006
仕事部屋で作業中、ときおり私は気配を感じて、部屋の入り口に目をやった。仕事部屋はドアストッパーで開け放しになっている。誰かが入り口から見ているような感覚を、ふとした瞬間に私は背中で感じ、その度に振り向いては入り口から見える廊下を見た。
誰もいない廊下を三回見たあと、私はそこまでの作業のセーブをするとパソコンの電源を落とし、目を閉じて椅子の背もたれに寄りかかった。
ドールの様子を見に行く方がよさそうだった。
私は仕事部屋を出て、リビングに向かった。部屋の明かりをつけると、ソファに座っているドールの後頭部が見えた。そのあまりのリアルさに、今更どきりとさせられた私は壁のライトのスイッチに手を置いたまま、しばらくその黒髪を見ていた。いきなり部屋の明かりがつけても、彼女を驚かせることはできないのを確かめた私は、ソファに歩み寄り、隣に腰かけた。
私が腰を下ろした弾みで、ドールの体が私の方にわずかに傾き、その頭が私の方に触れた。私も頭をドールの方へ少しだけ傾げると、目を閉じた。
明かりをつけない方がよかったな。
そう思いながら、私は眠りの海に沈んでいった。
実際に眠っていたのはほんの数分のことだった。私はゆつと目を開けた。私とドールはお互いにもたれかかるようにして座っていた。ドールはその大きなふたつの目で、平行線の交差する無限遠の彼方を見つめながら、私の目が覚めるのを待っていてくれていた。ドールの肩から私の腕に伝わるかすかなぬくもりが、私を再び心地よい眠りの世界にいざなう。しかし、そのぬくもりは、眠りの世界への入り口に立っていた私の腕を手荒くつかみ、私のリビングに引き戻した。
私はドールから、いきなり路上でしらない男に触れられそうになった少女のように飛び退いた。私はしばらくドールを見つめながら、心拍数が上昇するのを意識した。ドールは相変わらず正面の壁にしか興味がないらしく、その美しい横顔は時間が止まったように微動だにしなかった。私は、ようやく寝てくれた新生児に触れるようにゆっくりと手を伸ばし、ドールの白く細い腕に触れた。それは、ほんのかすかに、しかし確実に無機物からは感じることのできない、生がそこにあることを示すはずの温かさだった。
私の体温がドールを温めたのだろうか?
私はドールの両腕に左右の手で触れてみた。それから、ドールのからだのあちこちに手を置いてみた。ドールの温かさは確かにドールの内側から発しているようだった。ドールにいのちが⋯とは、私は思わなかった。私は再びドールの隣に腰を下ろした。私は最初の驚きから解放された私は、ドールの新たな機能を楽しむように、ドールの細い肩に手を回し、頬をドールの頭頂部にやさしく乗せた。ドールにどんな仕掛けが施されているのかは分からないが、おそらく何かの条件を満たすと、ドール内部の発熱装置が起動して、ドール全体をほんのりと温めるのだろう。確かに、こうやってドールの横に座り、体を寄せ合っていると、心が休まるのを感じる。私は体をずらし、なんとかドールと共にせまいソファの上で横になった。ドールを左腕で抱え、半ば私の体の上に乗せるような体勢にすると、そのままドールを抱いたまま、目を閉じた。
まちがって、ノクターンで連載中のウルトラマニアックシリーズの続きを載せてしまいました。
興味のわいた人はそっちも読んでね。
そういうの、興味ない人は、ごめんね。