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残った果実

「半魔の一掃はできなかったが、強い半魔は掃除できた。だが、まだ安心できない。これからも魔力の木の果実を狙う者がいるはずだ」


「お母様、では魔力限界値を上げることを目指し、日々の訓練カリキュラムを見直さないといけませんね?」


 私はこれまでもいろいろ工夫してみたが、一向に魔力限界値が上がらない。これ以上訓練を増やしてもたぶん無理だ。それよりも厳戒態勢を見直さないといけない。


「ララには他人の結界も見えるみたいだし、破壊されたときの感度も、私の数十倍ある。だから雄叫びの森の警戒レベルを上げ、もし一定の区域を越えて入り込む者がいたときには、二人で即座に、雄叫びの森に転移し、二人かがりで相手をする。決して単独で対処しない」


「では、私が小屋の周囲100メートルに、限界値を999に落とした魔法結界を張りましょう。これを破れば、強者ということになります」


「それはいい方法だ。小屋はさほど重要ではないから、1週間に一度結界の張り直しをしよう。どこかに穴が開いているかもしれない」


「はい、ではさっそく始めましょうか?」


 私は小屋の周囲に軽く魔法結界をかけ、お母様は小屋と魔力の木全体に、魔法結界を施した。もし悪魔本人だけでなく、アンデッドが結界を破ろうとするかもしれない。私は魔力の木の周囲に、私の魔法値限界まで魔法結界を施し、その結界をさらに囲むように光魔法と神聖魔法を施した。



 私の力任せの魔法結界が終わると、お母様が突然叫び声を上げた。


「『魔力の木』の果実が――――――――――!!!!」


 その声に驚き『魔力の木』の方を振り向くと……。


「あああ――――――!!!!」


 沢山あった果実が5つに減っていた。どういう訳か、果実が木の下に落ちていた。落ちているだけだったらいいのだが、その果実は腐ったように異臭がした。とても食べられたものではない。理由はわからないが、考えられるのは私の掛けた結界のせいかもしれない。


「悪魔を警戒し、神聖魔法と光魔法も一緒に混合したから人の体に悪い果実は落ちたのかも?」


「それならば残った果実は神聖魔法や光魔法に耐えたものだから体にいいかもしれない」

 そう言うとお母様は、不敵な笑いを浮かべ、残りの果実を1つ食べた。



「他の国の異世界人の魔力値が、私たちよりも高い場合、どのみち侵略される。そうであれば今、人魚の木になって死ぬか、近々殺されるかの違いだから、体にいい可能性があるのならば、私は食べるよ。もし私が人魚の木になったら焼いておくれ」



「嫌です。私も一緒に食べます」



「それは駄目だ。ララまで人魚の木になったら、私を焼く者がいなくなる。私はあんな奇怪な生き物になるのはごめんだ。もし私が人魚の木になったら、すぐに帰還してこのことを話し、真司の魔力を高めて、やつに食わしてくれ。だが、人魚の木になる気がしない」



「心配ですが、でも信じています」



「ああ、それでいい」




 30分ほど様子を見たが、幻影の魔女に変化はない。


 睡魔は?


「体に異変はないですか?」


「ああ、なんか、こう、高揚感がある。全く異常はない。今から魔力値を測定しよう」




 一晩寝ないと増えないのでは?



 小屋に用意している新5桁魔力測定器で、お母様は魔力値を測定した。27,332を表示していた。それに防御魔法と風魔法が追加されていたが、どちらもララには見せていない。


 幻影の魔女は本音で言えば悔しがった。それは果実の中には『とんでも果実』という魔力値や魔法種を格段に増やしてくれるものが生るときがある。とガルジベスから聞いていたからだ。


 ジーニュアは結果だけをララに報告したが、いつものように魔力測定器は見せない。

 当然だ。防御魔法と風魔法が増えたが、ジーニアと比べると魔法種が少ないし、それに神聖魔法と回復魔法がないことが知られてしまう。


 成功したな。まさか新しい魔法が増えるとは思わなかった。風魔法か…。ジーニアの使えた魔法と同じものがまた一つ増えた。次は回復魔法が欲しい。そうすればもうララはもう必要ない。私が死ぬことも無くなる。あとは気長に待てばいい



「くくくく……ララもチャンスを見逃さず、一晩たって私に変化がなければ食べなさい」



 ジーニュアは冗談で言っていた。なぜなら、ガルジベスから悪魔と交じったジーニュアは、悪魔ほどではないが、魔素過多症になりにくい。うまくいけば2個目を食べても人魚の木にならない。それにララの結界のおかげで、人間が人魚の木になる悪い実は、落ちてしまった可能性もある。さりとてさすがに3個目を食べる勇気はなかった。


 ジーニュアも実験だったが、うまくいった。だが、ララは悪魔と交じっていないから魔力値が10万以上なければ2個目の魔力暴走に耐えられない。だから実験的な提案に乗らないと思っていた。



 ララは幻影の魔女ジーニュアが、本気で言ったと素直に受け取った。ララはまだ心のどこかで、ジーニアと信じている。



 私はしばらく小屋で過ごすことにした。1時間ごとに確認したが、ジーニュアに変化はない。



 ジーニュアは、1時間ごとに、確認しているララを見て、ほくそ笑んでいた。新たに力を手に入れた私の力が恐ろしくて、確認をしているに違いない。ジーニュアはララが素直に心配しているとは思っていなかった。




 昨晩は大喜びで大酒を食らっていたから、泥のように幻影の魔女は寝ていた。ララはジーニアに、「今からすぐに一番手前の実を食べに行け」と夢で言われた。本人が目の前で寝ているのに、夢で知らせていることに不思議だったが、ジーニュアには相談せずに急いで食べた。


 お母様は全く眠気に襲われなかったのに、私は睡魔に襲われた。今回は2度目なので、そのままなんとかベッドまで、這っていくことができた。


 魔力の木の果実は残り3個となった。



 直前の魔力値は#####に変わりなかったが、魔力限界値が17,828から50,478に大幅アップしていた。


 結果としてララは大幅に魔力が上がった。今回も魔力の木の果実が持つ魔法種の増加は、ララには全く効果がなかった。ララが限界値を増やしたいと願い、果実を食べたから、ジーニアより上に行きたくないという気持ちと、ジーニアより上に行かないと、ジーニアを守れない、という折衷案のような感じで、心の壁を払うのには貢献した。



 幻影の魔女ジーニュアも、ララの魔力が大幅に上がったことで、表面上は喜んだ。だが、ララのみが大幅に伸びたことで、悔しさを隠しきれず、歯ぎしりしている。

 ジーニュアは次のチャンスがあれば、絶対に回復魔法が使えるよう、残り全部を食べる気満々だった。


 残り全部を食べても人魚の果実にならない力を付けるか、人魚の木にならないと確実に分かるまでは、ジーニュアは残り3個は絶対に盗られてはならないと誓い、二人はすぐに魔力限界値が増えたので、魔法結界を張り直した。


 ララは養成ギブス2号を装着していた頃を思い出すと涙が頬を伝った。ダボダボの服から普通の服に戻れる。二人は久しぶりに小屋で食事をした。だが、養成ギブスをしていたことで、体力も上がり、今回魔力限界値が上がったことも確かだ。




「この肉は、先ほど人魚の木を倒木したときに、逃げていたイノシシです」


「焼く手間が省けたじゃないか。外は丸焦げだが、中はしっかりジューシーだな」


「はい、とても美味しいです」


「今日はいいことずくめだな」



 お母様は料理もできなくなっている。それにこれまでの所業はお母さんらしくない。……その疑いが……それに私に魔力測定器の魔力値を見せてはくれない。



 お母様は、側に真司がいないと、いままで通りの優しいお母様なのだが……。


 小屋での二人きりの食事。前のお母様とはまるで別人のようだが、あの頃がなつかしい……。


 お母様は、自分で進んで後片付けをしていたのに、今では食器は放置したままだ。


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