたのは、俺たちと同じ悲しみと、俺たち以上の孤独だった。あの少年こそ、檻に囚われた存在なのだと、その時俺は悟った。


この日、俺たちは一つの誓いを結んだ。

それは革命のためか、それとも――一人の少年を救うためか。

答えを知るのは、まだ遠い未来のことであった。


********

後日談


「それじゃあ傭兵団を作ることにしたんだね。イリオスが団長なんだよね?名前は何にしたの?」


「そのことなんですが、エリオス様につけてもらってもよろしいでしょうか?」


「えっ、いいの?こういうのは自分たちでつけた方がいいと思うんだけど。それに、僕、ネーミングセンス皆無だよ。」


「いいんです。それがこの団の総意ですから。」


「…そうなんだ。じゃあ、『黎明の烏』ってどう?」


「理由をお聞きしても?」


「明け方の烏って神秘的でしょ?」


そう言ってエリオスは意味ありげに笑った。


「分かりました。今日からこの団は『黎明の烏』と名乗っていきます。」


「えっ、うそ、、冗談のつもりだったんだけど…」


そんなエリオスの声にイリオスは聞こえないふりをして、喜々として団員に報告しにいったのだった。

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