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蟻の巣  作者: Alan Ingres
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008

 最終確認を終え、私は、完成したファイルの入ったフォルダを「作業中」フォルダから「終了」フォルダに移した。目をしばたたきながら顔を上げ、目の前の壁の窓を見た。もう何年もカーテンを閉め切ったままなので、外が見えるわけではない。ただ目の焦点位置を変えるだけの動作だが、それでもなんとなく目の疲れがマシになるような気がする。厚手の生地のカーテンの両端の隙間から、冷たく白い朝の光が、ウスバカゲロウの羽のようにひらめいていた。左手でカップを手にとり、冷めたコーヒーの残りを一息で飲み干すと、ほっと息を吐きだし、椅子から立ちあがって肩を回した。それから次のコーヒーを淹れるために、私はカップをもって仕事部屋を出た。

 コーヒーメーカーはキッチンにある。少しでも体を動かすようにするためだ。キッチンでコーヒーを作る間、カップを水で軽く洗って、シンクの横のカップ立てにある新しいカップと取り換えた。少し薄めに入れたコーヒーを手にして仕事部屋に戻る途中、通りかかったリビングの入り口から中をのぞくと、ソファに座ったドールの後頭部が見えた。彼女は今日もお気に入りのワンピースを着て、これもお気に入りの正面の壁を見ていた。

 「おはよう。ずっと起きてたのかい?」

 私はそのまま仕事部屋にもどった。仕事部屋のデスクに戻ると、次の仕事の内容を確認し、かんたんな作業工程のメモを作った。明日から始めてもじゅうぶん間に合いそうだ。私は体を起こして椅子にもたれると、左を見た。ドール専用の小さい椅子が、書棚の前に置いてあるのが見える。私がさきほど終えた仕事を始めたのは3日前だった。そのとき、私はドールをその椅子に座らせてから、作業を始めたことを思い出した。

 ドールがリビングに移動したのはその次の日だった。

 私はドールがひとりでに移動したことに関して、なんの驚きも不思議も感じなかった。ドールがどうやって仕事部屋からリビングに移動したのか、それはわからない。歩いていったのか、飛んでいったのか。あるいはパッと消えてパッと現れたか。少なくとも私が見ている間は、ドールはピクリとも動いたことはなかった。しかし、私の見ていない間に、ドールは部屋から部屋に移動するようになっていた。

 メモを書き終えると、私はパソコンの電源を落とした。時計を見ると、まだ午前7時にもなっていない。

 少し睡眠をとってから、ひさしぶりに外に出ようか。そろそろ買い出しが必要な頃合いだろう。

 私は寝室で着替え、ベッドに横になった。枕に頭が沈んだ一瞬、軽いめまいがした。

 ここのところ、ちょっと忙しかったからな。それに最近、からだがひどくだるく感じることがある。医者に行くほどでもない、と思うが、比較的暇なときに一度診てもらってもいいかもしれない。目を閉じるとまた、かすかな目まいが私の頭の中でくるくると回転して、そのままそれは眠りへと変わっていった…

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