混沌
国際神聖教会がモナリス教を信者数で追い抜いてからは、俺の目標としたミリトリア王国への復讐が現実のものとなった。ロラン・テナールと名乗っていた頃など問題にならないくらい俺は偉くなった。
1,000人の信者の魂を餌に悪魔も召喚した。やつは悪魔四天王の一人ガルジベスと名乗った。
ガルジベスの実力は間違いなかった。幻影の魔女に風穴を開けた。だが、死んだと思った幻影の魔女は生きていた。まあいい、ガルシベスが幻影の魔女より強いことは分かった。
ミリトリア王国の王族と、生きていた幻影の魔女を皆殺しにしろと命令したが、ガルジベスは動こうとしない。
ミリトリア王国にプチサタンが現れた。ガルジベスは、サタンにはとても勝てないと尻込みしている。幻影の魔女程度であれば殺せるが、プチサタンは無理だと言いやがった。くその役にもたたん悪魔だ。
このままでは俺の念願が叶わない。もうあの悪魔は必要ない。俺は決心した。俺が悪魔になればいい。だが、悪魔の魂を受入れるには体を悪魔化させなければならない。
俺は悪魔化のため、魔物の肉を少しずつ生で食べた。だがこのまま食べ続けると容姿も変化し、本物の魔物となってしまう。人の容姿を保ったまま、悪魔になるための最後の関門は悪魔の魂を俺が食らうことだ。
ふぁっはははは、やった、やったぞ、俺は悪魔になった。体には力がみなぎる。悪魔になった副作用は弱冠青白くなっただけだ。悪魔のように青くはならなかった。これで俺が直接幻影の魔女と戦い、ミリトリア王国を滅ぼしてやる。
プチサタンがなんだというのだ、本物のサタンではないのだ。俺の方が強い。いずれ東ガザール国も統一してメリス・ガザリスも退位させ、俺が国王を名乗ることにする。
△△△
悪魔四天王波動のガルジベス
ジャンのやつは五月蠅い。毎日のように幻影の魔女とプチサタンを殺して来いと言いやがる。そりゃあ俺だってプチサタンを殺したいさ。あいつを殺せばこの世界は俺のものだ。だが復活するための最低限の魂しかもらっていない、不完全な俺ではプチサタンに勝てるとは思えない。
他の悪魔の前で半殺しにされ、サタンの足を嘗めるのはもう嫌だ。あいつは目覚める度に同じ事をしやがる。
俺は召喚者のジャンを殺すことができない。こいつを殺すと俺は悪魔界に戻されてしまう。そうすればまた肉体を取得するまで何年かかるか分からない。
そうか、なぜ今まで気づかなかったんだ。俺がジャンの魂を食えば俺の中で魂は仮死状態となるだけだから、俺はこのまま人間界で生きることが出来る。
ジャンが珍しく食事に誘ってきた。
ああ、いいとも、今日の食事のメインディシュはジャン、お前だ。
やつは俺との出会いを懐かしそうに語ってきた。今日は最後だからお前との出会いはウザかったが、お前に合わせて話してやろう。
もういいだろう、「&%$%$##!&%$%#$」これでお前は俺のものだ。これまでご苦労だったな。俺の肥やしになって生きていけ。
「グェ――――――――。貴様!!! 何しやがった!! お、俺の意識が薄れていく……」
△△△
ガルジベス、俺でさえ思いつくことをお前が思いつかないはずがないだろ。お前の座った場所には反転魔法の魔方陣が描かれている。絨毯でわからないようにしていたが、お前は用心深いからこの部屋全部に反転魔方陣を描いている。カーテンの裏、絵画の裏、椅子の裏、テーブルの裏、これだけ書くのに苦労したぞ。
俺は魂召喚が使えないからな。
ジャンよ、お前は、何も知らずに俺を吸収した。俺を吸収したお前の力は、俺より弱い。決して俺より強くなることはない。お前の勘違いだ。それに一番大事なことを知らずに俺を吸収した。俺なら逃げる事が出来たのに、お前は知らない。俺ならやつの餌にならないように逃げる。だが、そのことを知らないお前は、サタンの餌として最も適している。このことに気づいたらサタンはいずれプチサタンから離れ、お前を食べに来るぞ。まあいい、そうなれば、俺はまた1,000年後復活する。意識が薄れていくが、まあサタンに食われるまで束の間の幸せを噛みしめるといい。
△△△
~ハルトン王国~
面積・軍力ともに1位のヘブリス王国がケトン王国に滅ぼされたことは、旧ザバンチ王国から分裂した他国に衝撃を与えた。
4位のトステラ王国、6位のホリステット王国、7位のギスア王国、8位のアセト王国は、トホギア連邦として生まれ変わりケトン王国とラカユ国に対抗した。
ところがヘブリス王国の近衛隊長ハルトン・ソーイック中将が、クーデターで王都を乗っ取りハルトン王国とし、トホギア連邦への加入の意思表示をしたが、認められなかった。
その第一はヘブリス王国の近衛隊長であったのが、気に入らなかったのだが、トホギア連邦とは飛び地になるため、他の構成国にとっては全く旨味がなかった。
ハルトン王国はクーデターで設立した国のため治安が安定しなかった。軍では毎日のように脱走兵が出た。ケトン王国の前線が目と鼻の先にあるのだ。これまで大国の兵士として過ごしてきた彼等は、すぐ側に大国ができたことの恐怖に耐えられなかった。
ハルトン・ソーイックは恐怖政治で軍部を統制しようとしたが、内部崩壊を招いてしまった。しかも他の将軍はケトン王国に買収されてしまった。
ケトン王国が進軍することもなく、ハルトン王国は滅亡し、ケトン王国に併合された。ハルトン・ソーイックの在位はわずか13日だった。
△△△
~バルトラ国~
ヘブリス王国の南部を中心とするキリガ・フェノル宰相秘書官の設立したバルトラ国は、ケトン王国の南下に合わせて故郷に帰り、自身のフェノル伯爵領と寄子のドミニ子爵、ハッビュ男爵、ゴイクス男爵の領地を合併しフェノル伯爵の領都バルトラを国家名とした。
バルトラ国と同時期に独立したハルトン王国は滅亡し、ケトン王国に併合された。ケトン王国軍はすでに南下を始めていた。
このままではハルトン王国と同じ運命をたどるのは明らかだった。トホギア連邦とは飛び地であったため、加盟は認められないと考えたキリガ・フェノルは、国の防衛をドミニ子爵に任せ、隠密裏にゴイクス男爵を伴いラカユ国を目指して出国した。
結果的には、この判断がよかった。もしキリガ・フェノルの判断があと3日遅ければ、バルトラ国はケトン王国に征服されていた。
△△△
~ラカユ国首都ウーベ~
「ヘルシス様、お楽しみのところ申し訳ありません。緊急事案が発生しました。よろしいでしょうか?」
「ペトラどうしたの? あなたが来るということは何か特別なことね」
「はい、リデア・ポミアン元帥から、緊急用の転移魔法便が届いております」
「今日はあなたが当直なのね。わかったわ。ちょっと見せて。『2』と記載されているということは、もうすぐ普通伝令鳩の3倍のスピードを出す特級伝令鳩便が届くわね。ペトラ、すぐ支度するから女王様にも連絡してちょうだい」
「先ほど、セレス女王専属秘書官が。ララ様に連絡に行かれました」
「そう。リゼ女王専属秘書官とソフィア女王専属秘書官にも連絡してちょうだい。それとオルガナとロザンネも起こしてちょうだい」
「何かあったの?」
「大和、今日は全員忙しくなりそうだわ。このあとメルトミとリゼの寝室には行かなくていいから、ここで寝てなさい」
「ふぁ~い」
女王の部屋では眠そうなララ女王に『雪ちゃん』が苦い珈琲を飲ませていた。
セレス第一秘書官は感心していた。専属護衛官のセラーヌ大佐とつばさ少将は当然として、こんな夜中だというのに、メイドの『雪様、小町様、華様』はどんな時間でも真っ先に起きて世話をしている。
「あの、小町様、砂糖を2杯お願いします」
「まあ、ペトラ様は庶民派なのですね」
「はい、おこちゃまなのです。私は自分の道を行きたいと思います」
「あの、華様、私はミルクもたっぷりいただけますか?」
「ほほほ、オルガナ様は正直ですね」
「甘いカフェオーレが好きなのです」
「雪様、私も、砂糖1杯とミルク少々でお願いします」
「ロザンネ様は、本格的なのですね」
「雪様、私たちは全員ブラックでお願いします」
「さすが、ララ様専属秘書官ですね。眠気を覚ますために砂糖を我慢されるとは好感持てますよ」
「ねえ、雪ちゃん、私は、砂糖たっぷり、ミルクたっぷり、追加でお願いね。ちょっと苦い」
「さすがララ様です。自分の好きなように生きてらっしゃいます」
「姉さん、私にはないの?」
「つばさちゃん、あなたは護衛でしょ。あるわけないでしょ」
「チッ」
「話が済んだら二人にもあげるから我慢しなさい」
「「は~い」」
しばらくして、シンパチからヘルシス宰相に特級伝令鳩便が届けられた。この特級伝令鳩便を届けるのは女王親衛隊隊長シンパチ・カトウ少将の務めだ。
文書は通常、文書受付け文官が吟味し、それを各部署の文官に配り、それから各部署の該当部門の文官に届けられ、各部署で権限のないものや、処理できない案件がヘルシス宰相秘書官に届けられる。
ところが、特級伝令鳩便は、国家の重要案件であるときに使われるものなので、直接ヘルシス宰相に届けられるが、途中の文官は通さず、必ず親衛隊隊長が手渡しでヘルシス宰相に届けることになっている。
全員が揃ったところでヘルシス宰相が話し始めた。
「みなさんの眠気も覚めた頃のようですから、リデア・ポミアン元帥からの緊急便を読みます。
『バルトラ国のキリガ・フェノル国王が、供と二人だけで、国境を越えてラカユ国に入ったようです。彼等は最短距離で首都ウーベを目指しているようでしたので、それまで放置するつもりでしたが、彼等の顔を確認したところ、苦渋に満ちた形相をしていたので、捕獲して私の屋敷に案内します。この手紙が届き次第、おいでくださるようお願いします』ということです」
「ヘルシスちゃん、誰が行こうか?」
「相手が二人なので、少数でもいいように感じますが、どうもそれだけでは済まない気がします。ララ様でしたら、たぶん話合いの後、バルトラ国まで行かれる気がするので……そうすると、すぐに書類作成の可能性が高いでしょうから、ここにいる者全員と、シンパチと親衛隊から数名選んで行きましょう。
ただ、楓様は夜中ですし、緊急時には首都を守っていただかなければなりません。置いていきましょう」
「わかったわ。ねえセレス、メルトミ・ルドリフ少将はもう来ているかな?」
「ドアの外で見張りをしています」
「呼んでくれない」
「メルトミ・ルドリフ少将女王様がお呼びです」
「はっ、失礼します」
「メルトミちゃん、こんな夜中に呼び出してごめんね。今日はヘルシスとあなたとリゼが大和当番だったのよね。ごめんね。ヘルシスは済んだあとだったみたいだから、リゼとあなたには、今回の事が片付いたら、まる1日休暇をあげるから二人で大和を独占していいからね」
「ありがとうございます」
「メルトミちゃんにお願いがあるの。あなたのことだから話は全部聞いていたでしょ?」
「はい、ドア越しに聞かせていただきました」
「楓が、起きたら、今日のことを話して、私の代わりに女王の部屋に滞在するように言ってくれない。それから、あなたに楓の護衛を頼みたいのだけど、いいかな?」
「もちろんでございます。とても光栄なことです」
「では、首都のことはあなたに任せます。よろしくね」
「はっ、お任せください」
「シンパチも来たわね。行くわよ」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」
このときヘルシスは心の中で呟いた。
「私が一回戦を終え、大和が賢者タイムに入っていたことをララ様は知っていた。私と大和以外誰も部屋にはいなかった。それでも知られていた。それに私の次がメルトミでその次がリゼだったことも知っていた。この順番はリデア以外毎週ジャンケンで決めるし、書面には残していないから、他の者は知りようがない。リデアは毎週1回の報告会にメイドさんの転移で参加するからその日だと知られているけど、他の者の順番は関係者以外わからないはずなのに知られていた。もう何も隠し事はできないようね。うちのメイドさんは、やはり怪物ね。そりゃあそうよね。天使だもの。彼女たちが味方でよかった」
最後まで見ていただきありがとうございました。
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