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合従軍②

 最高軍事顧問ウラベルの放っていた密偵が、合従軍は二手に分かれたと報告した。


「ふっふっふ。これでますます作戦の成功する確率が上がった」


 幻影の魔女は、当初の作戦を変更し、ザバンチ王国から二手に分かれた合従軍が最も離れる今日を実行日にした。



「先ほどの打ち合わせ通り実行するからね。この作戦は時間との勝負よ。今回は特に楓の役割が重要よ。対象者の顔と特徴を頭に入れた?」


「はい、お姉ちゃん、バッチリです」


「そう、それは頼もしいわ。流石(さすが)私の妹」




△△△

 ザバンチ王国の森を抜け、ミリトリア王国まであと数キロとなり、二手に分かれたブルセルツ皇国軍の上層部は、ミリトリア王国軍は国境地帯に集結しているが、その総数は4万人出、その半数の2万人がブルセルツ皇国軍を待ち構えていると報告を受けていた。残り1万人が王都を守っている。ブルセルツ皇国軍は7万人の大軍だったから、既に勝利を確信していた。


 親衛隊隊長ジョゼフの格好は目立っていた。誰もがジョゼフの強力な能力を知っていたし、安心していた。教皇を守るジョゼフは、ミリトリア王国との戦闘については、何も考えていなかった。思考は、戦後に与えられる一国の国名を、ジョゼフ王国にするか、ジョゼフ皇国にするのか、ジョゼフ帝国にするのかで迷っていた。



「プシュッ!!」


「誰だ――――――――――!! ゲフッ!」



 あれ? 俺の胴体がない?


 突然ジョゼフの背中に現れた美少女ララは、ウインドカッターでジョゼフの首を()ねた。


 それは一瞬のできごとだった。親衛隊隊員は教皇を守るため周囲を警戒し、絶対的強者であるジョゼフのことを見ていなかった。そのため突然現れ、突然消えたララのことを視認することができなかった。



 幻影の魔女と真司は、ジョゼフのすぐ近くにいた教皇と、ヤコブを見つけると、真司は筆頭司ヤコブの首を日本刀で、幻影の魔女ジーニュアも、新たに手に入れた水魔法による水圧カッターで教皇の首を刎ねた。


 一瞬のできごとだった。あまりにも一瞬でほとんどの者が見てなかった。馬車はしばらくそのまま動き続け、馬車から血だまりが流れていたことで護衛たちは初めて気づいた。


 同時に殺された親衛隊長ジョゼフを見た親衛隊隊員は、すでに恐怖で動くことができなかった。


 一瞬でブルセルツ皇国軍を支える3人が同時に暗殺された。


 ブルセルツ皇国教皇と異世界人ジョゼフ、それに筆頭司祭のヤコブの暗殺を終わらせた幻影の魔女一行は、自宅に戻っていた。近接戦だったため返り血を浴びたから血の臭いがした。


 次の作戦においては、勇者の能力が不明であるため、もし勇者が臭いに敏感であれば、気づかれ、作戦は失敗する。こちらはあくまでも侵略される弱者なのだ。卑怯(ひきょう)もクソもない。何が何でも生き延びなければならない。



 実は今回、幻影の魔女はせっかく、新たに手に入れたウインドカッターを使わなかった。水を薄く圧縮して刃物のようにして、水圧で教皇の首を刎ねた。


 真司が剣を出したとき、楓がウインドカッターの準備をしていた。楓は使えないはずなのに……。私は楓のもう一つの能力を知ってしまった。私もその能力をコピーしていた。真司は自分が首を刎ねたと思っているが、真司の刀より早く、楓のウインドカッターがジョゼフの首を刎ねていた。私以外そのことを知らない。


 私のコピー能力は、たとえば火炎魔法をコピーしようとしたら、火炎魔法を使っている現場を見なければならない。初級魔法を使っている者を見れば、初級魔法が使える。それから最上級まで上達するには、一般の者と同じように何年も訓練を積まなければならない。だから最初から最上級魔法を目にしてコピーするほうが効率はいい。


 お母様はウインドカッターが使えなくなったのかもしれない。私も楓の能力が使えるようになったから分かる。もう少し様子をみることにしよう。




△△△

 ~カルロッタ・ベックス教皇~


 ああ、ヤコブは運命の人だと思ったのだけどね。合従軍の親衛隊の中に、私のハートを(つか)んだ青年がいたのよね。ああ私の美貌(びぼう)が憎い。ちょっとおいでと、彼を手招きしたら、直立したまま、私のなすがままなのだから。そんなときまであれが直立しているなんて、最高よ。よほど私のことが好きみたいね。私も好きになったわ。


 だって、私のことが好き?と聞いたら、『勿論(もちろん)です』と本当のことを言うのだもの。


 最近、ヤコブは嘘をつくのよね。シスターたちとできているのに、私が一番というのよ。確かに若いシスターよりも、私の方が品もあり、美しいのだけど、たかだがシスターと私を比較したことが許せないのよ。最初から決まっている勝負なのに。


 え! どうして? なぜ幻影の魔女がここにいるの? 間者のモモンガが、幻影の魔女の似顔絵を描いてくれたけど随分若いわね。でもすぐに分かったわ。姿はまるで女学生ね。


 少し幼くなっているけど、間違いないわ。ミリトリア王国で転移魔法を使うのは、幻影の魔女一人ということは極秘に聞いていた。ただ、転移魔法というのは、そんなに便利ではない。


 ブルセルツ皇国にも5年前まで、転移魔法を使う者がいたが、転移距離は精々最長でも10メートルで、必ず一度転移先に、転移ポイントを置かなければならない。しかもその者の魔力に依存するため、転移ポイントは多くて3つまでとされている。当然動く相手を的確に把握する転移魔法はない。



 なのに、なぜ、突然現れた?


 なに? 目の前に見える(みにく)く、太った首から下がない死体は?

 あれほど醜い体をしていた本人を見てみたいわ。


 ああそうだった。あれは先程まで私が着ていた服だ。そうか、あれは私だったのね。あれほど醜かったの? どうりで誰も私に鏡を見せなかったはずだわ。私は鏡に写った自分の姿を信じないで、鏡を見せた者を処刑したもの。







△△△

 三人は王都の屋敷に戻ってきた。一瞬であったが全員が返り血を浴びている。すぐに湯浴みをする。


 匂いのする石けんは使えない。汗の臭いも危ない。気をつけすぎることはないのだ。当然服も日光に十分当てたものに着替える。香水などもってのほかだ。


「お母様、もう一度お風呂に入ってください。香水を付けましたね。それに13歳の容姿に香水はいりません」


「だって、いい男がいたときに困るだろ?」


「駄目です。もう一度、楓と一緒に入ってください。楓までマネして香水を付けましたからね。楓はお母様の子になることを選択したのですから、見本を見せてくださいよ」



「わ、わかったわよ――――――だ」



 楓は結局お母様の子になることを選択した。理由はあくまで私と姉妹でありたいからだ。楓的には私と同年代になったお母様は、母と呼べないらしい。ウラベル様は第二母という位置づけでもいいらしい。妹はウラベル様とは毎日一緒に寝ているのだから、名を捨て実を取った形だ。



「では『作戦その2』を行う。たとえ最速伝令鳩を使っていても、まだシドル連邦の最高指導者に、このことは伝わっていないはずだ。いくぞ!」


「はい、お母様」




「俺は早く片付けて帰る。メス猿二人は待たせると五月蠅いんだ」


「ふ~ん。真司は自分のことをオス猿と思ってないんだ」


「お母さん、真司にいちゃんを黙らせてくれないですか。真司にいちゃんがこんなにドスケベだと知らなかった」


「ああ、幼女の夢を壊した罪は重たい。作戦が終わったら、私が他の女に手を出せないよう絞り出そう」




「勇者はどんな能力を持っているかわからない。勇者の背中に転移するのは一緒だけど、先ほどとは違い、やや離れて、真司はレーザービーム砲を体に撃ち、ララはウインドカッターを首に放ち、幻影の魔女は臀部に爆裂火炎魔法を放った。それらは同時に行った。


 ララは一瞬、勇者の前に出てしまった。そのとき勇者と目が合った。そして勇者の能力がわかってしまった。一瞬のことだったが、どういうわけか、この人の念じていることが聞こえてしまった。残念ながら勇者の能力は、勇者が使う前だったのでコピーすることはできなかった。


 “”この金髪の少女は、俺のもう一つの能力である予言に出てきた子か。将来シドル連邦を助けてくれる日本からの転生者。そうか、俺を殺しにきたんだな。これも予言の通りだ。だったら目を合わせて俺の命令に従わせても、もう遅いか。俺の娘が金髪に染めていた頃を思い出した。俺は最後に娘のことを思い出せてよかった。

 そうだった。俺は何もいらなかったんだ。子供と家族の幸せだけを望んでいたんだ。生まれ変わったらまたお前たちと家族でありたい。今度は裁判官などやめて、普通のサラリーマンになって、休日は家族とショッピングしたり、旅行に出かけよう。ありがとう。金髪のお嬢ちゃん””



 勇者で、最高指導者で、元裁判官の山田五郎はとても弱かった。日本のお腹の出た中年50歳だった。あれであれば、魔法を使わなくても、最近短剣の使い方を覚えた8歳の『楓』で十分だ。


 そう思っていたが、後日、この作戦が唯一の手段であったことに気づいたのは、勇者の情報が入ってからだった。もし一人で向かっていたら……勇者の操り人形になっていた。


 でも、山田五郎さんは、本当はいい人だった。ただ、過去に盗られたものを取り戻しにきた。この人に先に会っていたら、私はたぶん、山田五郎さんに味方したかもしれない。




△△△

 ~勇者・山田五郎~


 俺はしがない裁判官だった。裁判官といえば司法試験に上位合格した勝ち組と思うだろうが、そんな甘いものではない。裁判官とはいえ、所詮(しょせん)公務員の一人、ただの雇われだ。


 国旗が星の軍人の裁判を軍事法廷ではなく、地方裁判所で行うことになった。それで地位協定の本当の壁を知った。


 退職も考えたが、今さら弁護士になっても、この弁護士だらけの世間では顧客もとれない。せいぜい儲からない国選弁護人か破産管財人だ。破産管財人は大手が倒産したときは、儲かる。だが、なりたてのヤメ判にそんな美味しい話がくるわけがない。これでは贅沢(ぜいたく)を覚えた家族を養えない。


 俺は異世界人召喚を受けた。召喚された途端、俺の頭に『あなたの能力は、予言とあなたと目をあわせた者は、あなたの命令に、服従することです。ただし、予言による運命は変更できません』と流れてきた。疑ったが、俺を召喚した廻りにいる者たちに使ってみた。


 すべての者に俺の命令は絶対だった。最高指導者さえ、俺の命令一つで、その場で辞任し、俺を後継者に指名した。この能力はチートだった。


 俺がハマった若き頃のゲームよりチートだ。俺と目さえ合えば、どんな攻撃能力を持っていようとも操ることができる。前もって命令を考えておけば、初めて会う者だって目があった瞬間に俺が念じればいいのだ。声を出す必要はない。いろいろ試したが魔物や動物には、効果がなかった。知性のある人間だけのようだ。


 ウッ!! あの教皇も(あやつ)るつもりだったが、あの女は危険だ。()めるように俺を見ている。目を合わせるのが怖い。俺が命令を念じるまでに殺されそうな気がする。俺の貞操があのデブの餌食になってしまう。


 まあいい、ミリトリア王国の植民地化が成功したら、筆頭司祭のヤコブと異世界人で親衛隊長のジョゼフを操ってデブ教皇を始末させよう。


 ヤコブが二手に分かれることを進言してきた。確かに二手に分かれた方がいい。最初から俺が言っていたことだ。先にブルセルツ皇国軍に王都を攻めさせ、両軍が疲弊したところでシドル連邦軍が両軍を叩く。すばらしい作戦だ。あのデブ教皇と一緒にいなくて済むし、俺の運がいよいよ昇り竜のごとく昇っているぞ。




「ウッ!!」


 首がチクッとした。どうしてだ? 首から下を正面から見ることになるとは……。


 俺の予言は外れることはない。それがいつ起こるのか分からない。これまでは頭に浮かんだ景色の周囲の状況で、だいたいの年月日を予測したが、たとえその日を特定しても運命は変えられなかった。

 馬に()られて亡くなる子供を事前に助けたが、その数分後に違う馬に蹴られて亡くなった。俺が見たのは違う馬に蹴られて亡くなった場面だった。



 ……金髪の少女が……娘は今頃どうしているだろうか。妻よ、先に行って待っている。寿命がくるまで楽しく生きてくれ。娘よ、お前は来なくていい、幸せに長生きしてくれ。




△△△

 ~幻影の魔女邸~


 祝勝記念パーティーが催された。それぞれ楽しそうだ。


「それでは、作戦成功と勝利を祝って、若輩者ですが、私クロード・オベルツが乾杯の音頭をとらせていただきます。では勝利を祝してカンパ~イ」


 ここには軍関係者と魔法省関係者のうちお(えら)方が出席している。招待状を出したわけではなく、勝手に来た人たちだ。



 生徒会長のお父さんが、13歳容姿の幻影の魔女に(から)んでいる。また下僕ゲームが始まるようだ。でもあの人、この国随一の作戦参謀なんだって。今回の作戦の青写真もあの人が描いたらしい。13歳のお母様はまるパクリの悪役令嬢状態。これまでもお母様が自分で決めたことは何一つないらしい。私以外の軍関係者は全員そのことを知っていたが、昔からまるパクリをしていたから、誰も文句を言わない。



 合従軍は勇者という頭を失い蜘蛛を散らすように帰国したらしい。帰国できたのは約3分の2の10万人、残りは進軍した国の盗賊から物資の略奪を受けていた。たぶんあの二国は、しばらく国内を落ち着かせるため、戦争どころではない。大陸統一の意思が他国に知られたからには、自国の防衛に専念しないと、国が滅びる。



 彼らが語るのは『幻影の魔女』が突然現れて、殺しまくったということ。


 どうも男ばかりの軍隊は、13歳のアンバランスなお母様の容姿に目が釘付けとなり、真司のことは全く目に入ってなかったらしい。しかも私と楓のことは存在さえも知られることはなかった。


 幻影の魔女は、25歳になったときにGカップだったが、20歳でも、13歳に若年化してもGカップだ。

 私の胸は13歳にしてはEだから大きい方だが、この国の女はみな大きい。真司が胸は大きいほうがいいと言ったらしい。あいつは嘘つきだ。胸のない幼女も大好きだ。


 ちなみに、真司は、運動不足のようで、帰宅するなり、幻影の魔女から筋力養成ギブス3号という貞操帯? を付けられていた。その日はノルマを達成しなかったらしい。

 どうもパーティー会場から抜け出して、軍部の若い女性将校数人といたしていたようだ。女性将校にしてみると強くてイケメンの真司は、(あこが)れの的のようだ。でも、その男食虫植物のようなやつですよ。


 パーティー会場でもリリア学園長は、学園に復帰することを意欲的に語っていたが、学園長が産後たとえ復帰しても、もう誰も学園長の朝礼のたびに話す『清い男女交際について』は聞く耳持ちませんよ。


 同じクラスの女生徒を招待したときも、生徒会の人たちを招待したときも、他のクラスの友達を招待したときも、上級生で仲のよくなった人たちも、みんな女性ですが、いつ訪問されても会食の間、止めどなく学園長と会長の猿の雄叫びが聞こえていました。まさか室内が雄叫びの森になるとは思いませんでした。


 でも、学園長と生徒会長の二人だけではないのよ。もう一人私に対抗している人が……どうして私の年齢まで若くしたのだろう。どうしてこうなってしまったのだろう。


 お母様の顔がどんどん青白くなっている。心配です。何かの病気でしょうか。


 それにしても、生徒会長のお父様は、勇者の能力も調べていたようで、そのことを他の人に言って動揺させず、的確に作戦を練った手腕は、雌猿の生徒会長とは大違いですよ。お父さんの下僕ゲームも許せるかも。


 いや、やっぱ無理だわ。だってお母さんが一度口に入れたお肉を欲しがって、チンチンしているもの。


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