空から天使が降ってきた
今日はミドリ連合国との国境地帯を視察に来ている。そう言っても、軍列を組んで来たわけではない。私、楓、雪ちゃんの三人で空から見ている。
「随分と集結しているわね。それに本格的な砦も造っている。これだと、そろそろ始めそうね」
「ララ様、このまま破壊しますか?」
「雪ちゃん、それはダメよ。まだミドリ連合国軍が、国境を超えたわけではないからね」
「面倒くさいのですね」
「そうよね。ホントそう思うわ。マジ引き返してくれないかしら」
「おねえちゃん、わたしが様子を見てこようか?」
「ダメダメ。あんたは切れるとすぐ破壊活動するから。私たちが悪いみたいになるわ。それだと他の国から一斉に国境を越えられても文句言えないし、さすがにこんな小さな国の国民を守りながら、全方面からの攻撃を防衛できないわよ」
ということで、あと3日~4日で越境してくるだろうという結論に達した。準備は整っているが勝てるという保証はない。いくら優秀な兵士が多いといっても、兵力の差が4~5倍ある。
負けてラカユ国が滅ぶくらいだったら、敵の民間人にも犠牲が出るかもしれないが、魔法攻撃で敵を一掃し、国境地帯の砦は焦土としてもかまわない。最終手段として私は必ずそうする。
ラカユ国の首都軍、国境軍、文官まで全員を動員して総兵力は約6,000名だけど、現実的には文官には戦闘をさせたくないし、他の国との国境警備と国内治安のために2,000名は必要だから、実働隊4,000名に対して、敵が全軍で責めてきたら約18,000名が侵攻してくる。
でも、これだけ兵力差があればミドリ連合国は赤紙で追加強制徴兵することはないだろう。国境警備や治安のために一部を残しても実際は12,000名程度が押し寄せてくる。であれば、志願兵ばかりなので、覚悟はできているはずだ。徹底的に叩きのめすことも視野に入れておく。
ラカユ国では、徴兵をしない方針にしている。私のひい爺ちゃんも赤紙で第二次世界大戦に徴兵されたが、散髪屋さんが、野菜屋さんが、サラリーマンが、学生が、帰りを待つ家族が、それぞれ国の都合で未来を奪われ、命を散らしたと話していた。そんな戦争はしてはいけない。
ここ数日、幹部がミドリ連合国から、侵攻されたときのシミュレーションをしては、ため息をついている。民間人に被害が出ないような戦いをするのならば、最後は謎の少女3名が出ないと勝てないらしい。
それならば作戦などいらないと、勝手に暴走してはいけないと、ヘルシス宰相から釘を刺されている。ぐっ……見透かされていた。
ミドリ連合国が越境した時点で、最大魔法で総攻撃を掛けてしまえば、ミドリ連合国の住民も巻き込み無差別に殺してしまう。広島や長崎と同じことを、前世とはいえ日本人である私はそんなことをしたくないから、暴走はしないつもりだが……しないかも? ……自国民が殺されたら、するかも。
△△△
さて、敵情視察も終わったので宮殿に戻るが、お腹が空いたので昼食をする。ここは高台、敵は前方1,000メートル、相手は双眼鏡を持っていないから、こちらに気づいていない。たとえ気づいてもピクニックにしか見えない。
「ララ様、先ほど見つけた松茸です。ここに松茸があることは誰も知らないみたいですが、ここから国境を越えた先の森には、ここの10倍くらい松茸が生えていますよ」
「雪ちゃん、越境したの?」
「当然です。私は世界の食材や調味料を集めています。食に国境の概念はありません」
「そうよね。それが雪ちゃんだものね」
「それで、敵に見つかったらどうするつもりだったの?」
「もちろん、殺します」
「そうよね。それも雪ちゃんだもんね。できれば今は大人しくしてほしいかな~」
「はい、そうします。では夜になったら松茸狩に行ってきます。もし国境の問題があれば併合すれば国境問題などすぐに解決します。これからパパッと殺して、併合できるようにしてきましょうか?」
「止めて! うん、松茸くらい好きなようにして!! もう何も言わないから」
「はい。もちろんです。今夜は松茸祭です」
雪ちゃんは取れたての松茸を焼きだした。あ~いい香り。うな重と松茸と寿司は私の三大欲求よ。今夜はこれ以上の量を食べることができる。戦時下でこんな幸せな時間があって最高だわ。
だけど、まだうな重と寿司は食べてない。ラカユ国には米がないのよ。シドル連邦とはまだ国交がないから米が手に入らないのよね。
私たち三人だけでシドル連邦に行って、屋台で米を食べることはできるけど、孤児だったララは一人でこっそり、特権階級のようにすることに、気が引ける小市民だ。でも三人一緒であればいいかもと考えてしまう、食べ物に弱い自分がいる。
シドル連邦と正式に国交が開けたら多種類の籾を輸入して稲作を推奨したい。コシヒカリは絶対欲しい。そうすれば国民もお米を食べることができるようになる。そのときまではお預け。ヘルシス宰相がんばれ。
この世界の人は松茸をあまり食べない。松茸よりも椎茸を高級品として扱っている。私の分析によれば醤油が無いせいかもしれないと思ったが、松茸は自然にポンポン生えているが、椎茸は自然種を見つけるのが難しい。国内が落ち着いたら椎茸栽培をしてみよう。
だから私が宮殿の庭で松茸を焼いても、誰も羨ましいと思わない。むしろ椎茸を焼いていた方が贅沢をしていると思われる。
今回は焼いた松茸に醤油を垂らしたものを食べている。醤油は、雪ちゃんの保存調味料の一つだ。醤油と味噌についてはシドル連邦から輸出されているから、お金さえ積めば手に入る。でも雪ちゃんは現地購入するから庶民価格で買う。当然味噌も買っている。米の料理も出ることがある。雪ちゃんが作るものには一切文句は言わない。進んで米を食べることはしないが、雪ちゃんが作ったものであれば食べる。
大国シドル連邦は、こちらから頼んでも、いつ滅びるか分からないほど小国のラカユ国とは、国交を開いてくれないことぐらい、私だって知っている。だから、こっそり買っているのだ。
詭弁でした。私が味噌汁とおむすびが食べたいと言いました。
私は雪ちゃんがいるから結局特権階級かも?
私は言い訳をしながら、早くシドル連邦と国交を開こうと誓った。
『ズッド――――――――――――――ン』
まだ残っている食事の上に人が降ってきた。
「まっ、松茸が――――――」
雪ちゃんの顔が険しくなり、私を後ろに隠す。
「コノヤロ――――――――」
私は雪ちゃんが怒鳴る声を初めて聞いた。
空から落ちてきて生きているのが不思議だが、その人は羽を生やしていた。その白い羽は半分魚の骨のようになっていた。しかも体の一部は腐敗している。手、足、顔、服を着ているけど多分体も腐敗している。かなり臭うから、人間であればすでに致死している。
「お前は!!」
雪ちゃんは目前の天使を警戒している。この天使は、天使の里の長老より魔力値が高く、とても危険らしい。でも、私にはただの病人にしか見えない。
「これは天使のみが罹患する流行性天使病です。一般的には『天使病』と呼ばれています」
「だったら雪ちゃんはすぐ離れなければいけないのでは?」
「いいえ、私は反転による天使なので、少し抵抗力があります。ただ、長時間接触していると私も罹患します」
「だったら、この天使をどうしようか?」
「人間には感染りませんから、このまま放置するのが最善策です」
「う~ん。かわいそうな気がする。どうしようか~? やっぱり放ることはできないわ」
「わかりました。ララ様ならばそう言うと思いました」
「それで、この人は治せるの? 天使だから『最高難度回復魔法超グレートエクストラヒール』は使えると思うけど、それでも腐敗しているということは、魔素過多病と同じ種類の病気ね」
「この天使は相当重体のようです。このまま放置すればあと2,3日で息絶えるでしょう。ここまで重体ですと、私の知っている天使の里にある世界樹の葉であれば100枚程度、太さ2センチ程度の幹が3本程度ないと治らないでしょう」
「そんなに必要なの?」
「はい、この天使の天使病は相当長い期間を経過しています。たぶん世界樹の枯れ葉を少しずつ飲んでいたのでしょう」
「それは、中途半端な治療をしていたからなのね」
「この者も、罹患初期であれば、世界樹の葉1枚で効いたのですが、天使の里にはありませんから、この者は天使界から捨てられ、下界を彷徨い世界樹の葉を探していたのでしょう。そして力尽き落ちた」
「私が抱えて迷宮ダンジョン9階層に運ぶから、雪ちゃんは早く行って準備をしてくれない?」
「いけません。こやつは、治った途端に、世界樹の葉の場所を天使共に連絡します。それに全快したこやつは私と互角、ララ様と楓様より遥かに強い」
「だったら話してみるわ」
「あとで裏切るかもしれません」
「そんなこと言ったら誰も信じられないわ。それにやっぱりこんな姿かわいそうよ」
「わかりました。それでしたら、最低限この者を拘束させていただきます。私の窓浮かばんの中にに、天使のみ拘束できるアイテムがあります。どんな強い天使でも拘束できます。それを使わせていただきます。サタン野郎が最も強かったときに作ったものです」
「それぐらい認めるわ。急いで行きましょう」
雪ちゃんは迷宮ダンジョンに転移した。私と楓は後片付けをし、天使を雪ちゃんのアイテムで拘束した。
「悪いけど、服が汚れるから、シーツで包むよ」
天使は気を失っているから返事をしない。私は天使を抱え、楓の転移魔法で運んでもらう。




