それぞれの思い
ララは孤児院でも男の子の格好をし、言葉使いも男の子のように振る舞った。
それは……。
ミリトリア王国のその貴族は悪魔のような男だった。そして息子も同じだった。
戦争孤児だったララを捕らえ、慰み者にしようとしていたが、ガザール国の軍隊が侵攻してきた。これが第4次ミリトリア・ガザール国境紛争の始まりだ。ガザール国軍の兵士はその貴族を殺し、ララたち孤児を解放した。
投獄されていた者たちは敵であるガザール国軍に助けられた。そして悪趣味な貴族がいることを知った幼子は、男の子として生きることを決めた。長い金髪を短く刈り上げ、スカートは半ズボンに穿き替えた。
ジーニアがそれを聞いたときには、怒りでその貴族を滅ぼしてやろうとしたが、その貴族はすでに滅んでいたからどうにもできなかった。
甘やかされ、自分の気に入らない使用人を鞭打っていた子息がいたが……行方不明になっていた。
ララもその子息から背中がミミズ腫れになるまで鞭を打たれたが、息子は姑息にも仮面をしていたため、顔は分からなかった。ただ、声だけは忘れない。そいつはララを足で踏みつけながら、気持ち悪い声で叫んでいた。
「ヒヒヒヒヒヒ、フェッフェフェ、叫べ、嘆け、許しを請え、俺に跪け、俺はお前のような虫けらをいつでも殺せるんだぞ。フェッフェフェ……俺は世界の王になる。選ばれし者だ。
俺は世界を統べる者『ビリー・ラクソン・ジュニア』だ」
△△△
我の名は『ステンノー』、名字はない。これまでずっと『ステンノー』としか呼ばれていない。名字など人間が作ったものだ。我らには必要ない。
くそったれシスターのやつめ。よくも奴隷商に売ろうとしたな。我は馬車が横転するまで、自分のことを完璧に忘れていた。やつにまた力を奪われて顎で使われるのは、もうご免だ。
我は眠っていた古い教会の解体で起こされた。これまで過去にこんなにも早く起きたことはなかった。もしかしたら我が復活したということは、サタンも復活するかもしれない。あー怖い。
さすがに、腹が減ってしまった。だが復活したばかりで、着ていたものは風化していたから、解体場にあったカーテンの端切れを纏っている。こんなみすぼらしい姿の我に、食い物をくれる者は誰一人いなかった。ここには我のようにみすぼらしい子供が多すぎる。もう水だけでは力が入らない。
教会のシスターが馬車に乗ったら、食べ物をくれると言った。だから乗ったのだけど、いきなり猿轡をされた。いつもならこんなやつは造作なく始末できるのだが、目覚めたばかりで、しかも腹が減って力が全く出ない。
「くっそー!!」
馬車が倒れ、我は放り出された。他の子も放り出されたが、怪我はしていないようだ。これで安心して逃げることができる。もしあの子たちが捕まったら、我のことがサタンに身バレする可能性がある。
まだ魔力はカスカスだが、シスターの持っていた堅パンを食べたから、魔力がほんの少し回復した。それにしても、こんなまずいパンで我を釣るなど許せん。
不味い。不味いが、無いよりはましだ。
あの子たちが捕まったら、山賊が追いかけて来る可能性があるから、他の子の記憶から我を消すことにした。
だが、まだ本調子でないせいか、完璧にあの子たちの記憶から我を消すことができなかった。特にララと呼ばれた子には全く効果がなかった。あの子はもしかしたらすごい能力の持ち主かもしれない。将来が楽しみだ。でも、ララにはすでに死相がでている。治してあげたいが、今の我では魔力がカスカスでそれはできない。山賊から逃れても、あの子が成人するまで生きることはないだろう。
あの子たちには悪いが、我はこの国から離れるから助けるわけにはいかない。我が目覚めたということは、やつも目覚める可能性がある。やつの目の届かないところまで逃げるか、やつに逆らえる力を身につけるか、とにかく今は逃げる。
力はまだ戻っていないが、そのうち戻るだろう。それまではミリトリア王国から離れて、隣国の無法地帯で荒くれ者を纏めて要塞でも造ることにしよう。
「あばよ……くたばれミリトリア王国!!」
「我はステンノー、悪魔四天王エギドナ姉さんの妹分だ」
△△△
妹のジーニアは私より強い。それでもある時期までは二人の力は拮抗していた。だが、急に差がついた。同じ最上級火炎魔法でも私の威力の数倍ある。きっと何かがあったはずだ。妹に何度も聞いたがその秘密を話さなかった。
私はどうしてもジーニアに勝ちたかった。だから魔族とも交ざった。ああ、そりゃあ魔族は気持ち悪かったよ。だが、慣れとは恐ろしいもので、そのうち平気になった。
ところが魔族は契約主との契約が切れて魔界に帰った。そのときはもう子供を下ろせない状態になっていた。悪魔の子は人の子と違い、2ヶ月で生まれた。あのときはどういうわけか悪魔との子であっても、母性本能が生まれたから育てたよ。
その子は1年で成人した。それからは性格が悪魔に似てきたから捨てた。だが交わった相手が低級魔族だったため、悪魔の力を手に入れても、ジーニアにはまだ遠く及ばなかった。
それから数十年間妹と同じ幻影の魔女として、所属する国の命令に従い、敵国の兵士を抹殺してきた。それもこれも魔力を増やすためだ。だが魔力が増える兆しも見えず、同じ場所にいても、もう力が増えることはない。
だから妹と別れ世界中を旅した。
しかし、どこに行っても魔力を増やす方法は発見できなかった。魔物を生で食べる方法もあると聞いたが、副作用でまもなく魔物化することがわかり、選択肢からは除外した。
2度目の交尾のその日、交尾を終わった高位の魔族から面白い話を聞いた。それは『サタンの木の果実』を見つけることができ、果実を食べ運がよければ魔力も増え、魔法種も最高難度が手に入る。ただし失敗すれば悪魔の木になってしまうという。
サタンの木は、人間界では魔力の木と呼ばれているらしい。
いい話だったが、魔族はその所在までは知らなかった。
愛する息子とは、周囲には分からないように、定期的に会っていたが、その話を聞き、ミリトリア王国に帰国した私は、もしかしたら妹はその『サタンの木の果実』を食べたのではないかと直感した。だから、秘書のモニカにジーニアの居場所を聞いた。
ジーニアは『雄叫びの森』で人生の幕を下ろす気らしい。ということは、そこが一番怪しい。
あった! あれほど探した『サタンの木の果実』がこんな近くにあった。数十個も生っているのに,わざわざ小屋の周囲を結界で,囲んであるのが証拠だ。一度も勝てなかったジーニアにこれで勝てる。
魔族はこの果実を食べても悪魔の木にならないらしい。だが、人間にとってはロシアンルーレットのようなもので運がよければ魔力が最高難度となり、魔法種も増える。
運がわるければ人魚の木となり、雄叫びの森の木と同じく,赤い網目の果実を生む人魚の木と成り果てる。そう聞いたが、私は悪魔と交わったから、自信は無いが、大丈夫だろう。いや、きっと大丈夫だ。このままでは死んだも同然だ。妹に勝てるならば一度は試してみる価値がある。
ジーニアは若返っていないが、私は若返っている。魔族と交わったことで記憶継承スキルが手に入った。いくら若返っても、ジーニアのように記憶を喪失することはない。『サタンの木の果実』を食べなくてもジーニアが若返らなければ、25歳と100歳の戦いだから、体力で私が負けることはない。だが、もしジーニアが若返ったら、私が敗北する。
しかし私の目の前には、2度目に交わった悪魔四天王の一人ガルジベスから聞いた『サタンの木の果実、別名魔力の木の果実』がこれでもかと実っている。これでジーニアは詰みだ。
ガルジベスは人間が魔族と交わる回数を重ねると魔族化することも教えてくれた。そういえば最近知らない声が聞こえることがあった。ガルジベスは魔族化の進行を防ぐ方法も教えてくれた。それは若くならないこと。特に十代には絶対にならないこと。人間の十代は成長期のため魔族化が促進されるらしい。
人間が『サタンの木の果実』を食べたら睡魔が襲うらしいが、悪魔の木にならずに済んだし、全く眠くならない。ガルジベスが言うには悪魔は眠くならないが、人間は眠くなるらしい。私は人間だが、眠くならなかった。きっと神が私に味方したのだ。
『魔力の木(サタンの木)』の果実は甘くて美味しいではないか。2つ目が欲しいが、ガルシベスから2個目は食べるなと言われていた。2個目を食べるには完全な悪魔体になるか、魔力値が最低でも10万以上ないと、魔力暴走に体が耐えられず、その場で悪魔の木になってしまうらしい。とてもじゃないが、人間の私にはそんな無謀な冒険は無理だ。
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