ミリトリア王国分裂
<新ミリトリア王国>
ミリトリア王国第28世は、王都から脱出していた。ミリトリア南部の一部を新ミリトリア王国とし、自らはロイド・オベルツと名乗り、首都をファルザとした。ファルザとは『回帰する者』という意味だ。簡単に言えば、昔のように政治も軍事も人に任せて楽しく生きたいということだ。
ここ南部の新ミリトリア王国の面積がちょうど旧ザバンチ王国と同程度となる。
<幻影の魔族自治区>
その名の通り、幻影の魔女を信奉していた者が集まってできた自治区だ。旧ミリトリア王国王都がその支配領域となっている。ただし、幻影の魔族は自治に全く関与していない。幻影の魔族一味は、王都を中心にして、自由に略奪を繰り返しているが、隣接する軍事国家バンやステンノー聖女国でも略奪を繰り返しているようだ。
信奉者の収入源は人魚の木の果実の密輸となっている。
<反王族派の貴族が創建した、ダカレタイ連合国>
怪しい国名だが、国名に深い意味はない。それぞれの貴族の領地の広さの順にそれぞれの名の頭文字を並べた。ラカユ国と同じ発想で国名をつけている。国土はガザール国に接している東部地域の貴族で構成されている。
上から、ダキドス・チュルシン侯爵、カセイン・モドロン辺境伯、レッド・ブルー伯爵、タメット・メディアス伯爵、イリューナ・ホホバン男爵
<ミリトリア王国中央部無法地帯>
ここは、どこにも属さない貴族がそれぞれの覇権を目的に争っている。まだ国としては定着していない。対外的にはミリトリア王国の構成国となる。この中央部が一番面積が大きい。旧ミリトリア王国の3分の2を占める。
<ミリトリア王国北部、ラカユ国との国境壁を目指したウラベル様に憧れる地方の兵士が集まってできた自治区、この地区の者は『ララ自治区』と呼んでいる>
主に南部出身者と中央無法地帯出身者で構成されている。その中でも地方勤務の若者が多い。ミリトリア王国が分裂し、ウラベル様を慕う王都の兵士の内ラカユ国に亡命した者を除き、王都内に残っていた者は投獄されるか処刑された。
地方ではそこまでウラベル派がいなかったため粛清はなかった。粛清されなかった理由は若い下士官だったためだ。地方では少数派のウラベル派などどうでもよかった。
そんな若者がラカユ国に憧れ、国境まで集まったが、高い壁に遮られ、壁を中心にした自治区が完成していた。
そこは『ララ自治区』と名乗っていた。ララ女王にあやかりたいということから名付けられた。その自治区の中心をなしていたのが、『カマ中尉』と呼ばれていた少女だ。
カマ中尉は南部国境の中でも最辺境のマニタイ砦を統治していた。ここにいる兵士の3割はそこの出身者だ。カマ中尉は記憶喪失のため、年齢がはっきりしないが、見た目16歳のかわいい系だから、兵士に人気がある。
幻影の魔族たちを一人で退けた火炎魔法は圧巻だった。ただ、本人はそのときのことをあまり覚えておらず、魔法を使ったのは初めてと話していた。それから火炎魔法だけは使えたので、『灼熱地獄のカナ』とあだ名が付いたが、かわいくないため、本人は気に入っていない。
ララ自治区には人魚の木の果実がない。すべてカマ中尉が燃やした。ララ自治区が周囲3㎞ほどの広さだからできたことでもあるが、それでも人の手には余る程生えていた。
△△△
~近況報告会という昼食会~
本日の報告者はメルトミ・ルドリフ少将とエリツオ・ホヒリエ大佐と久しぶりのメロディ・ドゥファン大将の三人である。
エリツオ大佐は他の地区の統括者と均衡を図るため昇格させた。これまでも十分な働きをしたし、今でも大佐以上の仕事をしている。ヘルシス宰相はまだ下働きをさせるべきだと進言したが、私は聞かない。身内にはとても厳しい姉だからだ。
「最年少の美少年エリツオ大佐が報告させていただきます」
「くだらんことを言ってないで、さっさと報告しろ!」
「はい、姉さん」
「ヘルシス宰相と言え!!」
「ノグソ鉱山の金銀は順調に採掘されています。銀床はまだ支流ですから、本流に到達すればもっと採掘されるはずです。金山については誤報がありました。過去60年採掘をしたため、断裂で移動したとはいえ残りの埋蔵量は10年分程度と思われましたが、最近突然金の含有量が増えました。これまで本流と思われていた金床は支流だったようで、本流に到達してから採掘量、含有量ともに倍以上産出しています。その分副産物としての銀の含有率が減りましたが、銀床が発見されましたから、ここでも副産物としての銅も含有されています。このままでいけば、我国は金銀銅を大量に保有する金持ち国家になります」
「外部への発表は6割減にしてちょうだい。4割を金貨・銀貨に鋳造し、そのうち1割を国外取引に使います。1割を鉱山の整備、精錬所の建設、労働者の給与、運営費に充ててください。
残り2割は内乱で乱造された金貨と銀貨を回収し、含有量をゴルデス大陸統一基準に戻します。これで国際的信用も戻ると思われます。なお、未発表の6割分は金塊・銀塊にし、戦時用に備え首都金庫に保存します」
「はい、姉さん」
「宰相と言いなさい」
「はい、姉さん」
「……」
「もういいわ。次の人に代わって!」
「お久しぶりです。メロディ・ドゥファン大将が報告させていただきます。やはり現場はいいですね。私は国が大変なときに自分を見失っていました。フミ様に裸で外に出され、恥辱的な言葉を書かれたときは恨みました。でも今はそうしていただき感謝しています。あのまま続けていたら私はダメになっていました。
前置きが長くなりましたが、旧ブルザ王国中央部は他国と接していないため他国との紛争は生じていませんが、ブルザ国王の悪政で農地が荒れ果てていました。
現在、軍も農地の開墾を手伝っております。この地区をラカユ国の穀倉地帯にすべく水路整備も積極的に行っています。地元民も理解を示してくれました。ララ様が当面の食糧として不足分を高額で緊急輸入していただいたことで、地元民の方も一緒に開墾をしていただけるようになりました。まだ先は長いですが、いずれラカユ国の穀倉地帯と言われるように頑張りたいと思います」
「メロディ大将、あそこは元々穀倉地帯でした。来年には小麦の輸入をせずにすみそうですね。よくやりました」
「ヘルシス様、チャンスを頂きありがとうございました」
「では、メルトミ・ルドリフ少将から報告させていただきます。今朝届いたものもありますから、驚かないでください。なお、すべて裏取りはできています。
ミリトリア王国が分裂したことはすでにご存じだと思いますが、我国との国境地帯にララ自治区ができています。そこは若い兵士を中心とするするウラベル様信奉者の集まりでしたが、現在ではラカユ国信奉者となっています。そこまではあり得ることなのですが、幻影の魔族の襲来を一人で防いだ少女がいます。
地方の砦を統括していた中尉らしいのですが、軍に入る前の記憶がないため、誰も彼女の素性を知りません。もしどこかのスパイでしたら、国境を越えてくるかも知れません。あそこは首都に最も近い国境ですから早急に本人と会う必要があります。
次にガザール国ですが、2つに割れそうです。ジャン・ラクソンが教会長を務める国際神聖教会の押す国王の長男メリス・ガザリス3歳と前国王の弟のジャック・ガザリス54歳を押す前国教であったモナリス教です。ガザール国の中央を流れるミススッピ川を境にして東西に分離していますから、まもなく2つの国家が誕生するでしょう」
「昼食が終わったらララ様とあなたがララ自治区の様子をみなさい」
「ヘルシス様、ララ様が直接行かれて危なくないですか?」
「ララ様を信奉しているのなら、直接会うのが一番早い。ララ様には最強の護衛がいるから心配ないから」
「では、食後のコーヒーを飲んだら行きましょう。ララ様はいいのですか?」
「親衛隊と大和は置いていくわ。私と楓で行くから」
「私からも一言。第7位のアセト王国から国民への食糧援助の要請がありましたが、私の独断で断りました」
「?? ヘルシスちゃん、いいの? アセト王国の人たちが飢えない?」
「アセトのことはよ~く知っております。あいつが援助した食糧を国民に配る訳ありません。よくてネコババ。そうでなければ国外に売却し私財の蓄積に回すはずです。国境を接しているだけでも気分が悪い」
「ヘルシスちゃん、本当にいいの?国民に罪はないよ?」
「やつは1粒も国民に施すことはありません」
「ヘルシスちゃん、もしかして胸を触られたの?」
「いいえ、揉まれました」
「クズね。アセト王国の調査をしてちょうだい」
「黒服隊を倍に増員しました。まもなく報告があるでしょう」
会議のあとは、昼食会となった。
「メルトミちゃん、ラカユ国には慣れた?」
「正直まだ慣れません。軍の食堂で一般人が食べているのも不思議なのですが、私を監視する人間が誰もいないことです。将校には必ず1名以上の監視がついていたのですが、私のことなどどこ吹く風で、自意識過剰みたいで、恥ずかしいです」
「へぇ~。トイレは?」
「一番驚いたのは、そこなんです」
「水洗で綺麗だから?」
「水で流すトイレに驚愕はしましたが、そこではないのです」
「お尻シャワー?」
「あれはいいですよね。あれのないトイレにはもう戻れません」
「だったら何?」
「トイレの仕切りがあることです」
「はい――――――?」
「?」
「見えるじゃないの?」
「見せているのですよ?」
「変態ですか?」
「監視官に武器や毒殺用の薬を隠してないことを見せるのです」
「どうしてそんなことを?」
「クーデターが何度も起こったからです」
「まあ、慣れたら、同じ女性だし、なんとかなるかな?」
「いいえ、その日によって監視官も男性であったり、女性であったりします。監視官と対象者が共謀する可能性がありますから」
「やっとわかったわ。あなたが任命式の待合室で、ザザをトイレに連れて行って、目の前でいきなり用を足し出して、私が変態を任命したと報告してきたわ」
「違うのです。監視官がいないときは上官に確認してもらうのです。あのときは私より上の方はザザ少将しかいなかったのです」
「大変だったのね~。でも早くトイレの戸を閉めることに慣れようね。変態さんと思われるから」
「……は・い……」
「メロディちゃん、しばらく見ないうちに綺麗になったね」
「ご冗談を。百姓のやり過ぎで、顔は真っ黒、髪はバサバサ、手はゴツゴツです」
「ううん、そういう意味じゃないの。迷いがなくなった感じがして、化粧でゴテゴテしたときよりも美人だよ」
「あの頃のことを言われると、恥ずかしいです。今は野菜を育てることも、国防に備えることも、同じことなのだと思えるようになりました」
「メロディちゃんが、またここに戻ってくるのを楽しみにしてるわ。それまでがんばってね」
「はい!!」
「エリツオくんはノグソ鉱山の管理をよくやっているわ。アセト王国からの難民対策もよくできている。ラカユ国にはこれ以上難民を受入れる余力がないし、最近は偽装難民だらけだから苦労かけるわね」
日本は偽装難民を人道支援として、曖昧に受入れていたから、治安が悪化したのよね。ラカユ国は基本国外追放にしていたが、偽装難民そのものが罪として、鉱山奴隷にしている。金山、銀山が発見されて労働力が必要だったから、ちょうどいい。現場ではもっと労働力がいるから、偽装難民大歓迎と言っている。
「最近は、ラカユ国が孤児にやさしい施策をしていることが他の国にも伝わり、偽装孤児も多くなっています。今のところ貴族の子が偽装していますので、区別つきますが、そのうち本物の孤児を使って偵察にくるはずです。これからは孤児だからといって、なんでもかんでも受入れるのはどうかと思います」
「ヘルシスちゃん、そうなのよ。孤児はこれまで審査したことなかったから、油断していたわ。この前慰問に行ったときにナイフで刺されちゃった。えへっ」
「護衛がいるのに、無防備に近づくからですよ。もう少し警戒してください。雪様がすぐ最高難度回復魔法超グレートエクストラヒールを掛けられたから大事に至りませんでしたが、刺さった場所が悪ければ危なかったのですよ。即死したら超グレートエクストラヒールでも生き返ることはできないのですからね」
「もう大丈夫よ。今度は失敗しない。えへっ」
あれっ? ヘルシスちゃんの目が全く信用していない。
「まだ、内緒なのですが、もしかしたら新鉱が発見されたかもしれません」
「え? また誰か野糞したの?」
「違いますよ。世の中そんなに甘くないですよ」
「まあ、そうよね」
「実はララ様の掘られた落とし穴のうち、数個が埋め戻しされていなかったのです」
「ごめん。忘れてた。明日にでも埋め戻すね」
「それは困ります。実はその一つに銅鉱脈が見つかったのです。まだ含有量や埋蔵量が不明確で、ノグソ鉱山ほどではありませんが、一般の銅鉱山よりは質がいいようです。それに埋蔵量もそれなりにあるようですよ。詳しくは次の報告会にさせていだきます」
「みんながんばっているから嬉しいよ。でも無理はしないでね」
「「「はい」」」
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