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蟻の巣  作者: Alan Ingres
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 食事の後は仕事部屋でずっと作業していたが、来客を告げるインターホンは一度も鳴らなかった。そちらに気をとられたせいで、予定の作業量の半分もできなかった。そのかわり、飲んだコーヒーはいつもの2倍だった。冷めたコーヒーをキーボードの脇に置き、時計を見ると三時を少し回ったところだ。私は背中を反らせ、首を回した。窓の外の青空には薄く剥がしたコットンのような雲が遠くに浮かんでいた。

 休憩がてら、少し外に出ることにしよう。マンションの目の前にあるコンビニでアイスでも買ってこようか。その間に宅配便の車が来てもすぐに気づけるはずだ。

 身支度をして玄関に行くと、私は息を呑んで廊下に立ち尽くした。

 玄関の上がり口に、廊下をふさぐほど大きな箱が置いてあったのだ。シングルベッドを一回り小さくしたくらいの大きさで、光沢のない真っ黒な紙で包装されていた。私は包装紙の上に貼られた伝票の品名欄を確認した。「〇〇〇〇様 ドール一体」とあり、その下には差出人の名前があった。

「蟻の巣〜輸入直販ドール専門店」

 私は箱の横に座り込み、あぐらをかいた。インターホンの音は聞こえなかったが、気づかなかっただけなのだろうか。もしかしたら、マンションの通路に置いたら他の住人の邪魔になると思い、配達人が玄関の中に置いていったのかもしれない。私は立ち上がって玄関に降りると、鍵を開けて外に出てみた。

 誰もいない。

 通路の手すりから首をのばしてマンションの下を覗いてみたが、配達業者のものらしき車もなかった。私は玄関にもどり、再び鍵をかけたところで、あることに気づいた。ざわざわとした感覚が背中と腕を這い、それが頭部に到達すると目の焦点が一瞬合わなくなった。私は、速くなった動悸を押さえるように両腕を胸に押し当てた。

 玄関の鍵はかかっていた。

 巨大な箱はどこから、どうやってここに来たのか…

 恐怖が私の思考を奪い、しばらくの間、私は箱のそばに座り込んで身動きできなった。もし、これが持ち運べるくらいの小さなものだったら、私はすぐにどこかの公園にでも行って、目につかないところに置き去りにしてきたかもしれない。しかし、こんな大きな箱を人目につかず、ここから駐車場まで運び、さらにどこか誰も見ていないところで捨てるなんてことができるとは、とうてい思えなかった。私は深呼吸をして、空気中に拡散した思考力をわずかに取り戻すと、よろよろと立ち上がった。それから私は仕事部屋にもどり、パソコンで「蟻の巣」について検索を始めた。


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