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開戦直前

「本日いない幹部は、現在作戦Aを実行中だ。よって、これからは作戦Aしかない。全員事前に実施要項を頭に入れていると思うから内容は省略する。これからララ様と謎の少女が作戦Aの事前準備をする。全員打ち合わせ通り行動してくれ。では小ホールに食事が用意してあるから、食べ終わったら各自持ち場に着任するように。では解散」



 私と楓は短い睡眠を終え、リデア・ポミアン少将から幹部への説明が終わったようなので、食事がてら小ホールに顔を出す。


「「「「「「お疲れ様です」」」」」」

 元気な声がするが、人は(まば)らだ。


 さすがリデアね。幹部は10分の1程度しかいない。ほとんど現場に出ているとのこと。メロディ中将の補佐官にはリデア・ポミアン少将(首都警備隊最高司令官)が就任しているが、リデアが司令官のようだ。彼女の頭はヘルシス並で、クールビューティーだから、いい人選だ。メロディは見るからに優しい感じのぷにゅ美人だから、今一歩(いか)つい男どもは従わないのよね。だからその役はリデアがやっている。ここは実質的にはリデア少将が切り盛りしている。


 顔? 顔に従う? それはないか。リデアは努力もしている。


 いつまでも出て行かない連中がいたので、リデア少将は小ホールでのんびり食べていた将校の頭を、刀の鞘で殴っていたそうだ。極めつけが『3分以内に食べ終えて現場に出ないやつは一階級降格させるぞ』と微笑みながら言っていたそうだ。リデアなら、本当にやるから、飛んで行ったらしい。今残っているのは作戦司令室所属だから、小ホールに残って食べながらも、模擬戦用の(こま)を動かしながら、作戦Aについて話し合っている。さすが本部所属将校はヘルシス宰相が選んでいるからすばらしい。




△△△

 ヘルシス宰相が満面の笑顔で私に話しかけてきた。これきっと、楽しくないやつだ。


「今から国境壁を造っていただきます。私は食事をしてきますから、詳細はリデア・ポミアン少将が話します」


「えっ、え――――――!!  私たち何も聞いないよ?」



「では、ヘルシス様に代わり私がお話させていただきます。まず、これからミリトリア王国との国境封鎖のため高さ10メートルの壁を造っていただきます。今回は3kmですから楽勝ですよ。期待していますよ。頑張って下さい」


「今度は穴掘りではなくて壁作りなの?」


「はい、ミリトリア王国側には返しの反りを入れてください。丁寧な仕事を期待します。幸いにもミリトリア王国との国境はホーセン山脈と魔物の森で遮られているため、お互いに越境をすることはなかったのですが、急がないと、まずいことが起きました。これから、ところどころに低い場所があるのでそこを壁で囲んで欲しいのです」


「ミリトリア王国で何があったの?」


「現在、ミリトリア王国は地獄絵図と化しています。幻影の悪魔一族がところかまわず破壊活動をしています。それだけでしたら、他国のことなので今すぐ対処すべきことではないのですが、人魚の木(悪魔の木)がミリトリア王国内で異常発生しているのです。


 それだけならば、まだいいのですが、人魚の木(悪魔の木)の果実を闇市場で他国に輸出しているのです。昨日我国でも2つ発見されたのですが、雪様が市場にある時点で感づかれ廃棄されました。、このままでは難民と一緒に人魚の木(悪魔の木)が入り込んでしまいます」


「私が雄叫びの森の人魚の木(悪魔の木)を燃やそうか?」


「もう、その段階は過ぎました」


「もうそこまでなっていたの。なんか悲しいね」


「感傷に浸る暇はありませんよ。さあ、壁造りに行ってください。場所の指示は宰相秘書官ペトラ中佐とオルガナ少佐が把握していますので、二人を連れて行ってください」




△△△

「ララ様、もっと高く、そうそう、そこの反りが足りませんよ」


「楓様、そんなにちょくちょく休んでいたら今日中に終わりませんよ」


「雪様、まだ食事の準備は早いですよ。昼食を30分短縮します」

 ペトラとオルガナ秘書はヘルシスの影響を受けていた。鬼ペトラ、鬼オルガナがそこにいた。



 重労働がやっと終わった。見事な壁ができあがった。厚さ3メートル、高さ10メートル、12カ所、全長7㎞だった。



「リデア少将は確か3㎞と言ったよね」


「いいえ、ヘルシス様から頂いた資料は7㎞になっていますよ」


「……(だま)された。絶対ヘルシス宰相の入れ知恵? いいや、ヘルシスはこんな姑息な手は使わないわよね。ということは、リデア少将ね。彼女ならやるわ。まあ最初から7㎞と聞いたら、途中で(くじ)けたかもしれないわ」


 夕刻に戻ると、ヘルシス宰相が満面の笑顔で出迎えてくれた。


「ララ様、楓様、すばらしいです。きっちり、リデア少将の計算通りの時間です」


「やっぱりそうなのね。もう好きなようにして」


「プレゼントを準備しています。明日の実行指示書が、私からの最高のプレゼントです。隣室に暖かい食事が用意してあります。雪様の指示で肉を主体に揃えていますから、明日も朝から元気もりもり、ミドリ連合国で穴掘りできますよ」


「まだあるのね。私たちに作戦Aの概要を教えなかった理由がわかったわ。超ハードスケジュールだよ」




△△△

 ~ミリトリア王国~


「国王様、とうとう王都内でも人魚の木の果実が生りました。それも貴族街です。この王都だけは死守しないと、他国から侵略される前に自滅します」


「マカリ宰相にまかせる。儂はロイド・オベルツに戻りたい。お前が国王をしないか?」


「冗談はこの事態を解決してからにしてくださいませ。それに幻影の魔族をどうにかしていただけませんか。またどこかのダンジョンでスタンピードを起こしたようです。彼女のことを『ママー、ママー』と言っていたではありませんか」


「ママは昔のママではないのだ。正気でいる時間がどんどん短くなって、昨日は、噛みつこうとしたのだぞ。もう少しで男でなくなるところだった。今日から、別の部屋に引っ越す。


 あそこは魔族というより『餓鬼』の集まりだ。やつらは交尾を重ね、すでに32匹も子をなした。この調子でいくと1年後には100匹の可能性もある。言葉すら忘れている者がいる。やつらは町中に繰り出し、破壊と強奪を繰り返している。他国も侵略しているようだから、早くどうにかしないと、ミリトリア王国が侵略をしていると思われてしまう。


 たまに大人しいと思ったら、ダンジョンでスタンピードを起こす。もう手が付けられん。しかも奴らは魔法を操る。子供は幸いにも魔法が使えないようだが、ジーニュアママは、幻影の魔女の頃に比べると上級魔法士程度まで能力が落ち、闇魔法しか使えないが、王都には上級魔法士は一人しかおらん。その一人も儂だ。


 だが儂は幻影の魔女に魔法を教えてもらったから、儂の攻撃パターンはバレバレだ。一時期魔法が使えなくなったときがあったが、あのとき気づけばよかった。魔法学園の教師たちは自分の所属する貴族の下に帰り、儂の側には筆頭魔法士も貴族側に寝返ったから、初級と中級魔法士しかいない。

 幻影の魔女は以前の魔法とは、全く違う魔法を使い出した。魔法の種類は一種類だがスケルトンを操る。儂は神聖魔法を使えんのだ。もうこの国はおしまいだ」


「ウラベル様、エドモンド様、クロード様に戻っていただくよう働きかけたらどうですか? 今の幻影の魔族であれば、あの方たちであれば問題なく始末できるでしょう。特にウラベル様は神聖魔法と認識阻害魔法を使われます。以前幻影の魔女が魔族化したときも、最後はウラベル様が認識阻害魔法と神聖魔法で解決されたと伺っています」


「それは無理だ。あのときは幻影の魔女の退行年齢が20代後半だったから、そこまで魔族化が進んでいなかった。ギリギリだったらしい。それでも(わら)をも(つか)むつもりで手紙を出したが、これを見ろ!」


 返信には、右目の下瞼(したまぶた)を人差し指で押さえ、舌を出している、絵が一枚のみ。そして、その下に解説まで書いてある。



『アッカンベー』





△△△

 ~ミドリ連合国王城~


「なんだと!! 戦いもせずに降伏して、しかも自害もせず、捕虜にもならず、のこのこ戻ってきたのか? お前らは馬鹿か。国土が半分になったのに、そのまま戻ってきたら、食糧事情が悪化するだろうが。それもわからんのか。せっかくホジェス・ミエラス国王と第二候補のイエルダンク・リーカスがいなくなったんだ、これでは『ミとリ』がいないから、ド連合国ではおかしいよな?」


「はい、それは、もちろんでございます。ドルチェス国王様」


「儂はレルト・ミエナスの摂政だぞ。儂は国王ではないぞ。お前も悪だの~」


「レルト・ミエナスは幽閉しております」


「そうか。気が利くではないか。だが幽閉では甘い。ユウリとサラのこともある。またラカユ国に亡命されてはかなわん。今すぐ殺せ」


「はっ! 死体はどうしましょう」


「犬の餌にでもしとけ。国民には病死だからな」


「当然です」


「これから戻ってきた兵士と、ここにいる兵で、ラカユ国に侵攻させるぞ。宣戦布告はするなよ。首都を陥落して女王の首を落としたら、宣戦布告するんだぞ」


「ギャバリン様の十八番(おはこ)、勝利してから宣戦布告ですね」


「ああ、馬鹿正直に今から行きますよ。なんて大馬鹿のやることだ。賢い人間は奇襲をするのだよ。他国の非難も一時のことだ。勝った者が正義だ。歴史は勝者が書き換える」


「では、ギルデス・ショッパナを、中将から元帥に昇格させ全軍の指揮をさせます」


「ああ、やつは儂の子飼いだからな。いい人選だ」


「では、国内の兵力15,000人で総攻撃をさせます」




△△△

 ~ホセ国~


「ホセ国王様、全軍でラカユ国に押しかけましたが、国境壁を越えると運河があり、ラカユ国には侵入できません。大急ぎで小舟を集めています。集まり次第改めて進軍します。もうしばらお待ちください」


「それはしょうがないか。だが、急げ。ミドリ連合国がラカユ国全土を支配する前に、せめてジョバリ・バッセが支配していた旧フルセタ伯爵領は奪いたい。早くしないと食糧がない」


「あと数日の辛抱でございます。旧ザバンチ王国全土がホセ国になるのも夢ではございません」


「お前は、いいことを言うのう~。ラカユ国を征服したら、お前を少将から元帥にしてやるからな」


「ありがたき幸せ。ホセ国王の喜びは、私の幸せでございます」


「そうか。お前は儂によく尽くすのう。統一したら国軍総司令官に任命してやる」


「ありがとうございます。私はホセ国王の犬であります」


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