悪魔四天王に遭遇
「お姉ちゃん、10階層に行こうよ」
「ええ、でも実際は9階層が10階層だったのでは?」
「違うよ、あれは8階層の続きを塞いだのだから8階層よ。無理矢理こじつけると8階層バージョン2。少し長いかな。私は下に2つあると言ったよね。場所が確認できるから転移できるよ。9階層と10階層は秘密の転移陣で繋がっているから、あのエロエルフたちと会うこともないよ」
「そうなのね。よくわかったわね」
「だって、お姉ちゃんには見えないかもしれないけど、壁に説明書きがあるもの」
「それだったら行くわ」
楓は私の手をつなぎ、特殊転移魔法で見たことのない10階層に到達した。
そこは魔物のいない静寂な空間だった。
魔物がいない代わりに、人が入るほど堅牢で大きく透明な箱があった。その場所一帯だけは明るく、輝いていたから目立った。
箱の中には人がいた。身長は150センチ位だろう。銀髪は足下まで伸び、金色の瞳はどこまでも美しく、褐色の顔は健康的で美しい。背中には黒い羽が見える。普通に判断すればこれは、角がないから吸血鬼だろう。
箱の厚さは1センチ程度と推測できたが、破壊できなかった。私と楓が交互に使える魔法の種類を変えながら破壊を試みたが罅すら入らない。私が転移魔法でつれ出そうにも箱の中に転移ポイントを作れなかった。
楓が『私だったらできるかも?』と言って特殊転移魔法を展開すると中に入いれた。楓の特殊転移魔法と私の使う転移魔法とは根本的な違いがある。私もコピーした特殊転移魔法を使うと中に入ることができた。これからは私も魔力消費もない特殊転移魔法を使うことにした。特種転移魔法は魔力は必要ないが、体力が必要になる。
箱の中は過ごしやすく、外で見るより狭くなかった。彼女は冷たくなく、人間のそれと同じだった。悪魔か吸血鬼か、判断はつかない?
それでもこんな寂しい場所で、一人閉じ込めてられている人は助けたい。
「最高難度回復魔法『超グレートエクストラヒール』
私の魔力がどんどん吸われる。やばい。魔力が枯渇しそうだ。
そう思ったとき、彼女はゆっくりと目を開け、私を見た。
「『ご主人様』起こして頂きありがとうございます。何をお望みですか? 眠っていた期間が短いので、願いは一つまでですが、ご主人様の願いを叶えます。これは太古から絶対的にしなければならない決まり事です。そうしないと私は二度と、生を得ることなく灰になってしまいます。何なりと、申し付けてください」
「私は何も欲しいものはないわ。あなたが健やかで幸せなら、それでいいわ」
「はい、承知しました。ご主人様の願いを叶えます」
「えっ?」
「私は前のご主人様から千年後に目が覚めたら、この世を破壊するよう命令を受けていました。本来目覚めるのはもう500年先なのですが、もし早く目覚めたときは、そのときは緊急のことだから、これまでの命令をすべてキャンセルし、新たな命令を未来永劫実行するように言われています。それに非常事態に出た新たな命令は、前のご主人様もキャンセルできないようになっています」
「そうなのね」
「そうです。それでご主人様が新たな命令をしました。『私が健やかで幸せにするように』という命令を受託しました。
私はこれまで何度も何度も、前のご主人様が目覚める1月前に、目を覚ますようにセットされ、前のご主人様が統治しやすいように、悪魔四天王として破壊の限りを尽くしました。前のご主人様の目が覚めると、魔力の木の果実を食され、それでも魔力が足らないと、私たち四天王の魔力を吸収することで、完全復活され、1,000年君臨され、また次の1,000年を眠りにつかれます。これまで限りないほど繰り返してきました。魔力の大半を失った私たち四天王は実力を発揮できず、やっと回復しても、また取られるの繰り返しでした」
「大変だったのね。その前のご主人様は酷い人よね。あなたに全責任を押しつけて、さらにあなたの魔力を奪うなんて。あなたは何十万年も生存しながら、いつも1月しかまともな状態で、生きて過ごすことができなかったのね。これからは好きなように生きなさい」
「はい、さきほどの続きですね。承知しました。『私が健やかで幸せに、好きなように生きます』」
「そうしてね。破壊の限りを尽くすのはよくないわ。天使のように幸せになってね」
「はい、もう破壊を繰り返すのは辛いです。これからは、天使のように、ご主人様の専属メイドとして生きたいと願います」
『じゃあ、神様にお願いしてみようか? できるなら彼女を天使にしてください』
どこからか、声がしたが、最初の部分を聞き漏らした。
<<<<<『?の卵?』あなたの願いは正式に受理されました。その者を魔族から天使族に反転します。>>>>>
彼女の褐色の顔は、白く薄いピンクに変り、角は元々なかったが、エルフのように長く尖った耳は人と同じく丸くなり、黒い羽は白く変化した。そして黒いドレスも白く変化した。足下まで伸びた銀髪は背中で止まり、金色の瞳は以前より薄く透き通っていた。厳つさが消えて、いかにも天使らしい。元々美人だが、さらに磨かれて神々しい美人さんだ。
「嬉しい。私はもうなれないと思っていた天使族になれました。生まれ変わったので、どうか新しい名前をください。以前の名前は捨てます」
「ところで前の名は?」
「もう言いたくありませんが、エキドナと前のご主人様から名付けられました」
「思い出したくなかったのに無理言ってごめんね。だったら白くなったから『ユキ』ちゃん、でいいかな」
「とても嬉しいです。これからは『ユキ』と申しつけてください」
「ところで前のご主人様の名は聞いてもいい?」
「思い出すだけで頭にきますが、糞『サタン』野郎です。命令だけをする馬鹿でクソ野郎です。兄弟で一番弱いくせに、特殊スキルがあるだけで、いつも威張っているのです。
ああ、これだけ言っても、頭痛もなく、身体も痺れません。何も体への負担がありません。完全にサタン野郎の支配が外れたようです。嬉しい」
「そ、そう、クソ野郎なのですね。私でよかったら、ちょうど専属メイドのミミが、私の前婚約者のクソ野郎のものになったから、専属メイドが欲しかったのよ。ちょうどよかったわ」
ユキちゃんは、まだ、少しぶつぶつ言っている。
「あのサタン野郎、今度会ったらボコボコにしてやる。何度も魔力を奪うのに、最後には生身の私の体を食いやがって、頭さえあれば、また再生すると言っても、痛いんだからね。あの能力さえなかったら、あの程度のサタンは私でも勝てるのに、あれを破ることができるのは勇者だけだから。でも勇者はサタンの復活と同時期でないと出てこない。もしかして私が復活したということは、サタンも復活? ということは、勇者も復活?」
「私も、ユキちゃんと仲良くしたいなぁ」
「あなた様は?」
「私は、お姉ちゃんの妹で『楓』と言うのよ。よろしくね」
「はい、『かえで』様ですね。よろしくお願いします」
見た目は私と同じ身長152センチ位の美少女は、白い羽を消すと、ドレスを白いメイド服にチェンジした。
「では、ここを出て、どこに行きましょうか」
「だったら、『雄叫びの森』に行きましょう」
「私たちが連れて行くわよ」
「いいえ、ご主人様にそんなことはさせられません。どの場所かイメージしていただけますか?」
「そうね。まあ、あそこよ」
「ここでしょうか?」
「嘘―――――!!! 小屋の風呂場よ」
「はい、ここをイメージされていましたよね」
「汚れたから、ここのお風呂に入りたいと思ったわ。すごいわね。だったらついでにみんなで一緒に入りましょうか?」
ユキちゃんは、小さな風呂を一度消し、大きな風呂を造り、水を魔法で出しながら火炎魔法で沸騰させ、わずか数十秒でお風呂を満杯にした。
初めて会ったのに三人は本当の姉妹のように体を洗い合った。
風呂から上がるとユキちゃんは、夕食のことを聞いてきた。
「食事はどうしますか?」
「ユキちゃんは何がいいの?」
「好き嫌いはありません。何でもいけます」
「だったら、焼肉でもしましょうか」
「では、少々お待ちください」
ユキちゃんは外に出ると10分程度で、すでにカットした野豚と山菜を手に持ち、お風呂を造ったように、外に土魔法と金属魔法で調理台を造ると、魔道カバンから網を出し、そのまま肉と山菜を焼き始めた。
「ねえ、ユキちゃん。あの短時間で血抜きしてから肉をカットし、山菜まで取ってきたの?」
「申し訳ありません。まだ本調子ではないので、時間が掛かってしまいました。次からはもっと早くできるように努力いたします」
「そんなに急がなくていいわ。十分早いから。それにこのタレは何? すごく美味しいわ」
「これは、山野菜と山果実をミックスしたものです」
「楓もこんな美味しいものを食べたのは初めてよ。もう絶対どこかに行ったら駄目だからね」
「はい、どんなことがあっても離れません」
「楓うれしい」
「私もこんなに褒めてもらったことがないので、嬉しいです」
「ユキちゃんは、そこにある果実を知っている?」
「これですか。これは『サタンの木の果実』ですね。人間界では『魔力の木の果実』ともいいます。ご主人様は食べられて、楓様は食べた者から引きちぎられたようですね」
「そこまで分かるのね。すごいわ」
「はい、それにあと3個残っています。あと一人ララ様の信用する者がいて、全員揃いましたらいただきましょう。ララ様は食べても魔力値は増えませんが、限界値の蓋があるようですから、それを取り払うのに使えます」
「? ユキちゃんの言っている意味がわからないけど、3人という意味ならば、ここに3人いるけど?」
「『魔力の木の果実』は人と悪魔に効果がありますが、天使となった私には効果がありませんし、もう必要ありません。天界から直接反転されたため、神の力を直接いただいたことで、悪魔だった頃の数十倍、天使だった頃の数倍の魔力が増えています」
「そうなの?」
「ここに張ってある結界は、暖かいですね。水色がご主人様で、緑色が楓さまですね」
「私のことはララでいいわ」
「はい、ではララ様とお呼びします」
「様はいらないけど、ユキちゃんが、そうしたいのならば、それでいいわ」
「結界を見る限り楓様の結界より、ララ様の結界のほうが強いですね」
「よくわかるわね。この結界で大丈夫かな?」
「人間ならばよほどのことがなければ大丈夫ですが、魔族だったら、小指で破壊されます」
「そうなのね、自信なくしたわ」
「私が結界を被せておきましょうか」
「お願いしていい?」
「では、張りますね」
私たちには白い結界に見えた。他の者が見ても透明だから見えない。
「お姉ちゃんも、ユキちゃんもお家に帰ろうよ」
「はい、今イメージされた場所ですね。わかりました」
「楓、どこをイメージしたの? もしかしてウラベル様宅のトイレ?」
「だって、早くトイレ行きたかったんだもん」
3人がトイレから出ると、使用人が「ギャ――――――!!」と叫び、事の詳細は隠しつつ、新しいメイドを探しに行っていたと、ウラベル様や報告会最中の関係者に説明することになった。ユキちゃんの正体と能力のことは言わない。何処にスパイがいるかわからない。




