決尻隊
大干ばつによる飢饉はトホギア連邦も同じだった。トステラ王国、ホリステット王国、ギスア王国、アセト王国は旧ザバンチ王国が分裂してできた国だが、トホギア連邦は、国の自治は各国が行い、軍事的には協力しあうためにできた国だ。そのため国同士の実質的な繋がりは弱かった。
大飢饉は、それでなくても弱い連邦の国々の協力関係を、修復不可能なほどバラバラにした。本来ならば連邦国内で食糧を融通し合い危機を乗り切らないといけないはずだが、ゴルデス大陸全体が大干ばつだから、それぞれ余裕がなくなった。
特にトステラ・ビールセンが出身母体のトステラ王国とホリステット王国はゲルス騎士国との国境紛争に疲弊していた。ゲルス騎士国も他の国と同じく食糧危機だったから、隣国のグラン大公国とダグラス神聖ヨウム国から国境侵略を受けていた。ゲルス騎士国も必死だった。より弱い国の食糧を奪う。当然だ。それがゴルデス大陸の各地で行われている侵略戦争の実態だ。
食糧を奪うための国境紛争はゴルデス大陸に蔓延していた。最後は一番小さい国がそのあおりを受ける。トホギア連邦の構成国であるギスア王国とアセト王国は大統領出身母体のトステラ王国から食糧拠出の要請を受けているが、無視していた。当然だ。大飢饉で食糧がないのに、侵略を受けているのだ。自分たちの分もない。トステラ王国とホリステット王国は、ゲルス騎士国からの侵略に耐えていたが、何ら応援をしてくれないギスア王国とアセト王国に不満があった。
ギスア王国とアセト王国はゲルス騎士国と直接戦わなくていいが、元々乾燥地帯が多く、そこへ大飢饉が起こり、食糧不足は危機的状況だった。そのため王族ですら平民と同じ食事しか摂れない状況に陥っていた。
とうとうトステラ王国はゲルス騎士国に首都まで落とされた。大統領であり国王であったトステラ・ビールセンは殺害された。それも無残な殺され方だった。国民を集め、王城の前でトステラ国王と王妃を裸のまま縛り上げ、大勢の兵が二人を囲み、串刺しにした。
国の3分の2を侵略され、残ったトステラ王国軍は他国に侵略されるぐらいなら、元は同じザバンチ王国だったラカユ国に吸収された方がいいと判断し、トステラ王国軍はラカユ国に救援を要請した。
ホリステット王国はゲルス騎士国の侵略に耐えていたが、国王一族がゲルス騎士国の密偵に暗殺されたことで軍は弱体化していた。
このままではギアス王国とアセト王国の支援がないまま滅びるのも時間の問題だ。他国に侵略され奴隷になるぐらいならば、元は同じザバンチ王国民がいるラカユ国に恭順する方がまだましだ。ホリステット軍はラカユ国に軍事支援を求めた。
ギスア王国とアセト王国も国内は荒れた。食糧をまともに準備できない国王は軍のクーデターにより廃除された。
国王を廃除しても食糧事情は全く改善しない。彼等も他国に侵略されるぐらいならば元は同じザバンチ王国民のいるラカユ国に併合されることを選んだ。
「ララ様、トホギア連邦の各国からそれぞれニュアンスの違いはあれど、軍事的支援要請がきています。このまま断ってもいいのですが、ゲルス騎士国はどのみちラカユ国に侵攻して来ると思われます」
「そうでしょうね。ところでヘルシスちゃんは対案を考えているのでしょ」
「はい、それには4国を併合することが第一条件です。そうでないと軍勢が足りません。我国も大きくなったことで、現在軍事国家バンとの国境紛争を抱えているため、多くの兵力を注ぐことが出来ません。リデア・ポミアン元帥の軍を呼び戻してもいいのですが、それでは東の国境が薄くなってしまいます。その間にミゼット神国連邦に侵攻されてしまうと、国境壁があるといえ、一斉に来られては、対処できません。今のところ侵略されることはないのですが、短期的には国民に被害が出る可能性があります」
「わかったわ。ヘルシスちゃんの思うとおりにやっていいよ。ところで私は何をすればいいの?」
「まあ、まあ、よくご存じで。さすが私と大和のことを見抜いたララ様です」
「分かるわよ。あなたができない理由を先に話すときは、最初から私が出ることを前提にしているもの」
「では、計画ですが、『…………』ということで、よろしくお願いします」
「この計画だけど、あなたにしてはリデアが作ったような糞みたいな計画ね。ゲルス騎士国が気の毒になるわ」
「やはり、ララ様は、鋭いですわ。半分はリデアの案を採用しています。さすが、うまく立ち回っていたのに、私と大和の情事の回数まで見抜いたララ様ですわ」
しょうがないじゃないのよ。私の周囲を固める者の動向は、雪ちゃんが全部把握して、私に報告するんだもん。報告を受ける方も大変なのよ。ヘルシスがあんなことやこんなことをして、それからあれやこれやをしたとか、情報を画像付きで頭に入れるのよ。毎日全員のビデオを見せられるのよ。一人の1日分が数秒で頭に入るのよ。だから男性は私の近くに置きたくないの。ところがその主立った者が大和と関係あったからどうしても大和の裸を見てしまうことになる。見たくもないけど、大和の背中にある黒子の位置と数まで覚えてしまったわ。でも大和一人でよかったかもしれない。それぞれの相手が違っていたら、他の男性の裸も見せられることになっていたわ。好きな人以外の裸なんて気持ち悪いだけよ。
雪ちゃんに画像まではいらないと言ったのだけど、使い魔が音声付き画像で送ってくるからどうしょうもないとのことだった。
天使になっても使い魔が使えるのかと訪ねたら、使い魔も黒いコウモリから白いコウモリに変ったが、今までどおり使えるということだった。
ただ、これまで雪ちゃんの使い魔のおかげで私の命を狙う者を事前に廃除できているから、止めてとは言えない。雪ちゃんに言わせれば無能な味方は、有能な敵より始末が悪いから監視は絶対らしい。結局私のためだし、止めても聞かないから放置している。
△△△
~2日後~
トホギア連邦のそれぞれの国はラカユ国に併合され、絶対服従を誓うことで、食糧を供給し、軍事協力をすることに関する協定にそれぞれの代表が署名し、トホギア連邦はラカユ国に併合された。
ゲルス騎士国は7万人の軍力で攻めてきた。トホギア連邦の残存兵数は3万人まで落ちている。それに昼夜に及ぶ侵攻により兵は疲弊していた。通常であれば殺人・強姦をした兵士は処刑することになっているが、兵士の足らない状況ではそれらを行うと兵力が3千人減少してしまう。これ以上兵が減るのは困る。
そこで最前線で戦うことを条件に生き残った場合には恩赦を与えることにした。処刑から無期懲役に減刑する。それが条件だ。結果的には決死隊と呼ばれた彼等の中で、残った兵士は17人しかいなかったが無期懲役に喜んでいた。好き放題人を殺してきたのに、自分が死ぬのは嫌みたいだ。自分勝手な者たちだ……そうか……私も……沢山殺した……私も自分勝手だ。
ヘルシス宰相は容赦なく決死隊を使った。
決死隊はラカユ国軍が防戦主体に戦っている間は爆睡し、豪華な食事を食べた。夜になると決死隊は寝入っているゲルス騎士国軍に総攻撃を仕掛ける。決死隊は松明も持たず、とにかく一人でも多くの敵兵を殺害することを命令された。彼等に与えられた服装はゲルス騎士国軍服だった。夜が明ける頃にラカユ国軍に戻ってくる。敵軍との区別はお尻を出して手を振ること。なぜ? おかしくない? どうみても喜劇だよ。
ところが4日目の朝、ヘルシス宰相はお尻を出した決死隊、いや決尻隊の頭にビームを放つように私と楓に命令した。ヘルシスの言うことだから従うけど、いくら殺人・強姦をした者たちでも味方を撃つのは気分がよくない。よくないが、ヘルシス宰相は17名を残して2,000名近くいるお尻を出した無防備な決尻隊を殺すように指示した。
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