半魔
朝練をし、魔法学園に行き、授業が終わって帰宅すれば、夕食まで夕練、風呂に入る以外筋力養成ギブスを装着し、休日は終日魔法合戦をする。これを毎日の日課として繰り返している。そしてついに私の筋力は、力こぶができるほどになった。お母様は健康になったと喜んでいる。
このまま筋力の伸びが止まれば、普通の女性のようになれる。これまでは幼少時の栄養状況が悪かったこともあり、骨格がやや貧弱だった。それが今ちょうど、普通の女性のような骨格になれた。これ以上はもう、骨格も筋肉もいらないのだが……。
そう思っていたら、ピタッと骨格も筋力も、伸びが止まった。筋力養成ギブスは、私にとっては一般的な女性のような体になれたので、いい具合に作用した。これ以上筋力は増えなくていいが、減らないで欲しい。
そんなこともあり、うきうき気分で、また増えている『人魚の木』の倒木のため、『雄叫びの森』に向かった。
上空から見ると、真司が倒木した場所を越えて、人魚の木が浸食している。魔法結界は健在だ。二人で耳栓をして、幻影の魔女が火炎魔法で、人魚の木を一気に燃やす。神聖魔法は使っていない。そんなことをいちいちやっていられないほど増えた。
私も火炎魔法を使って焼き払うが、延焼を防ぐため水魔法で周囲に水を掛ける。
耳栓をしても『ギェ――――――!!!!』という叫びは耳に響く。いつ聞いても好きになれない。どこにも口がないのに、あの叫び声はどこから出ているのだろう。
今回は一気に半分を焼いた。人魚の木を全部焼きたいが、不審者を招き入れないという意味で、魔力の木の果実の防衛に寄与していることも確かだ。
疲れたので、持参したサンドイッチを食べることにした。久しぶりにお母様と二人だけの食事だ。邪魔者真司はいない。
ああ、この雰囲気がいい。最近のお母様は、まるで違う人のようだった。
私が感傷に浸っていると……。
「ドカ――――ン、ドカ――――ン、ドカ――――ン」
小屋に振動が……震度3?
小屋の外に出て、上空を見ると、魔族数人が結界を攻撃している。結界は破られていないが、さすがにこのままにしてはおけない。
「お母様、4人のようですから、2人ずつ相手をしましょうか?」
「ああ、いいね。私は男2匹を相手しよう。ララは女2匹の相手をしておくれ」
「はい、楽しみです。魔力限界が伸びるといいですね」
お母様は男2匹の後ろに転移し、火炎魔法を全力で放った。1匹は燃えかすとなっていたが、1匹は全力で逃げた。転移魔法で追いかけ、最近発明した火炎カッターで首を落とした。
私は二匹同時にウインドカッターを放って、胴体を二つにした。
お母様は早速魔力値を測定していたが変化がなかったようだ。私も同じく変化がなかった。悪魔を殺しても魔力値は上がらないようだ。それでも前回来た半魔よりも魔力値が低いことは結界の振動の状態から分かった。もし高ければ結界は破られていた。だが半魔はどうやって魔力値を伸ばしたのか?
そういえば魔力値測定は、別々にやっている。お母様が結果を見せてくれないので、見せてくれたら私のも見せると冗談交じりに言ったことで、結局一度も私の魔力値測定結果を見せることができていない。当然お母様の結果も知らない。二人とも結果だけを報告し合っている。
私の魔力値は未だに分からない。ただ、魔力限界値は機能が追加れさているので、それは出ている。
お母様は、「もしかしたら……」と呟いた。
どうも心当たりがあるようだ。
「他に方法があるのですか?」
「同類を食べることだ」
「魔族をですか?」
「たぶん違うだろう。効率はかなり悪いが、きっと魔物を生で食べている」
「え――――。生で――――――!!」
「焼いたら普通の焼肉だから、生の血が入った肉が必要だ」
「だったら急いで討伐に行かないとどんどん魔力を増大してしまいますね」
「そうだな。『楓』に頼んで半魔退治をしないといけないな」
「そうですね。真司にもやらせましょう。あいつ働かないから。楓の護衛は私がします。すぐ戦闘になる可能性があります」
楓は特種転移魔法しか使えないので、小学二年生と同じ体力しかない。ゴブリンでさえ倒すことなどできない。
魔力の木以外に、魔力値を増加する方法が見つかったが、魔物を生で食べることは遠慮したい。私は他の方法を探したい。
「さあ、戻って半魔退治の作戦を練ろうかね!」
「はい」
△△△
翌日、楓も参加して半魔退治に出発する。
「楓は無理しないでね」
「お姉ちゃん、わかった!!」
楓は初参加だから張り切っている。8歳少女は遠足気分だ。
「『楓』いいかい、怪我をしたら大変だから事前の準備は大切だよ。私なんか一に準備、二に準備と万全を期しているさ。ふぁっはは……」
「お母様……誰の言うことも聞かないで真っ先に攻撃して……」
ドカ――――――ン。バリバリバリ――――。
「結界は破壊した。私にかかればこんなもんだよ」
「はい、破壊しましたが、こちらを睨んでいる半魔がいますよ」
「あっははは、親玉のお出ましのようだね。転移魔法が使えるようだが、私と同じピンクの転移ポイントとは気に入らないね。だがこいつは強いな。二人で対処しないと危ない」
私とお母様は、上空でこちらを睨んでいる半魔の正面に立った。
「ふぇっへへ、お前らか、俺の子分を殺したのは?」
「あんたが、親玉かい?」
「ふぇ~、まさかあんたが、俺を邪魔しようとはなぁ。だが俺の敵ではないな。残りの『魔力の木の果実』は俺が頂く。元々我ら魔族の物だから、返してもらう」
「あんたは魔族ではないだろ。魔族にも人にもなれなかった半端者だ」
「お前がこの世に出しておいて、よく言うなぁ。人間世界に来たのはサタン様とその直臣だけだ。サタン様は復活してないし、四天王も未だ復活していない。今がチャンスだ。今のうちに俺が人間の世界を征服し、サタンどもが復活したときは、俺がやつらを皆殺しにしてやる。俺は魔族と、人間を統轄する、魔王となる男よ」
「私らに滅ぼされるのだから、それは無理だ。それにあんたは邪魔者なんだよ。私の汚点だ」
と言い終わる前に、お母様は大火炎爆裂魔法を放った。
「何しやがる――――――」
「お母様、半魔が怒っていますよ」
「先手必勝だ。私は火炎魔法主体で、どんどん責めるから、ララは私の攻撃の合間に、極力最低温度の氷結を撃ってくれ」
「はい!ガンガン行きます」
「おのれ――――――!!! 人の話を聞け!! 俺はまだ半分も話してないぞ。これからこの世界の統治について語るつもりだったんだぞ。お前だって、久しぶりだから、他の者だって、家来にしてやろうと思ったのに、俺は人の話を聞かないやつが一番嫌いだ。だから魔族も嫌いなのに――――。そう言えばお前は昔からずっとそうだった。もう一度、最初から話すぞ……」
ババババババ――――――ン、バリバリドカ――――――ン。
「人の話を聞けよ――――!!お前ら――――――!!!」
「お前は、人ではないだろ!!」
ババババババ――――――――ン、バリバリドカ――――――ン
ビュンビュンビュン――――――――!!!!!!!
ババババババ――――――――ン、バリバリドカ――――――ン
ビュンビュンビュン――――――!!!!!!!
ババババババ――――――――ン、バリバリドカ――――――ン
ビュンビュンビュン――――――――!!!!!!!
ババババババ――――――ン、バリバリドカ――――――――ン
ビュンビュンビュン――――――――!!!!!!!
「お、俺の体が……わ、割れる……。貴様ら何をした……俺の方が……魔力が上だった……はずだ。油断してしまった。俺の夢が……なんで自分のははお……に……」
半魔は体が細かく割れ、塵となって消えた。一対一であったら半魔の方が強かった。ただ間抜けであったことが勝利できた要因だ。
もし、構えてじっくり来られたら二人がかりでも危なかったかもしれない。たぶん魔力値は20,000に近かった。もし『魔力の木』の果実を食べられていたら負けは確定だった。危なかった。
「今のうちにやつらの残党を滅ぼしに行くよ」
「そうですね。一旦戻りましょう。あれ! お母様、涙が出ていますが?」
「あ、ああ、目に何かゴミが入ったかもしれない……」
楓の特殊転移魔法により、私、お母様、真司が到達した場所は、ザバンチ王国とミゼット神国連邦と、ガザール国の国境が接する中間地帯の森の中だった。
楓に『ワープ航法』だね、と言ったら怒った。
「私も転移魔法と言って欲しい!!」
拗ねた楓をなだめるために『特殊転移魔法』と名付けた。
楓はこの魔法名が気に入ったようで、それからはこの魔法名を使っている。
楓が転移した途端、真司は魔物たちに向かって、レーザービーム砲をぶっ放した。到達距離は5メートル、太さはボールペン2本分、真司はやっぱり猿以下の頭だった。
事前の打ち合わせでは、お母様が半魔を発見次第、転移して強い半魔を優先して殺し、真司はお母様の護衛をする。その繰り返しで半魔を優先して殺害し、もし半魔が逃げても覚醒しないように強い魔物を退治する。
でも……真司は台無しにした。
確かに強い魔物と強敵となる半魔は死滅した。だけど端にいた半魔は逃がしてしまった。まだ幼体だったからいいけど、逃げた先がガザール国なのよね。あのときのことを思い出してしまうから、追いかけられない。たぶん『謎のあいつ』には私たちではまだ勝てない。それにガザール国と戦争の火種になる。
半魔を失った魔物たちは、司令塔がいなことで、散り散りになった。私とお母様は魔物のうち強力な個体を中心に狩った。残ったのは弱い個体なので、脅威にならない。地元の冒険者や軍でも退治できるはずだ。
最後まで見ていただきありがとうございました。
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