003
結論から言うと、「蟻の巣」についての情報は皆無だった。出てくるのは昆虫とか理科とか、本物の蟻の巣の話ばかりだった。蟻の生態についてはずいぶんくわしくなったが、問題のドール専門店については何もわからないままだった。
時間が経って、私も少し落ち着いてきた。警察を呼ぶことも考えたが、あまり大げさにするのも嫌だ。
結局、開けてみるしかない。
今まで人から恨みをもたれるようなことをした覚えもないし。まさか開けたらドカン、なんてことはないだろう。本当にドールが入っていたら、まあ、どこかに飾っておいてもいいかな。
玄関に行き、再び箱の前に立った。バカバカしいと思いつつ、箱に耳を当てた。
何の物音もしない。
カッターナイフを持って来たが、中の物を傷つけるかもしれない。よく見ると手で開けられるように箱には切れ込みがあった。
私は箱を、開けた。
ダンボールの中身は、箱だった。全体は紫色のフェルトのような、滑らかな生地で覆われていて、蝶番や縁を飾る金属部分は真鍮のような光沢がある。これが手のひらに乗るくらい大きさなら、ちょうど宝石箱に見えたことだろう。持ち上げるのは無理そうだったので、ダンボールの側面をカッターナイフで切り開いた。蝶番のついた側と反対の側面にくぼみがあり、そこに指をかけて蓋を持ち上げることができるようだ。蓋を上げると、かすかに香のような香りがした。内側は黒い布張りになっていて、一体のドールが横たわっていた。
衣服は身につけていなかった。腰までありそうな黒髪が白磁のように白い肌の上を覆うようにかけられている。きれいに切り揃えられた前髪の下の顔は眠っているように見えた。東洋的でも西洋的でもない、特定の人種を思い出させないその顔立ちは、たしかに美しいが、なんというか作り物の美しさのように思えた。ドールだから当然なのだが、その作り物めいた部分にむしろ違和感をおぼえるほど、それはあまりにリアルで精巧なつくりだった。大きさは130cm前後、顔つきは少女だが、体は女性らしさを感じさせるようなふくらみやくびれは見られない。
私は胸にかかった髪を手ですくい上げてみた。その下の平たい胸と腹は中央ヨーロッパの平原のようになだらかだった。手の中の髪を指先でほぐすように触る。細くなめらかな手触りは、人間の髪より滑らかな気もしたが、作り物のような感じもなかった。肌も異様に白いことを除けば、人間のものとの違いを見つけるのは難しそうだった。
それでも全体から感じられる奇妙な違和感。
私は、居間に飾るつもりで新たに手に入れた絵画の出来を確認するように、少し体をドールから離して、その全体に目を走らせた。
違和感の正体がわかった。
ほくろやしみがまったくないのだ。髪の毛以外の体毛もまったくない。いや、もっと近くから見ればうぶ毛が生えているのかもしれないと思ったが、どれほど精巧なドールでも、まさかうぶ毛までは作らないだろう。私は指先でドールの腕にそっと触れてみた。これもひとの肌にしては滑らかすぎる気もするし、これくらいの年の子ならこんな感じなのかもしれないとも思った。