エルフの鍛冶士み~つけた
シドル連邦との取引も順調だ。ラカユ国では灌漑に力を入れたことで、この大干ばつでも農業生産が2割しか落ちていない。その2割のほとんどがケトン王国の南部を併合したことで灌漑が間に合わなかった地域だ。もしそこがなければ減産はなかった。それを考えても灌漑は大切だ。
オリハルコンとミスリルは型に流すだけで一流のものができてしまうが、私が前に作った玉鋼を使った小刀でオリハルコンの型流し剣を切ってしまった。鉄に比べるとオリハルコンの方が遥かに硬いのに錬成した本物には勝てなかった。私の力は弱いから錬成といっても本物の鍛冶士が作るものにくらべたらおもちゃみたいなもんだ。それがオリハルコン製の剣を切ってしまった。
素材の多さに甘えて大量生産していたが、もし戦争相手が玉鋼で作った本格日本刀でこられたら我国の兵士が使う剣は全部折られてしまう。これは拙い。
どうにか鍛冶士の育成をしたいが、それができるエルフは色ぼけして作ろうとしない。一般人には伝統がないせいか技術がない。
雪ちゃんなら知っているかも?
「雪ちゃん、日本刀だけでなく、兵士の剣も型に流したものではなく、本格的に鍛えたものを渡したいのよね。私の玉鋼で作ったなんちゃって小刀にオリハルコンが負けたら、きちんと作った剣を持っている軍が攻めてきたら、ラカユ国軍は全滅するわ。どこかに名人はいないかしら?」
「それでしたら、ドワーフに任せたらいいですよ」
「ドワーフ? どこにいるの?」
「モメンナ大陸にウジャウジャいますよ。攫ってきましょうか?」
「だめよ。そんな人攫いはいけない。ゴルデス大陸にはいないの?」
「地下にドワーフが作った国があるらしいのですが、現在どこにあるのかわかりません。その国は洞窟を利用していたらしいのですが、地盤沈下で入口が塞がれたようなのです」
「それだったら、真っ暗だし、食糧がなくて、もう生きてないわね」
「いいえ、地下で生きているらしいのです。運良く地上に出られた者がミリトリア王国で暮らしています。ただ、その者は鍛冶の技術は継承していないようです。地上に出てきた生き残りが鍛冶を専門としていない者たちだったことで技術が廃れたようです」
「地下でも生きているの?」
「はい、そこは光石が沢山あったため、人口太陽のようにいつも明るいそうです」
なんか?どこかで聞いたような? う~ん。どこだったかな? 光石がいっぱいある場所で洞窟って、もしかしい迷宮ダンジョンでは? でも、あそこに洞窟はなかったわ? ちょっと直接行って確認しよう。これは知識人を総動員しないといけない。
「雪ちゃん、迷宮ダンジョンに行くから、全員集合よ」
「はい、では行きましょうか」
参加者は、私、楓、ヘルシス宰相、宰相補佐官筆頭エリツオ・ホヒリエ少将、セニア・タラソア筆頭補佐官補助、セレス・マグレット女王専属第一秘書官、ソフィア・レイグラ女王専属第二秘書官、リゼ・コーク女王専属第三秘書官、ペトラ・マイネン宰相付第一秘書官、オルガナ・ハウト宰相付第二秘書官、ロザンネ・パルネラ宰相付第三秘書官、リデア・ポミアン元帥、ピノ・バルセン元帥、メルトミ・ルドリフ中将、つばさちゃん女王専属第一護衛官、セラーヌ・ブリガーグ女王専属第二護衛官、雪ちゃん、小町ちゃん、華ちゃん。
ラカユ国で考えられる最高の頭脳&筋肉集団だ。
初めて来たセニアは転移魔法に驚いていたが、世界樹の森には泡を吹いていた。
これだけの頭脳集団なのに名案が出ない。光石のある壁を掘ってみたが、光石が出るばかりで洞窟らしいものは見当たらなかった。
エリツオ・ホヒリエ少将は初めて迷宮ダンジョンに来た。
「これは何ですか?」
「これはミスリルとオリハルコンの鉱脈よ」
「僕はずっと疑っていたのですが、ミスリルが古代遺跡から発掘されたのは本当だったのですね」
「ああ、あれね。エリツオちゃんあれは嘘よ」
「いいえ、これは古代遺跡のものですよ」
「???」
「女王様、この鉱脈はおかしいですよ。こんな高純度な鉱脈があるわけないですよ。僕は鉱山に長くいましたから分かります。ちょっと待ってください。あそこで交尾中のエルフを覗いているピノ元帥を呼んできましょう。ピノ元帥は堅物でしたから、あのような光景は珍しいのです。あの方は僕と違い初心ですからね。ちょっと刺激が強いかも」
エリツオくんは食い入るように見ているピノ元帥を抱えてやってきた。いわゆるお姫様抱っこだ。初めて見ると、あのピノ元帥が嬉しそうに抱っこされているのは奇妙な光景だが、ノグソ鉱山で急ぎ移動するときは、年中エリツオくんがピノ元帥を姫様抱っこして移動していたらしい。
ピノ元帥、ちょっと顔が赤いですよ。もしかして第一夫人候補だったりして? 楓、早くしないと第二夫人になっちゃうわよ。
エリツオくんに下ろされると、何事もなかったように、いつものピノ元帥らしく話してくれた。
「これは? もしかして、溶解したものでは?」
「ピノ元帥もそう思われますか?」
「そうね、エリツオ少将の考えたとおりのようね」
二人して理解しているが他の者は分からない。
「悪いのだけど、みんなに分かるように説明してくれない?」
「では、私エリツオ少将が説明させていただきます。鉱石から抽出される金属というものは、そのものが純度100%というものはないのです。鉱石に数%あるものを溶かして得るのです。砂金はあれ事態が金ですが、それが固まって鉱脈になることはないのですよ。だからこの鉱脈はミスリル鉱石から抽出したミスリルを溶かしたものの塊です。オリハルコンも同じです。ただ、ここはかなり昔に捨てられたか、埋没したと思います」
言われてみれば確かにそうだ。ミスリルやオリハルコンについて知らなかったから、そういうものだと思ってしまった。
「それって? もしかして? この鉱脈の方向に失われたドワーフ国があるかも?」
「その可能性はあり得ます。掘るとしたら光石がある9階層の壁ではなく、8階層の行き止まりとなっている壁を掘り進んだ方がいいと思います」
それからは8階層の行き止まりを掘った。行き止まりと思っていた8階層の最奥は古い岩盤が落石していたことが判明した。
結局8階層は、ダンジョンの8階層と言われていた8階層と、幻影の魔女に閉じ込められた8階層の続きの『仮9階層』と、地盤落下で塞がれたが、その奥にドワーフの国の入口があったことになる。
30メートルくらい掘り進むと、急に大きな空洞があった。
そこはまばゆいほどの光石で照らされ、空洞はパッと見東京ドーム10個分くらいあり、道も整備されていた。
少し歩くと、ドワーフの子と出会った。
「ねえ、僕、ここは何という場所なの?」
「ここ? ここはゴルデスドワーフ王国だよ。王国と言っても全人口500人くらいだけどね。みんな長生きだから子供を作らないんだよ。それにあまり作ると食糧がなくなるからね」
「王様に会うことはできるかな?」
「村長?」
「王様はいないの?」
「昔は今より数百倍広かったらしいのだけど、落盤で今の大きさになってから人口も500人だから村長って呼んでるよ」
「では、村長に会わせてくれる?」
「いいよ。僕の爺ちゃんだから。案内するよ」
小川を渡ると小さな小屋があった。そして、そこでは私の求めた鍛冶の音がする。
おおお――――――!!!
懐かしい鍛冶の音だ。爺ちゃんの発していた音より更にいい音がしている。相当の実力者だ。これは期待できるかも。
「爺ちゃん、なんか知らない人たちが爺ちゃんに会いたいと言うから連れてきたよ」
「何!! 外の人か?」
「おじゃまします。村長さんでしょうか?」
「あんたは?」
「はい、私はラカユ国女王をしている鹿野ララと申します」
「ラカユ国? 知らんが? まあ、儂らがここに閉じ込められて何百年かもうわからんし、外の人とは交流がなかったからのう」
「ところで、先ほど鍛冶をしていたのは村長さんですか?」
「いいや、儂の子が打っている。儂はその子の父親じゃ。儂は引退した。どのみち資源が少ないし、人口が少ないからそれほど需要がないんじゃ」
「この村に鍛冶士は何人くらいいますか?」
「鍛冶士は現役が20人くらいで、儂のように引退した者も入れれば100人くらいいる」
「どうして引退したのですか?」
「そりゃあ、オリハルコンとミスリルの在庫が少ないから、技術の継承をするために早めに引退する。昔ここには世界中からオリハルコンとミスリルが大量に流入していた。それを加工して剣にするのがこの国の仕事だったが、あるとき大規模な落盤が起きてしまった。ばかなエルフがアダマンタイトが含まれた支柱を盗むために亀裂を入れおったから倒壊し、それに誘発されて次々と落盤が起きた。馬鹿なやつらじゃ。せっかく長生きできる寿命をもらったのに押しつぶされおった。
最後に残ったのはここだけだったが、ここにも亀裂があったからありったけのミスリルを溶かして亀裂に入れた。それでも埋まらないから落盤で埋まった倉庫にあったミスリルとオリハルコンまで全部溶かして埋めた。それからほぼ全部を溶かしてやっと亀裂が塞がったと記録されている。ここにゴルデスドワーフ王国で扱ったすべてのミスリルとオリハルコンの保管倉庫があったから生き残ることができた。
だがアダマンタイトの支柱は、中央棟のまん中にあったから、近づくこともできず、今はそれがどこにあるかもわからん。文献にはそのときの国全体の地図が書かれているが、今更どうでもいい。わかったとしても、掘削する人手もない。
それから相当年数が経ったがその亀裂がどこにあるか今は分からない。数度の断層の亀裂でどこかに移動したようだ」
「そのミスリルとオリハルコンは今、私たちが採掘しています。まだ沢山あるようですから剣を打ってもらえないでしょうか」
「ほんとうか? それが本当ならいいぞ!」
村長は身を乗り出した。
「落ち着いてください。ちょっと顔が近いです」
「で、どんな剣がいいのか?」
「これは打てますか?」
「おおお――――――。日本刀ではないか。これは我家に1本しかないが、我らは技術伝承のため必ず1本は打っている。儂の打った日本刀を見るかな?」
「ぜひ見せてください」
村長の錬成した日本刀は、私の爺ちゃんが打っていた剣より数等上だった。これほどの名刀を打つとは恐ろしい人だ。これはすでに国宝級だ。
「すばらしい!!!」
「ほほう。あんたこれがわかるか?」
「はい、見事な一振りです」
「ふぉっほっほっ、いいぞ、気に入った。あんたの望む剣を作ろう。材料となるオリハルコンとミスリルがあるのならば、問題無い。だが言っておくが、純粋なものでないと、我らは鉱石から溶解して抽出する技術を失った。混ざり物から分離することはできんぞ」
「そうですか。ではその技術が確立しましたら、大量生産をお願いします。それまではあまり多くはないですが、用意できます。それで対価はどうしましょうか?」
「そうじゃのう。今更地上に出たいとは思わんし、食糧も多くはないが足りている。川魚もいるが、昔食べた米と味噌醤油、海の魚、海苔が食べたいのう。それらと交換でどうだ」
「いいですよ。全部揃えることができます。ここには果樹がないようですから、果樹の木を植樹しましょう。それに万病に効く木がありますから、植樹しますよ。これで病気の心配もなくなります」
「それはありがたい。ドワーフは健康だがたまに風邪を引いて高熱を出す子がいるから助かる」
「それで、アダマンタイトですが、もし見つけることができたら、いただいてもいいでしょうか?」
「ああ、構わんが何処にあるかわからんから、もし見つかったら好きにするがいい。だができるなら、儂らに預けてくれると、もっといい日本刀を作れるが?」
「もちろん。全てお願いします」
村長に外に出ることができるので洞窟を広げてもいいと提案したが、ここは数百年密閉され、平和に過ごしてきたから今更外部と繋げても住民にいいことは何もないので、塞いで欲しいと言われた。村長が望むのだから私は塞いだ。どうせ私たちは転移するから入口は必要ない。村人全員が浦島太郎となって混乱するよりここで平和に暮らすのがいいかもしれない。
兵士や文官に配っている剣を全部打ち直すことにしよう。ドワーフならそんな時間を掛けずに全員分を打ってくれるだろう。
私は玉鋼で打った本格的な日本刀が欲しい。ふふふ、お願いしよう。
最後まで見ていただきありがとうございました。
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