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クロード・オベルツ

 窓から眩しい光と風が入ってくるが、そこには知らない女が儂を覗きこんでいた。


 今朝はまだメイドさえ起こしに来てないのに、知らない超絶美人がなぜここにいる?


 クロード・オベルツは、二日酔いで頭がズキズキするが考えた。

 昨日『夜の蝶』と羽目を外したが、こんな超絶美人はいなかった。

 年の頃は20代後半か? 

 スタイルはドキュンバキュンだな。

 儂好みだが……。



「なんだ! そんなに覗き込んで、こんな朝早くから儂とやりたいのか?」


 クロード・オベルツはボコボコに殴られた。


「儂は魔法局長官だぞ。偉いんだぞ!」


「あんたの育て方を間違ったよ。こんなクソになっていたなんて。勘当しようかね。ママ大好きと言って、私のスカートに(まと)わり付いていたのにねぇ」



 ああ、この喋り方と殴り方は母だ。そうだった。幻影の魔女は、年齢と容姿を変えることができたのだった。すっかり忘れていた。母は若返り私を生んだ。でもあのときの母は40歳位にしか見えなかったから、長男のエドモンド・オベルツが、本当の父親なのではないかと、子供ながらに疑っていたときもあった。


 あの頃の母は少し太っていたから気づかなかった。よく見たら容姿は昔のままだ。だが、どうしたんだ?


 昔もそんなに優しいわけではなかったが、こんなにサバサバした感じではなかった。叔母さんか? いや、叔母さんにはもう10年会ってないし、儂が母のスカートに纏わり付いていたことを知らないし、ママ大好きと言っていたことも知らない。


 10年間平和だった。雄叫びの森に引っ込まれた当初は、心配して訪ねたが、余生を過ごすから心配するなと言われ、それからも何度か訪れたが、結界が張られてあって、会うことはできなかった。だがここ最近は王都で、少女と買い物をしていると密偵から報告を受けていた。だが、会うことはなかった。幸せならば、それでいいと思ったし、無茶振をされずに済むからそのまま放置していた。あぁ~儂の安寧は過ぎ去った。


「お母様お久しぶりです。寝ぼけておりました。決して本心ではありません。でも今回は私のことを覚えていらっしゃるのですね」


「ああ、記憶継承スキルを身につけた。それに私も勘違いしていたが、幻影化によって記憶が無くなる訳ではなかった。単に記憶に蓋をされている状態だった。だから記憶継承スキルで、私の過去からすべて思い出した。まあ、さっきのことは嫁さんには言わないでおいてやるよ」


「ところでこんなに朝早く何のご用でしょうか?」


「あんたの持っている別邸の一つが、王都魔法学園の近所にあるよね。それを私によこしな!!」


「それは~ちょっと困ります。あそこには私の秘書が住んでいます」


「今日中に出てもらいな。私の本宅がここの近くにあるから、そこに住まわせるといい。あんたの別邸より大きいよ。使っていないから汚いが、掃除をすれば使える」



 クロードは目前の母が若返っていることで、今回も何か起こりはしないかと危惧したが、それ以上は逆らえなかった。


 兄と姉には早く知らせないと、もう若年化しないと言っていたのに。



「ですが……」


「唯一の母親の願いを聞いてくれないんだ。囲った女のほうが大切なんだ。そうかそうか。今からあんたの嫁さんに話してくるよ。彼女は私の専属秘書だから私の言うことは何でも聞く」


「ま、待ってください。すぐに手配しますから、それだけはご勘弁ください。それに嫁さんは叔母さんの専属秘書だから、言うことを聞くとは限りませんよ」


 そうだった。迂闊(うかつ)だった。勘違いをした。


「あの子は幻影の魔女の財産を管理しているから、私の秘書のようなものだ」


「お母さんのお願いですから、承知しました。秘書たちにすぐ連絡します」


「そうかい。あんたは昔から親孝行だね。ついでに筆頭執事と筆頭メイド長の2名とベテラン使用人をもらっていくよ」


「それは困ります。それに進退については彼らの承諾を受けないとできません」


 幻影の魔女ジーニュアは、クロードのベッドに束になった退職届を置いた。


「給料を倍出すと言ったらみんな喜んでいたよ」


「どうして私を(いじ)めるのですか?」


「かわいい二男を虐めるわけがないだろ。あ、そうそう、言ってなかったけど、あんたに妹ができたよ。今度連れてくる。私のペットだ」


「聞いていませんが?」



「4年8ヶ月前に養女にした」


(ジーニアは、ほんと馬鹿なことをする。雑用係にすればいいものを)



「ウラベル姉は知っているのですか?」


「これから知らせるよ。養女のララも住むからあんたも遊びに来ていいよ。あんたもいい年なんだから5人も若い女を囲むんじゃないよ。たいがいにしないとエドモンドに言って、魔法局長官を首にするよ」


「魔法省大臣の兄さんに言うのだけは止めてください。正座のうえボコボコにされてしまいます。久しぶりに会ったのに虐めないでください。『幻影の魔女』の二男という重荷から逃げるための、心の安定剤なのですから、私の地位を奪わないでください。そのかわり何でも言うことを聞きますから」



△△△

~入学式終了後~


 入学式が終了すると、生徒は『幻影の魔女』が寄贈してくれた『4桁魔力測定器』で魔力値と適正魔法を教えてもらい、それぞれ振り分けられたクラスの教室に入った。


 これまでは生徒の適正を見ながら手探りで教えていたが、4桁魔力測定器により教師も生徒も無駄な努力をしないで済むようになった。この世に1個しかない4桁魔力測定器を幻影の魔女が手放したことで、いよいよ幻影の魔女の評価が変ってきた。


 だが今回のものはララが作ったものだ、ということは誰も知らない。

 ララ以外はすでに5桁魔力測定器があることを知らない。ララは幻影の魔女ジーニアに魔力測定器の作り方を習い、以前のものを改良し、小さくした新5桁魔力測定器も製造できた。


 入学式で何もなかったがごとく、各教室では入学に際しての説明が行われていた。ララは特進クラスになった。


 特進クラスは一般テスト満点者のうち上位19名が入った。ザイナス・テナール枢機卿がジャンの入学を辞退しため、補欠となっていた者が喜んで繰上げ入学することになった。王都魔法学園に入学することは、名誉なことだから補欠の親は喜んで入学金を用意した。


 この日は生徒の顔合わせも初日のため、それぞれが自己紹介をした。


 小さなララは魔力が強すぎて暴走し、身体に負荷を掛けすぎていたため、成長を阻害されていた。魔力の木の果実を食べたことで、閉ざされていた魔力の壁を破壊でき、魔力暴走は止まり、今では152センチまで伸びている。


 人間は一気に魔力値が増えると魔素過多病になるのだが、幻影の魔女は魔素過多耐性があった。ララは魔力の木の果実が、器の中にもう一つある壁を破壊した。それが器を大きくしてくれたことで、魔素過多病を発症しなかった。


 もし次に大きく魔力値を伸ばしたら、魔素過多病を発生する可能性は高い。魔素過多病も軽症であれば、自己免疫があるものはいずれ治癒(ちゆ)するが、急激な魔素の増大による魔素過多病は、世界樹の汁しか治らないとされている。だが、世界樹は現在人間界には枯れ葉が好事家の元にあるのみだ。


 ララの魔力値は表示されないほどあるのに、それを精神的に押さえ込んでいるか、他にも押さ込んでいる壁が数個あるような状態だから、もっと魔力を増やす可能性はあるが、今はその時期になっていない。


 女子の平均身長は160センチで12歳頃ピークに達する。ララは152センチだから少し小さいが、幻影の魔女と初めて会ったころに比べれば十分だ。むしろ幻影の魔女は身長があるのに、ハイヒールを履いているから威圧感がある。


 ララからは威圧感は感じられない。かわいさを感じる。本人はまだ伸びると思っているが、成長期は終わったようでほとんど伸びることはなかった。そのかわり胸は肩が凝るほど発達した。



 男子生徒はララの顔を見ては恥ずかしそうにしていた。女子生徒はその容姿が幼いが『幻影の魔女』の養女であるため近づけずにいた。それでもジャンが自分の8割程度の実力と判断した、カルセノ伯爵の次女アネットは、強者であるララに進んで握手を求めた。


「あなたには負けないわ」


 それに対してララは、入学するまで幻影の魔女に全敗だったため、自分が強いと思ってはおらず、その意味がわからなかった。


「こちらこそよろしくお願いします。でも私強くないですよ?」


 アネットもララの魔法を見ていないから、ララの言葉を鵜呑みにはしないが、自分とそれほど力の差はないと思っていた。



 担任は魔法工学が専門のおじいちゃん先生だった。おじいちゃん先生は幻影の魔女ジーニアが教えた生徒の一人らしい。ジーニアも忘れていたが、ジーニュアは当然知らない。


 魔法工学は魔法防壁、魔道具などの製作を専門とする分野だ。このおじいちゃん先生、実は付与魔法の権威だった。これまでは付与魔法の適正者を勘に頼っていた。それで数年に1人くらいしか該当者が出なかったため誰もおじいちゃんが権威者であることを知らなかった。


 この日は簡単な自己紹介のみを行い、正式な授業は翌日からということだった。



 王都出身者は自宅に戻り、地方から出てきた者でも王都に屋敷を持つ者はそれぞれ居宅に帰り、それ以外の者は王都魔法学園の寮に帰宅した。



 ララはおじいちゃん先生から学園長室に行くよう言われた。



 ローカを歩いているとまだ距離があるのに学園長室からは複数の笑い声がした。



 ノックをすると学園長が戸を開けてくれた。


「待っていたわ。今日はお疲れ様」


「あ、はい。それに、25歳位になったお母様までいるし?」


「あ、ララちゃん、紹介するわね。ここに座りなさい」


 お母様はいつもと違い、他人行儀に丁寧だ。



 ジーニュアはララに自分の座るソファーの横に座るように言うと、目前の男女を紹介した。


「こっちのおっさんが二男のクロード・オベルツで魔法局長官をやっている。それでこっちが二女のサラ・アイスランで王都軍第一軍団大将。学園長リリアはサラの子だ」


「お婆さま、サラはお姉さんの子ですよ」


「ああ、そうだった」


 場違いな人たちの紹介を受けてララは慌ててしまったが、前方の2名は嬉しそうに礼をした。


 クロードは「儂らの安寧のためにも母さんをくれぐれもお願いします」と言い、何度も哀愁のある仕草をしていた。


 サラは「幻影の魔女を森に閉じ込めてくれてありがとう。おかげで毎日安眠できたのもあなたのおかげです。私も嬉しいわ。これからもみんなの安寧のためにお母様の暴走を止めてね」と言うと握手を求め、いつまでも手を離さなかった。


 それぞれの紹介も終わったのでララは、幻影の魔女にこれからどうするか尋ねたが、王都の新宅に戻ると応えた。


「あんたらも来るよね! あんたの嫁さんもいるから安心しな! 私の専属秘書だから当然だ」


「え!!」


「今日はこれから魔法局の軍事訓練に顔を出さないといけないのですが……」


「どうせ鬱憤(うっぷん)晴らしついでに部下をボコボコにするんだろ? 今日は私が直々にあんたの訓練をしてやるから喜べ。お前の部下も見学に呼んであるから心配するな」


「あ――――――私の安寧が……」


 お母様の記憶が消えていないのは嬉しいのだけど、お姉さんがいたことは初めて知ったわ。


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