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育成日記①

 ~4年8月前、ララと幻影の魔女ジーニアが出会った翌日の朝食時、ララの生きてきた軌跡を聞く前のこと~



「美味しいかい?」


「はい。とっても美味しいです」


「ゆっくり食べながらでいいさ。とりあえず、もう一度名前を聞いていいかい?」


「はい、ララ・ステンマです」


「そうかい。そうかい。りっぱに応えられているよ。それで体に何か異常はないかい?」


「いいえ。むしろ久しぶりに、ゆっくり寝ることができて、スッキリしています」


「小さいのにしっかりしているね。ところで相談なのだが、ララは私の子供になる気はないかい?」


「?」


「急なことでビックリしているだろうけど、私にはララの年齢に近い玄孫(やしゃご)が沢山いるが、私は誰とも一緒に暮らしていない。それで、ララさえよかったら私の子になって、私の後を継いで魔法使いになる気はないかい?」


「とても嬉しいですが、いいのですか? 私は教会で魔力値がゼロと言われましたから、魔法使いには憧れますが、そもそも無理ではないですか?」


「安心していい。ララには誰にも負けないほどの魔力がある。魔力の木の果実を食べて体に異変が生じていないということは、そういうことだ。

 現在持っている魔力がさらに大幅に増幅したことで最高の魔法を使える体になったのだよ。同じ魔法でも威力が違う」


「すみません。魔力がゼロでは数倍にならないような気がするのですが。ゼロをいくら倍数してもゼロではないのですか?」


「それはボンクラ神父が間違えている。神父は魔力値の最高値は999だと思っているだろ? だから魔力測定器は999までしか表示されない。1,000を超えると「###」と表示される。

 


 全く魔力のない普通の人間が、魔力測定器に手を乗せても、何も変化がないし、何も表示されない。この世界で生まれれば、何かしら魔素の影響を受けるから、私は魔力のない人間をみたことはない。魔力の少ない人間は腐るほどいるが、この世界に魔力がない人間はいない。


 私も初めて言われたときは、ショックで眠れなかったよ。それでいつのことかは思い出せないが、まだ私の師匠が生きていた頃の話だ。運良くサタンの結界が破壊され、メロンに似た果実が1個だけ生っていたから、今考えると無謀だったが私は食べたよ。


 まぁ、少し渋くて不味かったが、お腹が空いていたからね。だが急に眠くなって、そのまま卒倒してしまった。ところが起きたら魔力と魔法種が増えていた」




「でも、私、信じられません」


「だったら食事が終わったら、そこに着替えを用意しているから、隣の研究室に来なさい」


「はい。すぐ食べます」


「急ぐ必要はないよ。ゆっくり食べたらいい。時間はたっぷりある。それで私の子になるかい?」


「ありがとうございます。私にはもう頼る親も親戚もいません。こんな私でよかったらよろしくお願いします」


「ああ、私も嬉しいよ。子供を育てるのは何十年ぶりだろうね。それに魔法を教えるのも数十年ぶりだ。これからはララと呼び捨てにするけど、いいかい?」


「おばあさまは、何とお呼びしましょうか?」


「ババアでも、幻影の魔女でも、ジーニアでも好きなように呼んでくれていい」


「だったら。『お母様』でもいいですか?」


「ああ、ババアだが、ああ、ああ、いいとも」


 ジーニアは自分の食器を風魔法と水魔法を使い、器用(きよう)に洗っていた。それを見ていたララは、本当に魔法使いなのだなぁ、自分もああなれたらいいなぁ、と思っていた。



 ララはのんびりと流れる時間の中で、朝食を終えた後に着替え、ジーニアが待っている研究室を訪れた。


「お母様、私がこんなにかわいくて、高級な服を着てもいいのですか?」


「私の子なのだから当然だ。よく似合っているよ。やっぱり女の子はスカートがいい。そのうち髪が長くなればもっと似合う」



 そう話すとジーニアは、教会の魔力測定器より、二回り大きな水晶球の上に自分の手を置いた。



「字と数字は読むことができるかい?」


「字は読めますが書けません。数字は読むことも書くこともできます」


「だったら大丈夫だ。この魔力測定器は、教会にあるのとは違い、5桁まで表示される。この球体の中を見てごらん。数値はなんて書いてあるかい?」


「えーと、17,828です」


「昔と変ってないね。進歩してない。年をとったものだ。その下の字は読めるかい?」


「えーと、しゅるい(まほうしゅおよびしょぞく) げんえいまほう、かえんまほう、みずまほう、しんせいまほう、くうかんまほう、かいふくまほう、かぜまほう、です」



「よく読めたね。種類(魔法属性及び所属) 幻影魔法、火炎魔法、水魔法、神聖魔法、空間魔法、回復魔法、風魔法の7つが私の使える魔法だよ。どれも最高難度まで使える。魔力の実を食べるまでは、幻影魔法と回復魔法は上級まで使えたが、残りはどれも中級魔法までしか使えなかった。それに水魔法と風魔法は、魔力の木の果実のおかげで増えた魔法だ。


 その所属というのは人間の場合は出ない。『所属 人間』と表示しても意味ないからね。これは人間以外の場合に出るようにしてある。幻影魔法を使う魔族が、人間に化けているかもしれないからね。


 もし魔族だったら、種類には魔法属性は表示されず、『魔族』と表示される。残念ながら人間以外の魔法属性を表示することはできない。悪魔の魔法属性まで表示できれば対処方法もあるが、私の能力の限界だ。


 魔力の木の果実を食べることができる条件は魔力がないことではなく、魔力が一定以上あることだ。一定以上といっても実際はいくら必要なのかは私にも分からないが、少なくとも魔力の木の果実を食べる前の私の魔力値は5,057だった。ララもこの水晶球に手を置いてみなさい」



 ララはまたゼロと表示される懸念があったため、心配そうにやや震える手を魔力測定器に置いた。


「ふふふ、ははは……」


「お母様、なんて出ましたか?私怖いです」



「ララが自分で見たらいい。目を(つむ)っていては見られないよ」


 ララは首を斜め後ろに曲げ、目を瞑っていたが、恐る恐る正面を向き、目を開けて水晶の中を見た。



「これ、壊れてないですよね?」


「私が作ったものだよ。壊れるわけがない」


「でも!『#####』と表示されています!!」


「それがララの魔力値だ。5桁でも表示しきれない。それだけではないよ、その下には何と書いてあるかい」


 魔法属性 複写 種族 ?卵


「これ、なんですか?」



「『複写』という言葉は初めて見たからわからないが、それはきっと使える魔法の種類がいっぱいあるのではないだろうか? これから確かめてみればいい。種族は人間だから出てないが、?卵はよく分からない」




「火炎魔法とか、回復魔法って書いてないし、これ一つしかありません。お母様みたいに沢山ありません。『複写』って、どんなものですか?」


「初めて見たが分からない。私の場合は、3桁魔力値測定器に魔法種類欄を追加したとき、『???』だった。5桁魔力値測定器に種類を10個分追加したときには『?』が消え、使える魔法種が7つ表示された。だが、複写は見たことがないし、『?卵』が表示されたことはない。まぁ、これを使ったのは私とララだけだから、魔法回路のどこかにエラーがあったのかもしれない」



「すごいですね」


「そうだよ。ララはすごい能力を秘めている。それに初めて見る魔法属性だ。どんなものが使えるのかワクワクする」


「なぜわかるのですか?」


「?卵のことは分からない。判定器が理解不能と判断したということだろう?」


「でも、これだけの数値があっても、これまで魔法は全く使えませんでした」


「それは当たり前だ。字だって習わないとわからないだろ? 魔法だって最低限詠唱を覚えなければ使えるようにならない。短縮詠唱や無詠唱は、それらができて初めてできるようになる。何も知らないララが、初級魔法すら使えなくて当たり前だ」


「私も使えるかしら?」


「幻影の魔女が教えるのだから必ず覚えることができるし、私すら超えることができる。ただ、体力もつけないといけないから、1か月は栄養のある食事を沢山摂って、適度に運動をするようにしないとね」


「はい。がんばります」


 ジーニアは、ララには言わなかったが、『卵』のことが気になった。ララは魔族ではないことだけは、はっきりしているが、『?卵』とは何を意味しているのか?

 魔力回路を埋め込むときには、その制作者の知識と引用した文献がそのまま反映される。だから知らないことまでは分からない。それにもう一つ気になったことがあった。


 ララが研究室に来るとき、窓も開けていないのに、風が吹いたことだ。ジーニアは少々暑いとは思ったが、風を魔法で発生させていない。

 もしかしたら『複写』とは……。



 幻影の魔女はその日のうちに、養子縁組の手続を済ませ、一か月は二人で食事を作ったり、遊んだりした。


 幻影の魔女にとっては、『雄叫びの森』でララと暮らした時期が、彼女の生きてきた中で、最も人らしい生活だった。戦いに明け暮れ、人生を放棄した魔女に、新たに家族となったララとの生活は、楽しいことばかりだった。


最後まで見ていただきありがとうございました。

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