世界一小さな国家樹立②
~◇◇翌日◇◇~
前文明時代の遺跡が首都ウーベで発見され、前文明人が奉納に使ったミスリル像を、全部溶かして剣を作ったと発表し、製作した剣の総数は発表しない。それぞれの想像にまかせる。ミスリルは希少金属だから、世間の常識はそんなに大きな像が発見されたとは考えにくい。
首都に勤務する文官80人には、型に入れたミスリル短剣、首都警備隊300人には型に入れた剣、少佐以上の者には階級が上がるごとに、剣の大きさが1センチ長くなるように差をつけた。西洋剣のように大きいから、1センチ長くなってもミスリルの消費が多い。みんな早く昇進してね。ミスリルが溢れているのよ。
ミスリル剣は型に入れて作ったものでも日本刀並の強度がある。軽くて強いから女性には人気がある。日本刀も遊び半分で作ってみたが、雪ちゃんには少し軽すぎるようだ。オリハルコンやアダマンタイトがあれば、もっと重量があって強い日本刀が作れるのだけど、いつか国力をつけて輸入し、雪ちゃんに日頃のお礼として渡したい。
自分用には日本刀と同じく鍛錬焼き入れしている。同じミスリル剣でも私の剣は粘りと強度がある。私の専属秘書三人にはお世話になっているから、これを渡したら喜ぶはずだ。そう思うと腕を振る拳にも力が入る。明日の授与式までには間に合わせる。
授与式を終えた私は、在庫処分ができたことでホットしている。まだ迷宮ダンジョンには山のように積んであるのよね。エルフの族長から早く片付けてくれと、矢のような催促がきている。毎日のように、10階層で野菜を作っているご婦人に、私がいつ来るのかと聞いている。
迷宮ダンジョンで採掘され、山積みになっているミスリルを、専用に作った保管バッグに収納したら満杯になってしまった。
これで族長から矢のような催促はこなくなる。ミスリルを掘るのをしばらく止めてくれと頼んだけど、それは無理だと言われてしまった。10階層が発見され、そこに今は人が住んでいるが、とりあえず家屋はある。どのみち人間は100年程度で死ぬから、子孫は10階層で育てるつもりのようだ。人間がいなくなったら子孫をもっと増やすのだと……。私と楓が死ぬことを前提に計算している。私と楓がいなくなれば、転移魔法を使う者はいなくなるから、来訪者は来ないと踏んでいる。そういう計算だけは早い。そううまくいくかしら……。
そろそろ健全な家族計画を、楓教の始祖となった『楓』から、神のお告げとして、話してもらおう。この調子でいくと、ねずみ算のように増えるから100年後には、人口過密状態になる。毎年100人生まれるとして20年後にその子たちが成人すると考えると、おぞましい人数になる。働かないし、地上では役に立たず、このダンジョンでしか暮らせないエルフだし、寿命は500年とも1,000年とも言われている。
これから開墾しても、このダンジョンだけで、用意できる食糧は3,000人分だと思う。だけどエルフは開墾などしないから間違いなく飢える。今年だけで108人も出産している。ユキちゃんが去勢すればいいと言ったから、楓もその気になっている。
せっかくエルフのために開発した薄々の避妊具も煩わしい、感度が悪い、と言って使わない。楓のお告げを聞かなかったら、去勢か、間引きか、の選択をしてもらおう。間引きは魔獣のいる森に行くことになる。
エルフは長生きだからそこも考えて欲しい。エルフも楓の言うことだったら聞くようだから、楓にはぜひお告げをしてほしい。そうしないと去勢で済めばいいが、エルフの間引きをするかもしれない。あの子は怒ると、やる子。いや笑って間引きするわ。早くしないとエルフが楓に大量間引きされてしまう。真っ先に間引きされるのは長老だろう。
あら? どうしたの? もう授与式というミスリル在庫一掃処分は終わったのだから、さっさと持ち場に帰っていいよ。
で、どうして? みんな涙を流しているの?
私の秘書セレス、リゼ、ソフィアにはそれぞれ違う形の短剣を渡している。今の私の技術でできる精一杯のものだ。鍛錬焼き入れした逸品だから、軍人に渡した型取りした大きいだけのミスリル剣とは大違いだ。この短剣で軍人の型入れミスリル剣を切断することができる。
マゴイ准将とフルット大佐、ゲラルト大佐、ビル中佐の4人は抱き合って喜んでいる。あの4人、仲が良かったんだ。コミケ少佐は片隅で一人ニンマリ喜んでいる。
あら?剣を抜いて長さの比較をしている。ゴニョゴニョ話しているけど、型に流したのだから長さも重さも一緒だよ。
日本刀と違って、この世界の剣は西洋剣のように大きく太いから、ミスリルの消費量が多い。私的には助かっている。
フルット大佐とゲラルト大佐が剣の長さを比べて、少し悔しがっている。
マゴイ准将が二人の前に自分の剣を重ねて、1センチ長いことを自慢している。
ビル・メモリス中佐はただただ喜んでいる。
ホーリー・サテン中佐は泡を吹いている。楓があちこちで泡を吹いている者に、ヒールをかけている。
セレスたちもゴニョゴニョ話しているが、少し青い顔をしている。
なぜか、最初は大喜びだったのに、みんな顔色が青くなっているよ。疲れたのなら今日は早く帰っていいよ。警備は『大和』にやらせるから。
△△△
「ねえ、リゼ10%配合というのに、剣がガラスのように輝いているし、鉄が90%にしては軽すぎるわ」
「私、加工前のミスリルの塊5グラムを見たことあるけど、それよりも透明度があるわよ」
「ソフィアも、やっぱりそう思う?銀はこんなに軽くて輝かないし、こんなに硬くない」
「セレスも気づいた?」
3人が顔を見合わせて言った。
「「「これ、絶対100%ミスリルよ」」」
セレスがすぐに計算をした。
「この短剣の原料だけで1本で金貨200枚(日本円にして200万円)、これに鍛冶料を加えたら金貨300枚(300万円)はするわよ」
「「「これ、何の罰ゲーム?」」」
3人は思わずその場にへたり込んだ。
彼女たちの携帯している短剣は高くても金貨1枚、安い物だったら銀貨1枚で手に入る。
楓がヒールを掛けまくっている。忙しい。
△△△
おいおい、フルット大佐、ゲラルト大佐、ララ女王様から頂いた剣の長さを比較するのは止めた方がいいぞ。みっともない。まあ俺の剣の方が大佐より長いらしいからな。早く上って来い」
「おい、マゴイ、俺とフルットが比べていたのは長さじゃない。それにお前と俺の長さの差は5ミリだ。お前は少将になれなかった中途半端な准将だからな。問題はこの剣の軽さと銀よりも輝く透明感だ。お前も抜いて俺たちの剣と比較してみろ」
「どうしても見たいの? そう。見たいのか?」
「早く抜け!俺もフルットも長さは気にするが、そこじゃない!」
「ギェ――――――! こ、これは」
「バカ!!声が大きい!!」
「フルット、すまん。これは軽い。おいおいこれはミスリルそのものだぞ。俺はミスリル60%製の医療用メスを見たことがある。それよりも絶対に純度は高いし軽いぞ。俺の顔が映るほど透明感ある輝きだ」
「私は、この剣を風呂に入るときも帯刀します。家宝にします。ララ女王様の犬になりますワン」
「おいおい、ビル中佐が狂ったぞ」
「マゴイ、お前の剣がこの中では一番高いぞ。ビルの剣だったら金貨1,300枚(1,300万円)だ。狂いもするぞ」
「俺とゲラルトのだって金貨1,600枚だ(1,600万円)
「お前のなんか値段をつけたら金貨1,800枚(1,800万円)だが、そんな剣など実践用だったらこの世に存在しないぞ」
「そうだな。遺跡から出たといはいえ、全部使ったらしいぞ。退職時は返還義務があると書いてある。
あと何本在庫があるのかわからないから、警備隊を退職する者は現れないだろうし、こりゃあ昇進争いが苛烈になるぞ。俺もがんばって大将になってもいいかな」
△△△
~その他大勢の軍人~
「10%配合でも貴重なのに、これは、ミスリルを見たことがない俺でも分かるぞ。絶対全部ミスリルだぞ。こんな軽くて切れ味のいい鉄なんてありえない。これじゃあ24時間手から放せない。俺はこれから寝ることができない。どうしよう?」
「あわわわわわわわわわ…………」
△△△
~文官たち~
「これララ女王様の手作りらしいよ。首都では護身用に使うこともないから、ミスリルは10%しか配合していないので、りんごの皮むきにでも使ってね。と言われて今朝出勤したら渡されたのよ。
ララ様が全員に配られた鑑定書にはミスリル配合10%と記載されているけど、絶対これ全部ミスリルよ。どこのアホが、ミスリル剣でりんごの皮を剥くのよ。教えて!! いいこと、ララ様がこうして10%と記載しているのだから、みんないいわね。これは、何が何でも10%配合で押し通すのよ」
そこで一人の文官が呟いた。
「あの~ミスリル10%配合でも、たぶん1本金貨30枚(30万円)はしますよ。それでもりんごの皮はむきませんよね~」
首都警備隊の所有している剣には、10%ミスリルを含んだものを与えられている。と噂になった。軍人のうち下士官以下の者は、首都警備隊に配属されるよう、あの手この手を使った。
ちなみに、ミスリルが10%含有された剣は加工賃込みで1本金貨130枚(130万円)になる。それでも大金だ。
隣地を支配するジョバリ・バッセ大将は10%配合のミスリル剣を配るという嘘を流して、自国の兵士の逃亡を企てるラカユ国を、苦々しく思っていた。
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