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大統領夫人

「オスモイ・テスラノキ大統領第一秘書官メフィス・ゴルチョフ大佐であります。問題の女性を連れて参りました。入ってよろしいでありますか?」



「勝手に入ってきなさい。ただし、失礼のないようにね」


 ドアの奥から中年女性の返事があった。



「はっ! では、失礼致します」



 住宅は3DK位の小さな家だ。とても大統領の家族が住む家に思えない。

 家に入ると、食事の支度をしている女性がいた。



「あら! いらっしゃい」


「すみません。お邪魔します」


「遠慮しなくていいのよ。そこに座って待っていてね」


 彼女はテキパキと支度をし、出来上がったものをテーブルの上に置いた。畳と足の短いテーブル、お膳も勇者山田五郎が普及させたものだ。



「鍋物にしたから、一緒に食べながら話しましょうよ」


「あ、はい、ありがとうございます」


「メイドさんたちも食べない? 毒は入ってないわよ」


 と言うと自分の口に豆腐を一つ放り込んだ。


「うん、やっぱり、鍋はポン酢が一番ね!」


「ここは海が近いのに鍋に(かに)を入れないのですか?」


「私はカニアレルギーがあるから食べられないのよ。あんなものどこが美味しいのかね? 鍋には魚だわ。マグロの刺身があるといいのだけど、なかなか手に入らない。豆腐は美味しいわ」


 私の食べるものは、雪ちゃんが用意してくれた。確かに豆腐が美味しい。小魚が入っているけど、私は蟹が好物なんだけど、魚だしの鍋も美味しいから、まぁいいか。小町ちゃんと華ちゃんは食べないで座っている。二人は完全に警戒態勢に入った。



 華ちゃんが念話で話しかけた。


「・「ララ様、完全に囲まれています。50名位が剣を抜いていますがどうしましょうか?」・」


「・「そうね。真意を聞いてから考えましょうか?」・」



 とりあえず、大統領夫人に聞いてみることにした。


「奥様、家の周囲で50名位の剣を抜いた騎士が今にも飛び込んできそうなのですが、どう対処しましょうか?」


「えっ! あの人、私に(はじ)をかかす気なのかしら? ちょっと待っててちょうだい」



 奥様は、ドアを開けると、これでもかという程の大声で怒鳴った。


「あんたたち、一歩でも入ってきたら全員縛り首にするからね。その覚悟があるかい? あの人の指図だろうけど、本人を呼んできな。さあ、食事の邪魔だ。大統領府に戻れ!!」



 そう言うと元の明るい奥様に戻って話し始めた。


「ごめんね。大統領警備隊の連中なのよ。あの人が派遣したようなの。驚かしたわね。だけど、すごいわね。あの子たちは暗殺部隊なのよ。私は全く気づかなかったわ。それに人数まで当てるなんて、見事ですね。まあ、やぼなことは言わないで、ここからは楽しく食べましょう」


 小町ちゃんと華ちゃんは食事を見ていない。完全に警戒モードのままだ。


 雪ちゃんは、鍋のものを小鉢に入れて世話をしてくれている。



 食べ終わった頃、奥様が本題に入った。



「あの剣は、見事な出来ですね。しかもオリハルコン製とはビックリですわ。きっと世界に数本しかないでしょう。そんな剣を預けるものだから……。うちの大統領は肝が小さいですから、宣戦布告と思ったようです。ところであの紋章はどちらのものですか?」


「はい、ラカユ国の国旗です」


「ああ、ラカユ国は確かザバンチ王国が分裂し再集結してできた国ですよね」


「はいそうです。まだできて日が浅い国ですし、何処の国とも国交を樹立してないので、まだマイナーな国なのです」


「そうだったの。それであなたはラカユ国の大使ですか?」


「今回は大使です」


「そうですか。それでしたら、私のところも大使を連れてきて話合いをしないといけませんね」


「それでは、遅くなるので、私が来ました」


「でも、国交樹立というのは時間がかかるものですよ」


「そんなことをしていたら、年末までにこの国は餓死者が相当出ますよ? ご存じですよね?」


「まあまあ、よくお調べになってらっしゃいますね」


「はい、ゴルデス大陸の国々はどこも干ばつの影響で食糧不足に頭を抱えています。備蓄の充実している国は1年位耐えられますが、そうでない国は苦慮しています」


「シドル連邦もあなたの言うとおり、食糧不足に頭を抱えています。これ以上長引くと打ち壊しや、一揆の原因になります。それをあなたの国が解決してくれるのですか?」


「はい、ラカユ国は毎年備蓄に努めています。今年も干ばつ前に麦を収穫できました。それに麦の後には、すぐにさつま芋とじゃが芋を植えています。水は山の雪解け水を利用しましたから、もう収穫できそうです。多くはありませんが、新鮮な果樹も提供できます」



「対価は何をお求めでしょうか?」


「お金はいりません。種籾(たねもみ)と大豆、農作技術と味噌・醤油の製造方法の指導です。職人さんや文官の移動方法は転移陣で行いますが、特殊な転移陣のため操作できる者が私の護衛官の一人しかいません。その者に移動を行わせます」


「すごい話ね。ダンジョンなどで転移陣があることは経験で知っているけど、ダンジョン以外で実際に使える転移陣を描けるなんてすごいことよ。私も使いたいわ」


「それでしたら、ラカユ国にご案内しますよ」


「本当? だったら、すぐに行きましょうよ」


「いいのですか? 大統領には会ってないのに、勝手に決めて?」


「ふふふ、あの人は、『よくやった。任せる。良きに計らえ。ふむふむ。リベッタに聞いてから決めろ』しか言わないのよ。ほとんど私が解決しているからね」


「大統領は何もしないのですか?」


「これは内緒よ。あの人ね、優柔不断だから何も決められないの。だからこれまで私がすべて秘書たちに命じてきたのよ。大統領府の者は全員知っているけどね。女は大統領になれないから、俺がお前の傀儡(かいらい)になる。だからあとは頼む。と言って私に丸投げして大統領になった人だからね。あの人は任期中に女も大統領になれるよう法律を変えるつもりみたいなのよ。どうしても私を大統領にしたいみたい」


「奥様は愛されているのですね」


「そうじゃないわよ。あの人が子供のときいつも(いじ)められていたから、かわいそうになって助けたら、いつのまにか私のペットのようになってしまったの」


 私は『つばさちゃん』に、屋敷の屋上の小屋の中に転移陣に見えるように適当な模様を()き、女王の部屋にも転移陣らしい模様を描くように念話で送る。



「ところで奥様は何とお呼びすればよいでしょうか?」


「リベッタでいいわ」


「では、リベッタ様、行きましょう。護衛はどうしますか?」


「いらないわ。メイドさんたち強いでしょ」


「では、御者(ぎょしゃ)は用意してください」


「メフィス!! あなたは迷惑をかけたのだから御者をしなさい。罰よ」


「そんな……」



 別荘に戻ると、すぐに屋上の小屋に入った。



「こんな、転移陣はなかったはずだ?」


「今は、ホルスミンと呼んだ方がいいかしら? スパイを雇っているのに、あなたに見えるようにしているわけがないでしょ。ではリベッタ様、ラカユ国に行きます。一瞬ですから、恐れなくてもいいですからね」


「あっ…………」



 私たちは全員、女王の部屋に戻ってきた。ヘルシス宰相には楓から事前に知らせてあったので、女王専属秘書官とともに待機していた。



「すごいわね~。これが転移魔法陣の能力なのね。うちの家にも描いてくれないかな?」


「それは無理です。魔法陣を発動する魔法力が必要になります」


「残念だわ。それで、これからどうするの? 女王に会わせてくれるのかな?」


「いいえ、まずヘルシス宰相と話していただけますか?」



 私はヘルシスを紹介した。


「まあ、なんと若い方ですね」


「宰相をしているヘルシスと申します。裏の大統領といわれているリベッタ様にお会いできて光栄です」


「まあ、すごいですわね。シドル連邦内でも一部の者しか知らないことですのに、恐れ入りましたわ」


「ほんの、常識でございます。これから支援物の総量と技術者の総員について概略だけでも調印していただき、後は文官で詰めることでいいでしょうか?」


「それでいいわ。変に駆け引きしても仕方ないようね。こちらも本音で言うわ。うちは、ラカユ国が思っているより、もっと深刻な状態なのよ。大統領府には1年分の備蓄があると発表していますが、ほとんど空っぽよ」


「それにしては、あの鍋の具材は新鮮でしたが?」


「あれは私が家庭菜園で育てたものの中から食べられそうなものを出したのよ。食糧不足はもうそこまで来ていた。だから今回の申し出はうちにとっては喉から手が出るほど欲しかったの。近隣諸国からは村八分にされていて、頼る国がなかったわ。だからこそ、急に現れた夢のような提案に警戒したのよ」


「そうでしたか。私は単に米を国民に食べさせたかったのです。私には具体的数字は分からないのでヘルシス宰相と話してください。では、リベッタ様夕食時に会いましょう」


「ええ、楽しみにしているわ」


最後まで見ていただきありがとうございました。

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