推しアイドルの握手会に行ったら、10年前に音信不通になったはずの幼馴染が笑ってきた件
佐藤元は地下アイドルの握手会に向かっていく。会場は秋葉原の建物の地下で開催されるのだった。
この地下アイドルCheriePaletteは、最近、元が追うようになったアイドルだ。
名前の由来はフランス語の、愛しいパレットというらしい。
デュオユニットの地下アイドル。売れているわけでもなく、人気があるのではない。
それでも、元はこのデュオユニットのアイドルが好きだった。
とくに、Cherieのほうが好みだったのだ。なぜか知らないが、引力のように、彼女と結びついてしまう傾向がある。
「次の方どうぞ」
「あ、はい」
スタッフの声につられて、部屋の中に入る元だった。
中には女神が座っていた。
女神の瞳は蒼穹を連想させるような瞳に、顔の形は細く、いいバランスになっていた。淡い赤色は優しい感じで、背中まで伸びている。
体はやせ細く、元と比較すると、体格は半分にしかないのだ。
別に元は太っていることもない。一般人とほぼ変わらない体格をしている。
なのに、Cherieはその彼の半分くらいしかないのだ。
そんな体でよくステージの上で踊って歌える。
元は彼女の体格に関心を持つのだった。
そんなことを考えていると、Cherieは声を上げる。
「あら? キミは常連の人」
「ぼ、僕のことを覚えているのですか?」
「当たり前よ。キミの顔は覚えやすいからね」
そうクスクスと笑うCherieだった。
「あ、マネージャー。彼と二人っきりで話したい。それと時間を10分間話したいわ。それでいいかな? 彼すごく情熱のファンなの」
「問題を起こさなければ、いいよ。ここ防音じゃないから、喘ぎ声は禁止な」
「なにもしませんから!」
と、元はツッコミをいられずにはいられないのだ。
「さて、マネージャーも去ったし、キミとは話をしたいね」
「きょ、恐縮です。ぼ、僕みたいなものを覚えてくれて」
「そんなかしこまらなくていいのよ。ため口でいいよ。わたしたち同じ年だし」
緊張が一気にほぐれる元は椅子に座るのだった。
「あ、あの。話をしたいのですか、何を話したらいいのか、よくわからなくて」
「ん? そんなのなんでもいいのよ。例えば、今日は暑かったね」
「そうですね。6月なのに、こんなに暑いと、僕、溶けちゃいます」
「溶けちゃだめよ。わたしのファンなんだから、地獄の果てまで私を推しなさい」
「うわ、辛辣ですね」
「ふふふ。Cherieは残酷な女神なのです。推し変や死亡は許されません」
「そ、そんな」
「と冗談はおいておいて、来週のイベントに参加してね」
「あ、はい」
手を差し伸べるCherieに元は手を伸ばす。
握手会であることを完全に失念してしまったのだ。
「やっぱり、陰キャなんだね」
「え?」
「なんでもないわ。こっちの話」
「ふえ?」
「それより、キミの趣味を聞かせて頂戴」
「あ、はい。アイドル推し」
「アイドル推しは知っているわよ。違うことを聞いているの」
「そうですね。たぶん、Vtuber配信鑑賞になりますね」
「はあ? 浮気?」
「いやいや、僕の中ではCherieしかありません」
「投げ銭とかしていないわよね?」
「神に誓っても投げていません」
「わたし以外推したら、あれちょんだからね」
「怖い怖い」
「本気はおいておいて」
「冗談にしてほしいのですけど!?」
「アイドルって、最近つらいのですよ」
「辛いとは?」
「資金めくりが難しくなったかな? 前はパンツ見せたり、まぐら営業をしたら、金はぽんぽこぽんぽこ入ってくるのだけれど、今の時代コンプライアンス問題とか、Vtuberに覇権を譲られたとか、で大変なんですよ」
「おつらい気持ちはわかりますが、生々しいことをファンの前にいうのをやめませんか?」
「キミは推し変をしないよね?」
「だからしませんって」
「本当に?」
「本当です。だから、今日はここにやってきたんです」
「口がうまいだから」
「え?」
「話は変わるけど、ゲームとかやっていない?」
「あ、キノコマンカートならやっています。最近、ゲーム機の抽選あたったので」
「ええ。本当。うらやましいな。わたしも応募したのだけど、3回も落選した」
「ぼ、僕は一次で受かりました」
「それ、わたしへの嫌がらせ?」
「いいえ、とんでもありません」
「あ、そうだ。今度、キノコマンカートをいっしょにやろうよ」
「恐れ多いですよ。アイドルとゲームなんて」
「わたしがいいと言ってるんだからいいの」
「世間はそんな甘くないのですよ」
「世間なんてどうでもいいわ。わたしは、キミと遊びたいのだから」
「それって、ぼ、僕への脅しですか?」
「なんでそうなる!?」
「だって、僕はキモアイドルオタクなんですよ?」
「本当にそう思う?」
「へ?」
「髪の毛をセットして、コンタクトに変えるとイケメンになるよ?」
「僕をおもちゃにみないでくださいよ」
「ううん。本当だって。キミは童顔なんだから、ちゃんとケアをすれば、そこらへんのホストより稼げるわ」
「でも、僕はこれでいいのですよ。モテなくていいのです」
「なんで?」
「だって、僕はとある人を傷つけてしまったから」
そういうと、元は険しい表情を作る。
眉を八の字にして、どこか罪悪感がある顔を作り上げる。
「なにがあったのかは、聞いてもいいかしら?」
「はい。実は、僕には女性の幼馴染がいました。昔はよく遊ぶような関係でいます」
「うんうん。素晴らしいじゃない。で……?」
「彼女の夢はアイドルになることでした。でも、なかなかうまくいかないのです」
「キミは彼女のことを推していたの?」
「もちろん推していました。でも、彼女が表舞台に立つことはありませんでした。僕が、親の事情で引っ越すことになったのです。だから、彼女がどこまで行ったのかはわかりません」
「ふーん。そうなんだ」
「はい。彼女が活躍している場面はみたいものです」
すこしむすっとするCherieだった。
なので、Cherieは心隠さずに本音を訪ねる。
「で、キミはどうして、わたしを推しているの?」
「それは……あなたが、幼馴染の面影を感じさせるからです」
「へえ、それ幼馴染の浮気になるのよ?」
「そうですね。それは認めます。でも、もしも彼女がアイドル活動をしているなら、彼女を推したいです」
「それって、推し変?」
「……いいえ。同時に推します」
「世間では、浮気というのよ?」
「ああ、すみません。それだけは許してください」
ぺこぺこと頭を下げる元にCherieは笑い出す。
「やっぱり、キミはから甲斐があるね」
「僕をいじめないでくださいよ」
「だって、楽しんだもん。こうして話せるなんて」
「え?」
「それより、この前、新しい店、秋葉原の駅前でお菓子屋さんを見つけたの。今度一緒に行かない?」
「僕、ただのファンですよ?」
「もう、ここまで話している中じゃない。セフレを超えた距離感よ?」
「なんで、卑猥な話になるのですか!?」
「だって、ねえ。そうじゃない。女にここまで口説いて」
「口説いたともりはないのですけど?!」
「さすが内心は肉食獣ね。外では、虫を殺さないような顔をしているけど、内心ではわたしを凌辱しようとしている。いやん、わたしたちの関係はだめよ」
「だから、何の話なんですか!?」
「冗談よ」
「もう、僕をからかわないでくださいよ。心臓に悪いのですから、冗談も大概にしてください」
「ごめんね、キミ、からかい甲斐があるから。次はちゃんとした話題にしましょう」
「はい。お手柔らかにお願いします」
「それでは、楽しい会話をしましょう。最近、犬を飼ったの、名前はめんどくさいから一号って呼んでいるわ」
「もっとマシな名前はないのですか?」
「いやよ。この一号がいいの。はい。一号、お手」
「僕は、犬じゃないですよ?」
「まあ、反抗期かしら」
「犬に反抗期があるのですか?」
「わたしもしらないわ」
Cherieはそういうと、スマホを取り出し、何かを操作する。
そして、犬の写真を元に見せるのだった。
「はい。犬の写真」
「かわいい柴犬ですね」
「そう、柴犬。それは犬の中での侍魂をもっているのよ」
「柴犬に侍魂をもっているだなんて、初めて知りました」
「今作った設定よ」
「いや、あんたの妄想かい!」
「でもね、考えてみてほしいの。散歩の途中に、違う柴犬とすれ違うとき、こっちの柴犬がじっと、ほかの柴犬を睨むの。相手の柴犬もそうだわ。こっちの柴犬をじっと睨み返すの。そrてはまるで、武士同氏の見つめ合えになるわ」
「気持ちはわかります。柴犬同士がにらみ合っているのを」
「ゴールデンだと、じゃれあうのにね」
「まあ、柴犬にも柴犬の可愛さがありますよ」
「そうね、こんなに丸まってかわいいのよね。はい柴犬!」
「あ、かわいいですね。柴犬の一号」
「ふふふ、キミも柴犬を飼うといいわ」
「僕、ペット禁止のマンションに住んでいるので」
「なら、わたしの家に移る?」
「だから、距離感が早いです!」
Cherieはちぇ、と言ってから、スマホを仕舞うのだった。
ふう、子のアイドルって、こんなに活発的に攻め攻めだっけ。いつもステージでは、クールやカリスマ性を出すけれど、いまはそんな気配を感じさせない。
でも、十年前の幼馴染の面影を感じるのだ。
「そろそろ時間だし、もっと楽しい話にもしますか」
「僕が楽しい話ですか?」
「もちろん、キミも楽しい話になるわ。例えば、夏休みはどう過ごす?」
「うーん、そうですね。ノープランですけど、アイドル推しをして、適当に秋葉原をぶらつくのかもしれません。コミックマーケットにも興味はありますけど、今年の夏はパスですかね」
「どうして? キミ、昔から好きだったじゃないの?」
「そうですけど、僕はアイドル推しになったので、その薄い本とかはそろそろ卒業しないと」
「まあ、うれしいことを言ってくれるね。でもね、CheriePaletteの夏のライブは渋谷のライブハウスで披露するよ」
「それって、表デビューですか?」
「キミはどう思う?」
「うーん、表へのデビューだと思います」
「うれしいことを言ってくれるね。でも、残念。今回はただのイメチェン。舞台を渋谷にしただけ、表デビューではありません」
「それは残念です。CheriePaletteの晴れ舞台を見たかったのに」
「また表デビューしたら、報告するね」
「あ、はい」
「そういえば、夏休みのことを話していたよね。ライブ以外にも、CheriePaletteはいっぱい、活躍するよ。キミも見に来てね」
「え? ライブ以外の活躍ですか? なにをやるんですか? 表活動になるのですか? 地下じゃなくて」
「残念。もう一回当ててみて。キミは何だと思う?」
「うーん、チェキ撮影とかですか? オタクから摂取しやすいから。あ、あとは握手会の追加とか」
「それもあるけど、もっと摂取したいから、他な活動をしているよ」
「え? なんですか? それは?」
「本を出すの。グラビア撮影のやつ」
「わ、それは重要アナウンスじゃない」
「キミも一冊買ってね」
「はい。もちろんです!」
「これで印税もわたしに4割入ってくる。やったね! Cherieちゃん。これで印税が増えたね!」
Cherieはかっつポーズをする。
「ああ。話が脱線してしまったね。夏休み、CheriePaletteの活動を教えたし、今度は、わたし個人の活動を教えないと」
「え? 個人の活動ですか?」
「そう。TokTokを本格的に活動と思う」
「じゃあ、僕もチャンネル登録しますね」
「ありがとう。キミはやっぱり、わたしの一号に相応しい」
「……それが犬の名前と一緒じゃなければ、喜んでいましたのに」
と、元は多少の皮肉交じりをいう。
Cherieはカラカラと笑ってから、会話を続ける。
「さて、夏の話題はこれくらいまでにして。今度は、楽しい趣味の話でもしようか」
「あれ、趣味は話しましたよ?」
「わたしの趣味は話していないじゃん」
「そういえばそうですね」
「そう、最近はアイドル以外にも、クラッシック音楽にハマっているのです」
「しかもガチに優雅な趣味!」
「クラッシックはいいよ。歌手がないし、音楽だけが流れていく。モーツァルトの曲は頭がよくなるのよ。キミも聞く?」
そういうと、Cherieは片耳の有線のイヤホンを差し出す。
おろおろと、元はその片耳をとると、自分の耳にはめる。
「もうちょっと、近くてもいいのよ。だって、有線なんだから」
「恥ずかしくて死にそうなので、この距離にしましょう」
「だめ、ほら、頭をこっちに」
「うわ」
と、コツンと二人の頭がくっつくようになる。
「じゃあ、音楽スタート」
そして、Cherieは音楽を流す。
それはアイネ・クライネ・ナハトムジーク ト長調であるのだ。
「いい曲でしょ?」
「は、はい。いい曲です」
そうはいっても、元は音楽に集中できないのだ。
だって、推しているアイドルの頭とぶっつけているのだから。
「はい。これでおしまい」
「ふう」
「じゃあ、夏の話題をもっと広げていこう」
「まだ、やるのですか? その話題」
「そうよ。なにせ、なたも5分もあるのだから
「5分はあっという間ですよ?」
「じゃあにらめっこする?」
「ごめんなさい。話題でお願いします」
「よろしい。実は、こんな話があるの。わたし、ドラマ出演するの」
「本当ですか! それはビックニュースじゃないですか」
「本当、夏に放送だから、キミも見てね。あ、キスシーンはないから心配しないで。ファーストキスはキミに捧げるから」
「距離感がばぐっていますって!」
なんど、同じことを叫んだのやら。
「ドラマ出演といっても、脇役かでどね」
「脇役で十分じゃないですか。これで、大きなチャンスになれるはずです」
「そういうのはうれしいのだけれど、実際はドラマのキャストは蟲毒の社会。他人を食い散らかして、勝った奴だけが生き残る。辛い辛い社会なのだ」
「ご愁傷様ですね。でも、僕はCherieが勝てると思ています」
「まあ、わたしは勝つもりはないから、いいのだけど」
「よくないですよ! 推しているアイドルが負けるのは僕は嫌です」
「わたしの純潔を失ってもいいの?」
「それはいやですけど」
「ふーん。そうなんだ。キミという人間がなんとなくわかってきた気がする。本当に変わらないね。キミは……」
「へ?」
「まあ、とにかく脇役であるけど、夏の青春、ドラマは見てね」
「あ、はい」
なんか、ためがある言い方だけど、元は聞き流すことにしたのだ。
「さてと、その脇役。なにをするかっていうと、主人公を振るのです」
「ネタバレされているのだけど!?」
「ふふふ。そのほうがキミも安心できて、見られると思ってね」
「まあ、キスシーンとか大人のシーンがないのはいいのですけど、なんかネタバレ食らった感があります」
「あ、そのシーン終わったら、わたしの出番ないから、切っていいよ」
「……せめて最後まで見させてください」
「じゃあ、次の話題へゴー」
「ジェットコースターみたいですね」
「時間は有限だし、ほら、6分も話しているよ。あと4分もないのよ」
「うわ、本当だ。どうしよう、何を話そうか」
時間に気づくと、おろおろ始める元だった。
「じゃ、じゃあ、最近の健康はどうでしょうか?」
「……キミ、いきなりジジくさくなったねえ。かわいそうに」
「話題が思いつかないので、これにしました。申し訳ございません」
「健康なんて、年寄がする話題よ? キミはおじいちゃんなのかな」
「でも、気にはなります。Cherieさんは僕よりやせ細いのに、ステージでは歌っては踊っていることができるのですから、本当にどうやっているのですか?」
「お褒めの言葉はありがたいわ。でも、体つくりは徹底しているの」
「体つくりですか?」
「そうよ。腹筋、背筋、スクワットといった自重トレーニングが中心。見せる筋肉だけでなく、ダンスを支えるインナーマッスルを重視しているわ」
「しまってください。しまってください。そんなの見たくて聞いたのではありません」
「ひーひーふー」
「なにやっているのですか!?」
「いや、キミも赤ちゃんを産むシミュレーションをしてみて」
「だから、距離感!」
「まあね。体つくりしているから心配いらないわ。それと、摂取するカロリーも重視している。いつもチートデーなんてバカみたいなことはしていないわ」
「それを聞いて安心しました。僕は、そのことについて疎いですから」
「チー牛なのに?」
「チー牛じゃあありません」
「ちぇ、陰キャはチー牛が定番なのに」
「そんなネットの知識で成長アピールしないでください」
まあ、いつから陰キャがチー牛代表になったのかは定かではあるが。
「じゃあ、キミの好きな食べ物はなに? ステーキ、お寿司、するともキャビネ?」
「そんな豪華なものじゃあありませんよ」
「じゃあ、何が好きなのかな キミは……」
「え……いきなり聞くのですか。そんなの」
「チー牛以外に好きなものが気になるな」
「笑わないでくださいよ」
「笑わない」
「は、ハンバーグです」
「……」
「……」
「あははは。子供みたい。なによ、ハンバーグって。お母さん子かキミは……」
「笑わない約束したじゃないですか!」
「ごめん、可愛すぎて笑ってしまった」
「もう」
「怒らないの、そのお詫びにわたしのラインを教えてあげよう」
「え? ポリシー違反じゃないのですか?」
「キミとの関係なら大丈夫」
そういうと、スマホを取り出すとラインアプリを開く。
元もあわてて自分のスマホを取り出すと、QRコードを読み取る。
「はい。これで、わたしたちの仲はファンからセフレになった」
「……また、そんな話をするのですか?」
「キミは嫌い? この関係」
「僕は適切な推しになりたいだけです」
そういうと、元はスマホを見る。Cherieの表示画像を眺める。
そこには、とある子供の顔があった。明らかにどう見ても、彼女の顔ではない。
なにより、元はその子のことを知っている。
「あれ? これって……僕じゃないですか!」
「あ、ばれた?」
「それはばれますよ。一体、だれがこんな写真を持っているのやら……」
元は記憶を辿る。
この写真を持っている人はこの世界に一人しかいない。
それは十年前に別れた……幼馴染。アイドル志望で、元気で明るい彼女。
その名も……加藤麻衣。
「加藤?」
「うん。久しぶりだね。やっと思い出したね。元ちゃん」
それはかつてのない出来ことだった。
そうか、Cherieの正体はあの幼馴染。親の都合で、都会に転校した元がずっと応援していた幼馴染。まさか、こうして再会を果たすとは思っていなかった。
「加藤。変わりすぎじゃないの!?」
「女はね。変わるときは変わるの」
「本当にびっくりした。なら、早く言ってよ」
「いや、だって、元くん。いつまで経っても、気づいてくれないだもん」
「ごめん。僕、気づかなくて」
「でも、こうして推してくれるから許してあげる」
「うん。僕はキミの最推しファンだから」
「なにそれ、キモオタみたい」
「ぼ、僕。キミと再会して嬉しいよ。もう会えないと思っていた」
「再会の喜びしては、遅い気づきね。わたし、すぐわかったのに」
「だって、キミは変わりすぎだもん。ぼ、僕、覚えていないよ」
「変わらないと生きていけないのが、アイドルなのよ」
「くすん。すごいなあ、加藤は……」
「わわ、どうしたの? 元くん」
「うれしいんだ。僕が推しているアイドルが、加藤だなんて」
「名前連呼しないの。わたしはCherieなんだから」
「そうだな、キミはCherieだ。愛を込めた意味だもんな」
「そういうのはずるいよ」
「うん。キミは完璧無欠になんでも綺麗にするCherieなんだね」
「そう、わたしは完璧無敵な究極なアイドルCherieよ。誰にも恋の邪魔をさせないわ」
「わ、久々に聞いた、そんなセリフ」
「ねえ、元くん」
「ん? なに? Cherie」
「わたしは、キミが推しているアイドルになれたかな?」
「……」
「……」
「そうだね」
「うん」
「キミは僕が思うはるかかなたなアイドルになっているよ」
「地下アイドルなのに?」
「地下も立派じゃない。違法なことしていないから、胸を張ってアイドルなんだって誇っていいよ」
「元君……きもいよ。そういうとこ」
「それは言わない約束」
「元君……わたし、頑張るから。もっと、表に出られるような、アイドルになるから」
「Cherieは僕の心の中で一番のアイドルだよ」
「うそっぱち。さっきはVtuberに浮気をしているって言いだしているし」
「すみません。登録解除するので、許してください」
「そうね、許してあげるわ。もし、今度、わたしとお菓子屋さんに一緒に行ったら、許してあげる」
「それくらいなら、いいよ。そこで、もっと話をしよう」
「うん。こどこそ、加藤としてね」
「くすん……キミ会えてうれしいよ。加藤、いや、Cherie」
「わわ。泣かないの。泣き虫だね。陰キャの元くんは」
「10年ぶりに再会したいんだから、涙くらい流すよ」
「その気持ちわかるわ。わたしだって、元くんに推されたのを知って、涙流したわ」
「ははは。僕たち、同じもの同士だね」
「そうね。でも、もっとロマンチックな再会をしたかったわ」
「例えば……?」
「告白とか?」
「それは陰キャには難しいよ」
「もう。男なんだから、ちゃんとしなさいよ」
「わ、わかったからたたかないでよ」
ぽかぽかと叩く、加藤に元は苦笑いをする。
「ごめんな。Cherie。いや、加藤。僕が一方的に離れてしまって」
「うん。許す。わたしを再推ししたから」
「これからキミのことを推しさせてくれ」
「わたしはだれだと思っているの? わたしはCherie。地下アイドルの覇王よ」
「そうだな。Cherieは地下アイドルの覇王。これからも、表舞台にもどんどん活躍していく、アイドルだ」
「……元君がそういうと、恥ずかしくなっちゃうな」
「何を言う。さっきまで、僕をからかったくせに」
元は涙を拭いてから、改めてCherieを見つめる。
「……Cherie」
「なに?」
「キミはみんなのアイドルなんかならなくていい。僕だけのアイドルになればいいんだ。だから、無理して、輝く必要はないだ」
「うれしいこと言ってくれるじゃない。でもね、それじゃあアイドルにはなれないの」
「そうなの?」
「うん。アイドルは偶像。みんなが求めるものに答えなければならないものなの」
「僕はそう思わないけどね」
「それは、キミの独断と偏見よ」
Cherieはくすっと微笑みをこぼすのだった。
「さて、そろそろ十分も経とうとするけど。最後にひとつだけ」
「なになに?」
「顔をこっちに向いて」
「へ?」
チュ、とCherieは元の頬にキスをするのだった。
気づいたときには、元はどうしようもなく恥ずかしくなる。
Cherieのほうに振り向くのだった。
Cherieも頬を赤らめて、こう耳元にささやく。
「わたしのファストキスをあげたわよ?」
「ふえ?」
「なさけない顔になって。本当に元君はすけべだな」
「原因はキミじゃないか」
「あ~あ。感動的な再会が元くんの言い訳で終わる」
「もう! 僕をからかわないでくれ」
「はい。ちょうど10分経過したよ」
「ありがとうマネージャーさん。このあと、この人に凌辱されそうになりました」
「だから、しないっての」
「しないの? こんなぴちぴちのアイドルに手を出さないの? 男のあれが泣くわよ」
「もう! Cherieは清楚なアイドル。ハイ終わり!」
そういうと、元は握手会の会場から離れていく。
彼が部屋から出る前に、Cherieは大きな声で叫ぶ。
「元君」
「なに?」
「今夜、ラインしていい?」
「もちろん、いいとも。僕は加藤最推しオタクだから」
Cherieはそう聞くと、顔を赤らめるのだった。
そこから、元はこの部屋から出ていく。
「彼、初恋なんでしょ?」
「そうですよ」
「追いかけなくていいの?」
「そんなことをしなくてもいいのです。なぜならば、わたしは彼の最推しのアイドルなんですから」
「ふーん。わたし、彼を食べようかしら」
「怒りますよ。マネージャーさん」
「わお、怖い怖い。Cherieがそんなに怒るなんて」
「わたしの大事な幼馴染なんです。将来は彼と結婚します」
「そういうの、彼の前に言わないの?」
「言いませんよ。だって、わたしはアイドルなんですから。みんなの偶像なんですから」
そういうと、Cherieはウインクしてから「次の方どう」と言い出したのだ。
そのあと、CheriePaletteは表舞台に行き、大きなアイドルになっていくのだ。
元が夢に見ていたようなアイドルに成長していくのだったのだ。
だけど、物語はここで幕を閉じるのである。
はじめまして。
ウイング神風です。
始めて小説家になろうに投稿してみました。
作品が気に入ってもらえれば幸いです。
私自身、哲学が大好きな変態紳士なので、異論は認めます。
人々に楽しさを与えるような作品を執筆したいと思っていますので、
ごゆっくり精読していってください。