仮病
「ララ様、3,024名の精神疾患者をどうするか、悩んでいらっしゃいましたよね」
「小町ちゃん、そうなのよ。精神病棟を建築させてもいいのだけど、そこのスタッフ、医師、食事の世話、汚物の始末、生きている間の世話、予算の配分もあるし、子供より手間のかかる3,024名のために、1,000名以上の人材が必要になる。しかも死ぬまで、かかる費用は垂れ流しになる。孤児と違って、大人だから食べる量は多い。それをしたらラカユ国の財政が窮屈になる。戦後処理で大変なときなのに、こんなことで人を取られては、何人いても人手不足で、もう悩みばかりよ」
「花はアホですが、天使食堂のコック出身ですから料理と精神魔法だけはピカイチなのですよ」
「『花』じゃないわ。『華』と言ってちょうだい」
「こいつの精神魔法は、苦しいこと、忘れたいこと、精神を侵す体験などを忘れる都合のいい魔法なのです。天使族で唯一の使い手です」
「ホント? これで彼等を救えるのね。それに、3,024名の収容施設を造らなくていいね。それだと、ラカユ国の国庫が助かるわ。すごいね。誰も使えない魔法が使えるなんて、華ちゃんは努力家なのね」
「違いますよ。華は嫌なことをやりたくないから、忘れるようにしたのです。何十万年もそうしてきたら、いつの間にか使えるようになっただけです。そんな努力の結果ではありません」
「ふふ、でも華ちゃん今は助かるわ。リデアがブルザ王国の仮収容施設に、収用しているから行きましょう」
△△△
ここは、ブルザ王国王都近郊の仮収容施設。国民に殺された貴族の屋敷を仮施設として使っている。
施設の雰囲気はとても暗い。ここではラカユ国の文官が臨時スタッフをしている。私が現れると文官は腰を抜かした。それでなくても戦争の後遺症で人が足らないのに、看護する者の手間のかかる精神施設に回す人材もいない。
「女王様、なぜこちらに?」
「驚かせてごめん。患者のお世話、ご苦労様。思っていたより大変ね」
「はい、まるで3ヶ月の赤ん坊を相手にしているようです。しかも、赤ん坊より大きいだけに余計手間がかかるのです。スタッフが全く足りません。スタッフのほとんどが文官です。皆疲れ果てています。こんな状況ですが金銭を支給すると言ってもブルザ王国の国民はここで働いてくれません。彼等は国を全く信じていません。このままでは、この国の統治は大変だと思います」
「それは、戦ってみて、なんとなく分かったわ。で、私がここに来たのは、あなたたち文官には、本来の仕事をしてほしいからよ」
「?」
「大広間に100人ずつ入るよう指示してくれる?」
「はい? 分かりましたが、私の一存ではできませんから、ここの責任者であるリデア元帥を呼んできます」
いつも元気バリバリのリデアちゃんの足取りが重い。
「リデアちゃん、頑張っているね」
「ララ様、どうされたのですか? お忙しいでしょう?」
「まあね。でも今日はリデアちゃんに朗報があるわ。3,024名の患者の病んだ精神を本日開放します。正気に戻った彼等に、これからどうしたいか、聞き取り調査をさせてほしいのよ。軍に入りたい人がいたら、今晩面接するから、大広間に連れてきてね」
「?」
「ふふ」
「まともな患者はいませんよ?」
「心配いらないわよ。これから解決するからドンと任せてちょうだい」
「いいのですか?」
「うん。もう大丈夫」
「理解できないですが、分かりました。ララ様のすることですから」
華ちゃんの精神魔法は、一人一人の頭上に魔方陣を発生させ、そこにトラウマや嫌なことが吸収されていく。
重症者もいたが、全員の頭上から魔方陣が消えた。
「華ちゃん、すごいね。ありがとう。これで皆さん救われたわね」
「それが……魔方陣がすぐ消えた者がいました。どうも精神患者ではない者が結構います」
「…………」
「簡単に言えば、仮病ですね」
「そう。だったらお仕置きね。……じゃ早く片付けようか」
大広間には魔法陣がすぐに消えた者とラカユ国軍に入りたい者が集められた。
「ラカユ国軍に入りたい人が結構いるね。リデアちゃん、そんなにうちの軍がいいの?」
「噂で伝わっていたようです」
「どんな?」
「毎月給料が遅延することなく支払われることです」
「え――――! きちんと払うのは、当たり前じゃないのよ」
「ブルザ王国では軍は徴兵制で、給料もラカユ国の3分の1、しかも遅延などいつものことでした。それが原因で、この施設で募集をかけても、誰も来なかったのです」
△△△
「これから面談するね。全員で374名だから一回で終わらせるよ。いつもどおり番号札をしているね」
「ところで、そちらの新しいメイド様は?」
まただ。バケモノが増えている。ララ様はいったいどこから連れてくるの?
「華ちゃん、終わった?」
「は~い! 担当した1番~100番は終わっています」
「華ちゃん、ちょっと来てくれない?」
「すぐ行きま~す」
「華ちゃん、彼女だけど、現役国軍の中で一番偉い子よ」
「リデア・ポミアンと申します。どういう訳か元帥をやらせていただいています」
「華と申します。まだ18歳なのにできる方なのですね。夜のほうも相当お強よいようで、ほほほ」
私、まだ歳を言ってないよ?
「いいえ、華様こそお若いですわ」
どう見ても12歳位よね。でもそれにしては私より胸がバキュンバキュンよね。
「リデア様はお上手ですね。そこまでバキュンバキュンではないですわ」
怖い。何? 私の心が読まれた? 他のメイドと変らない威圧感。この人も言動に注意しなければならない人だ。私の本能がそう語っている。
「心は読んでいませんよ……頭の中……」
「こわ~、この人もこわ~、怖い人だ。逆らわないようにしよう」
華ちゃんが念話で送ってきた。
「・「 1.6.9.12.21.30.45.63.78.79.85.90.96.99
こいつらの精神は狂っておりません。仮病です。それに殺人をしています。
2.7.16.17.31.32.36.41.42.53.55.58.66.71.75.78.80.82.87.91.95
こいつらは盗賊行為と強姦をしています。
4.50.100は詐欺師です 」・」
約4割がアウトね。思ったよりも多かったわ。バレないと思ったのでしょうね。
雪ちゃんと小町ちゃんも終わっていた。
雪ちゃんの列は6割がアウトだった。
小町ちゃんのところは殺人者が多かった。この列のほとんどは、元が山賊一味だった。
まともな者は165名だった。
いつものように証拠を出せと騒ぐ。もういい。
ほとんどが処刑された。投獄は詐欺師だけで4名。彼等は鉱山奴隷となる。現場からは、新鉱床が発見されたのだから、もっと奴隷が欲しいと要望がきている。最近は違法難民はかまわず鉱山奴隷にしている殻、減っている。違法難民に悩まされていた頃が懐かしい。ラカユ国は違法難民は鉱山奴隷として就職が決まっているから、いつでも大歓迎だ。
捕虜となった職業軍人のうち、戦争に関係ないのに殺人を犯した者はその時期にかかわらず、処刑した。昔のこととか関係ない。ラカユ国ではそんな者はいらない。
一般人で殺人、強盗、強姦を犯している者は、軍事法でなく、ラカユ国の一般法で裁判にかける。本音をいえば強盗・強姦は死刑でいい。
大広間で仕分けした者以外の精神患者で、回復した者はほとんどが、この度の戦争で強制徴兵された者だったが、その中にも、殺人者や強姦などをした者が数十名いた。それらは軍に入ってからそれらの行為をした訳ではないが、ラカユ国の一般法に従い処罰した。せっかく精神を解放されたのに処刑された者が3名いた。
そしてラカユ国では見慣れたいつもの光景が見られた。
「何の証拠もなく、処刑するな。証拠を出せ。俺はやってない」
「女王を出せ。俺は役に立つ」
「俺はこれまで正直に生きてきた。そんな俺がどうしてこんな目にあわされるのだ」
もう何度も聞いた。一応裏付けはとるけど、わからない人も結構いる。関係ないけどね。私のメイドたちは、私が困るような嘘を絶対につかない。これだけは何と言おうと譲らない。
ブルザ王国軍のうちラカユ国編入者 11,001名
新規募集に応募した兵士 7,728名
常時募集で入隊した者 3,127名
再編入後のラカユ国正規軍 41,007名 文官 2,684名 総計43,691名
再編入後の国力比較
1位 ヘブリス王国(面積1位、兵力1位 兵士6万名)
2位 ラカユ国(面積2位 兵力2位、 兵士4.3万人)
3位 ケトン王国(面積4位 兵力3位 兵士3万人)
4位 トステラ王国(面積5位 兵力4位 兵士2.5万人)
5位 ホリステット王国(面積8位 兵力6位 兵士1万人)
6位 ギスア王国(面積7位 兵力 7位 兵士8千人)
7位 アセト王国(面積6位 兵力8位 兵士6千人)
有能な将校は実働部隊に一人もいなかった。
なぜなら、有能な将校は全員幽閉されていた。
彼等は今回の戦争に反対した者たちだ。ザバンチ王国の分裂を経験している彼等は、同じ民族が単に領土を奪い取るために、侵略戦争を仕掛けることを嫌った。
彼等は人間的にも素晴らしかった。特に優秀だったのが、天才ヘルシスに次ぐ秀才といわれたリデア・ポミアンと双璧を争ったメルトミ・ルドリフ中佐だ。彼女の描いた作戦原図にはノグソ鉱山の進行に際して、ヘルシス宰相の作戦Cが記載されていた。それでも作戦C改+までは考えていなかったようだ。ピノ大将の経験が上回っただけで、それはまだ経験不足から、相手がそこまではしないだろうという甘さがあったからだ。
彼女がヘルシス宰相と3歳違いということを考えれば、やばい人材だ。私はヘルシス宰相、リデア元帥、ピノ大将がいたことの幸せを噛みしめた。
ブルザ王国は大きくなったラカユ国の2倍の広さがある。ここを統治するのはさすがに人材不足だ。地元民を活用するしかないが、優秀な者もたくさん殺してしまった。戦争のせいといえばそれまでだが、ヘルシス宰相は3区分に分割統治した。最も重要な西地区はヘブリス王国と接している。最も大きく、最も兵力を持っている国だ。大きくなったラカユ国のさらに1.5倍の大きさを誇り、軍事力も大きい。優秀な将校もたくさんいるらしい。
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